時代の先端を行くFFT搭載EMIレシーバ
~FFTタイムドメイン手法による高速EMI 測定~

株式会社東陽テクニカ EMCマイクロウェーブ計測部 営業第1グループ 菅原 則和

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目次
  1. EMCとは
  2. EMIレシーバに対する規格要求
  3. EMIレシーバの変遷
  4. FFTタイムドメインの概要
  5. PMM社製タイムドメインEMIレシーバ9010F
  6. おわりに

EMCとは

EMC(電磁両立性)とは、各種の電子・電気機器が他の機器に電磁的な干渉を与えず、また他の機器から電磁妨害を受けても正常に動作する耐性を持つことで、互いに共存できる概念です。このようにEMCには機器が発生するEMI(電磁妨害)と機器が持つべきEMS/イミュニティ(電磁耐性)の2つの側面があります。

機器が発生するEMIをどの程度のレベルまで許容するか、またどの程度のレベルのイミュニティ能力を機器に要求するかに関しては、IEC(国際電気標準会議)やCISPR(国際無線障害特別委員会と呼ばれるIECの特別委員会)が、国際標準(規格)を制定しており、これらの規格を多くの国/地域が採用してEMC規制が行われています。

EMIレシーバに対する規格要求

EMI測定に必要な機器としては、妨害波を拾うトランスデューサ(例えば、受信用アンテナや擬似電源回路網など)とEMIレベルを測る測定器(EMIレシーバ)が最小限必要なアイテムになります。

EMI測定用の各機器に関する技術仕様(要求事項)は、CISPR16-1シリーズの規格に詳細に定められており、その中でEMIレシーバに対する要求事項はCISPR16-1-1に規定されています。

主な要求項目は次のとおりです。

〇入力インピーダンス&VSWR
〇基本特性(バンド幅、充電/放電時定数、過負荷率など)
〇正弦波入力時の精度
〇パルス応答特性
〇選択度特性
〇相互変調、内部雑音、遮蔽性能など

機器の適合試験を行う場合、コンプライアンスモデルと呼ばれるCISPR16-1-1に完全適合したEMIレシーバを使用しなければなりません。

EMIレシーバの変遷

基本的なEMIレシーバの構成はスーパーヘテロダイン式受信機と同じで、測定対象の妨害波の周波数に同調を取り、EMI電圧レベルを測定します。

このタイプのEMIレシーバによる測定では妨害波周波数ごとに行う必要があり、また全てマニュアルで行うため、測定に多大の時間が掛かっていました。

これを改善するため、広い周波数範囲のスぺクトラムを観測できるスペクトラムアナライザ(以下スペアナ)を使用して、限度値に近い妨害波をピックアップし、EMIレシーバで最終測定を行う手法が使われるようになりました。

さらに、スペアナとEMIレシーバを一体化し外部からPC&ソフトウェア(当社のEPシリーズなど)によって自動測定が行える“スペアナレシーバ”の登場によって、測定効率が大幅にアップしました。

このタイプのEMIレシーバの代表としては、アジレント社製のMXE(N9038A)型があります。

ちょっと横道にそれますが、スペアナはプリセレクタが無いためEMI測定には適さないとされてきましたが、一定の条件を満たす場合に限りスペアナを最終測定に使用できる、という改訂がCISPR16-1-1第3版に盛り込まれました。

電子機器のデジタル化に伴い、発生する妨害波も広帯域信号が増えており、また時間変動を伴うノイズが増えています。このようなノイズは測定の際に見逃す可能性が高くなります。

近年、高速かつ見逃しのない測定を可能にするため、FFT(高速フーリエ変換)を利用するEMIレシーバが導入され始めました。 FFTを利用すると、一つの周波数の時間軸上の重みづけ処理をしつつ複数の周波数範囲を一度に測定することが可能になるので、測定時間を大幅に短縮することができます。

今までは測定器として、スペアナとEMIレシーバが定義されていましたが、CISPR16-1-1第3版 において、 CISPR16-1-1の要求を満たした測定受信機であれば、どんなタイプのものであっても適合試験に用いることを可能とする改訂がなされました。

これは、CISPR16-1-1の要求を満たせば、測定受信機の中身は問われず、将来の技術の進化に対応する改訂と言えます。また、このような手法は一般にブラックボックスアプローチと呼ばれています。

