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CISPR16に盛り込まれたFFT方式レシーバとプリアンプの使用法

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目次
  1. FFT方式を採用したレシーバについて
  2. 外部プリアンプの使用について

CISPR規格に従ったEMC測定をする上で、その試験方法、試験機の仕様などを規定している基本規格として、CISPR16規格があります。 CISPR16は試験結果の妥当性、再現性を確保する上でも非常に重要でその動向も知っておく必要があります。近年CISPR16も時代の流れに従って、アンテナの校正方法、今回本誌で特集しているFFT方式を採用したレシーバの仕様など新しい技術を盛り込んだ改定が進められています。一方で、すでに多くの試験所が使用しているプリアンプについてもCISPR16に盛り込むべく審議が進められています。紙面の都合上すべてを紹介できませんが、ここではCISPR16で盛り込まれたFFT方式を採用したレシーバを使用する上での注意点と、現在審議中のプリアンプの使用法に関する要求事項を紹介します。

FFT方式を採用したレシーバについて

CISPR16では、FFT方式を採用したレシーバの性能に関してテクニカルレポートとしてCISPR16-3に記載されています。内容の概要については本誌特集2に別途記述されているので、ここでは、実際に使用した場合の結果の見方について紹介します。

FFT方式では、複数の周波数データを同時に解析・表示することが可能です。スペアナスキャンとの違いを、2種類のパルスの取り込み結果を比較して見ていきます。

・スペアナスキャン設定
800~1000MHz,
RBW = 100kHz, Sweep time = 20s

・タイムドメインスキャン設定
800~1000MHz, IFBW = 120kHz,
Dwell Time = 10ms(Sweep time換算で20秒)

Case1は、測定するタイミングに必ずパルスが入るように設定しており、両者とも1回のスイープでエンベロープが正しく表示されています。それに対してCase 2では、各周波数の測定時間よりも、パルス間隔が長くなるよう設定しました。スペアナスキャンは、単一の周波数をスイープさせてデータを取得するため、パルスが入らなかったタイミングのデータが抜け、櫛状の波形が表示されます。タイムドメインスキャンは、ある周波数幅をスイープさせてデータを取得するため、歯抜けしたような波形が表示されています。今回はそれぞれの特徴をクローズアップするために、タイムドメインスキャンは1回しかスキャンしていません。しかし、複数回スキャンすることでエンベロープを描くことができるので、どちらが良いという判断は出来ません。注意すべきことは、この途中結果を最終結果としないようにすることです。

Case 1 繰り返し 100Hz, パルス幅 100us (Duty Cycle = 1%)

Case 2 繰り返し10Hz, パルス幅 100us (Duty Cycle = 0.1%)

外部プリアンプの使用について

外部プリアンプはもともとノイズフロアレベル近傍の信号を測定するために使用されるもので、ノイズフロアよりも十分に大きな信号を測定する場合には推奨されません。しかし、ノイズフロア近傍の信号を測定する場合でも、プリアンプ自体のノイズを適切に評価しておく必要があります。ノイズを評価する1つの指標として雑音指数(NF)が取り上げられています。雑音指数(NF)は下式で表されます。

プリアンプの場合は

と書かれます。レシーバとプリアンプが接続されたシステムでの雑音指数は下式のように表されます。この式から分かるように、システムのノイズフロアはプリアンプの増幅率と雑音指数に依存していることが分かります。よって、プリアンプの増幅率と雑音指数に気を配らないと、プリアンプの挿入により感度の低下(測定下限の上昇)を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

さらに、プリアンプに過大な入力があった場合には、プリアンプが飽和して入力レベルを適切に評価できないばかりか、出力波形がひずみ、スプリアスを生じる恐れもあります。以上の経緯によりCISPR/A委員会は、外部プリアンプを使用する場合はシステムの雑音指数及び、リニアリティを評価することをCISPR16-1-1 Annex (Normative)として盛り込む予定です。このように、プリアンプを使用する上での注意点がいくつか挙げられていますので、最後に主だったものを紹介します。

1. プリアンプは広帯域をカバーできる反面、パルスや狭帯域の過大な入力によって飽和しやすい面がある。
2. プリアンプを使用することで、ダイナミックレンジを狭めてしまう場合がある。
3. 帯域外入力でも、レベルが大きい場合にはスプリアスを生じる恐れがある。
4. プリアンプを追加することにより、不確かさのバジェットにGainの不確かさや、入出力ポートの不整合等も追加する必要がある。

ここで紹介させて頂いた通り、EMI測定を実施するときはスペアナスキャンやタイムドメインスキャン、プリアンプなどの特性を把握したうえで測定を進めることが必要です。