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優れた機能が搭載された次世代EMIレシーバ
N9038A MXE

株式会社東陽テクニカ EMCマイクロウェーブ計測部 営業第1グループ 田中 宏明

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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目次
  1. EMIレシーバの役割
  2. MXE型の新機能:タイムドメインスキャン(FFTスキャン)
  3. 新しく追加された優れた製品機能
  4. MXE型発売時からの優れた製品機能

Agilent Technologies社のN9038A MXE型は民生規格から自動車、MIL-STDのEMC試験に適応可能な、CISPR16-1-1に完全に適合した最新のEMIレシーバです。バージョンアップにより、多くの優れた機能が搭載され、更に速く、便利にEMI(エミッション/電磁妨害)測定が可能になりました。

EMIレシーバの役割

通常、EMI測定は最初にスペクトラムアナライザのPEAK検波を使い、広い周波数範囲を測定します。この測定により、どの周波数にどの位のレベルの電磁波があるかを確認することが出来ます。続いてEMIレシーバを使い、規制値を超えるような強い受信レベルの周波数にスポットを当てて、規格で要求されているQP(Quasi Peak:準ピーク)検波を使って最終測定を行います。QP検波は、測定に約1秒間の時定数を持っております。EMC測定では、数千から数万ポイントの測定が要求され、 QP検波で全ての周波数帯域を測定するには時間がかかり現実的ではありません。よって、スペクトラムアナライザを使った測定は時間短縮に非常に有効です。近年のEMIレシーバは、スペクトラムアナライザ機能を備えているものが多く販売され、その代表製品であるAgilent Technologies社のMXE型EMIレシーバに新しい機能が搭載されましたので、ご紹介致します。

MXE型の新機能:タイムドメインスキャン(FFTスキャン)

FFTとはFast Fourier Transformの略称でIBMの研究者のCooleyとTukeyが1965年に開発しました。フーリエ変換はアナログの無限長のデータを時間軸から周波数軸に変換するものですが、FFTはデジタルでかつ有限長のデータを演算処理で、時間軸から周波数軸に変換します。詳細は、本号の特集記事を参照願います。FFTのメリットはスペクトラムアナライザのように掃引して周波数軸に表示するのではなく、ある帯域幅の信号レベルを一度に取得して周波数軸に表示できます。ただ、FFTのためにはA/D変換が必要になり、この性能により周波数範囲が限られてしまいます。よって従来は、GHz帯の測定が要求されているEMC分野ではFFT機能は使われずに、kHz帯の振動や音の解析測定でよく使われていました。しかし、近年のデジタルプロセッサの処理速度向上によりA/D変換の性能が向上するとともに、ミキサ後のIF信号を使用することによりFFT機能がEMC測定にも活用され始めました。

このFFTスキャンを使用することにより、約1秒間で10MHz帯域幅のQP、PK、AVが同時に測定できます。測定対象物の最大放射レベルの位置をサーチする必要がない端子雑音、自動車、及び 自動車部品用のEMI測定において非常に有効です。 例えば、CISPRバンドC/Dの周波数範囲30MHz~1GHzをステップ幅30kHzで測定した場合、従来の周波数掃引スキャンで32,333secかかっていた測定が、FFTスキャンの使用で323secとなり、測定時間を1/100に短縮する事ができます。

新しく追加された優れた製品機能

①上限周波数44GHzへの拡張

8.4GHzモデルと26.5GHzモデルの2種類に加えて、44GHzモデルが新しくラインナップされました。これによりMIL-STD-461やFCC Part 15などの規格に適合したコンプライアンス試験を実施可能です。

②モニタスペクトラム・モード

EMIレシーバ・モード時に、ノイズのピーク信号周辺を高速でスペクトラム表示を行います。最大レベルノイズの周波数の特定が容易になります。

③APD(振幅確率分布)測定機能

CISPR16-1-1で要求されているAPD測定機能を搭載しました。

2014年夏頃に発行が見込まれるCISPR11.Eed6に製品規格として初めて採用される予定であり、電子レンジの妨害波測定などに用いられる機能です。

④LISN/AMN(擬似電源回路網)制御機能

端子雑音測定の際の、LISNの相の切り替えをリモート制御するための機能を搭載しました。

MXE型発売時からの優れた製品機能

①ストリップ・チャート

Agilent Technologies社独自の機能です。測定した信号の時間変動がグラフ上で容易に確認出来ます。最大で20分間のデータ記録が可能です。

②スペクトラムアナライザ・モードによる高速スイープ

内蔵のスペクトラムアナライザが非常に速くスイープできるので、民生の放射EMI測定が精度高く、かつ高速に行えます。例えば、周波数範囲30MHz-1GHz、ポイント数(周波数分解能)16167に設定した場合、ターンテーブル速度2rpmで回転させたとしても、角度分解能1.4°でデータ取得が可能です。

MXE型EMIレシーバを使うことにより、周波数範囲30MHz-1GHzを従来3~6つの周波数レンジで分割していたものを1レンジで測定でき、周波数精度を落とすことなく、高速で測定が可能になります。

③内蔵プリアンプの標準装備

周波数26.5GHzまでの内蔵プリアンプを標準装備しています。高額なプリアンプオプションは必要ありません。

以上の通り、積極的にお客様の要望を取り入れて製品をアップグレードし、当社としては今後も測定ソフトウェア、アンテナ、ケーブル等を組み合わせたEMC測定システムとして、先進のソリューションをお届けし続けることを約束致します。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ EMCマイクロウェーブ計測部 営業第1グループ

田中 宏明

2006年に東陽テクニカに入社。
EMC測定システムの営業を担当し、インド・東南アジアでも活動中。