尚、EMI測定では見逃しのない測定が必須であるため、この後でご紹介するFFTベースの測定受信機については「EMI測定においてFFTベースの測定器は、測定中は連続的に信号のサンプルおよび評価を行うこと。」という要求が第3版で追加されました。

FFTタイムドメインの概要

ここで、複雑化するEMIノイズ測定の高速化を可能にするFFTタイムドメイン手法の原理を簡単にご紹介します。

FFTベースのEMIレシーバのブロック図は下図のようになっています。

広帯域IFフィルタを通った時間軸上の波形を高速高分解能サンプリングのADコンバータに通します。次にリサンプルでバンド幅に応じてデータリダクションを行いデジタルモジュールでギャップなしのデータをRAMに保存し、メインプロセッサでFFT演算を行うことで一度に広い帯域(=セグメント。例えば10MHz分)のスペクトラムに変換を行います。

このプロセスを絵で追ってみましょう。

[Step1]周波数ドメイン

測定周波数範囲を連続的周期(例:10MHz)で分割し、フィルタします。

[Step2]タイムドメイン

フィルタ後の信号を時間サンプリングします。

[Step3]高速フーリエ変換

フィルタ後の信号をFFT演算によってタイムドメインから周波数ドメインに変換します。

[Step4]周波数ドメイン

各周波数レンジのスペクトル分布をつなぎ合わせます。

従来のスペアナスイープでデータを取得するタイミングは下図の通りでノイズの真の姿を表示させるためには、たくさんの繰り返しスキャンが必要です。

タイムドメインスキャンでは、データを取得するタイミングは下図のようになります。

1回の測定ではしっかり測定時間分を取得して表示させるため、測定時間以内の繰り返しの現象を捕えることができます。またひとつの同調周波数で1セグメント分を処理しますので、広いステップ幅でスキャンできます。しかも、どの周波数でも測定時間分モニタできています。したがって1回のスキャンで広帯域ノイズのエンベロープが記録できることになります。

PMM社製タイムドメインEMIレシーバ9010F

PMM社はイタリアにおけるEMI&RF試験機器のリーディングカンパニーで1981年には校正センターを設立し、ISO/IEC17025の認定も取得しています。従来型のスペアナレシーバである9010型をFFTタイムドメインレシーバにグレードアップした9010F型についてご紹介します。

特長は次の通りです。

〇CISPR16-1-1完全適合(コンプライアンスモデル)

〇1セグメントにつき16回のFFT演算を行うことでギャップレスのデータ処理が行われるため、どんな複雑な振る舞いをするノイズも見逃しません。

〇高速演算によりホールドタイム1秒以上が可能になり、1024個の周波数についてQP(Quasi Peak:準ピーク)、 CISPRアベレージ、CISPR-RMSなど6つの検波器による同時・連続測定が行えます。

〇FFTタイムドメインによりCISPR16-1-1に適合した測定を行うためにはホールドタイムを長くとることが必要ですがホールドタイム1秒の場合、CISPR Band A (9kHz~150kHz) で5秒、Band B (150kHz~30MHz)で20秒の測定時間でCISPR16-1-1に適合した測定ができます。

〇9010F型の測定周波数範囲は9kHzから30MHzですが、周波数拡張ユニットを使用することで最大18GHzまでのEMI測定が可能です。
・9030型:30MHz~3GHz
・9060型:30MHz~6GHz
・9180型:6GHz~18GHz

〇周波数拡張ユニットを使用してCISPRバンドC/D(30MHz~1000MHz)では測定時間はわずか14分と従来型の350倍(PMM社製品比)の高速測定を行うことができます。

〇信号のデジタル処理によりIFフィルタや検波器の劣化がなくなり、また光伝送によりコネクタや伝送のロスがないなど、不確かさを大きくする要素を減らせるため、測定の不確かさを小さくすることができます。

〇軽量、コンパクトでフィールドでのEMI測定にも対応できます。

おわりに

今後、FFTタイムドメイン機能で使用するADコンバータなどの性能向上により、より広帯域、高速処理が可能な製品が登場してくるでしょう。当社のEPシリーズEMI測定ソフトウェアも日々進化を重ね、より高速、正確で効率のよいEMC測定環境を皆さまにご提供できるよう、当社スタッフ一同 努力してまいります。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ EMCマイクロウェーブ計測部 営業第1グループ

菅原 則和

1989年入社以来、高周波計測部門で技術サポート、システム構築、ソフトウェア開発を担当。現在、営業第1グループを統括。