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携帯電話がどこでもつながるために
~認証試験ラボサービス~

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部 畑山 景介

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. 国内携帯電話開発の変遷
  2. 携帯電話の試験とは?
  3. 2つの携帯電話の認証試験
  4. 認証における試験ラボの役割
  5. 被試験対象の拡がり
  6. AT4 wireless社の世界的な試験サービス
  7. AT4 wirelessと東陽テクニカ

国内携帯電話開発の変遷

この20年ほどの間、携帯電話は急速に普及し、今日では生活に欠かせないツールの1つとなっています。1990年には1%に満たなかった普及率は、2000年には50%、 2011年には100%を超えました。利用者の裾野が広がるとともに、携帯電話に搭載される機能も大きく変わっています。 2000年代には、カラー液晶、カメラ付き携帯電話の販売が開始され、パケット通信によるemailやサイトの閲覧など、通話以外の機能が多数搭載されます。

また、2010年末に導入されたLTE(Long Term Evolution)方式がもたらす10Mbps(毎秒10Mビット)を超えるデータ通信速度は、高速通信との相性が良いスマートフォンやタブレットデバイスのシェアをわずか数年で飛躍的に高めました。現在はこれらのスマートデバイスとクラウドの連携により、新たなサービスが創造されています。

本特集では、これらの多機能化する携帯電話の開発過程で利用される、認証試験ラボサービスの概要をご紹介して参ります。

図1:携帯電話加入者数・普及率推移

携帯電話の試験とは?

携帯電話端末の試験とはどのようなものでしょうか?

図2:携帯電話の標準化・認証団体

現在の携帯電話は、3GPP( 3rd Generation Partnership Project)という標準規格に準拠したサービスが主流となっています。3GPPは、もともと第三世代(3G)移動体通信システムの標準化のために作られましたが、3.9Gや4Gと呼ばれるLTE の標準化も、引き続き3GPPで議論され、基地局、携帯電話端末についての仕様が決められています。

この標準規格から、網事業者(MNO: Mobile Network Operator)は、サービスに必要な仕様を選択し、基地局やコアネットワークと呼ばれるインフラ設備を構築しています。基地局は、想定されるユーザ数、端末の性能を考慮して敷設されており、都市部では十分なユーザを収容するために、より多くの数が設置されています。インフラと同時に、MNOは携帯電話も調達します。ここで携帯電話に求められるのは、MNOが期待する仕様・性能を満たすことであり、この期待はMNOが準備するネットワークの仕様によって異なります。この時携帯電話の仕様・性能を検証するために試験が必要となります。

3GPPで標準化される携帯電話の試験仕様は、『無線』と『通信プロトコル(シグナリング)』の2つに大別されます。前者は感度(どのくらい電波が弱いと圏外になるか)や、送信電力(送信されている電波のレベルは適正かどうか)を検証する目的があり、アンテナや回路設計のハードウェアの機能・性能を評価する試験です。後者は、通信プロトコルが仕様どおり実装されているかを検証します。例えば、携帯電話の電源を入れるとネットワークに端末の位置登録がされ、圏内になることや、音声発信が正常に動作する事を確認するもので、ソフトウェアを評価する試験です。

これらは、通常 実ネットワークではなく、試験用に開発された基地局シミュレータとの対向で試験されます。3GやLTEの開発当初は、無線やシグナリングの開発、検証のために多くの時間を要し、評価ツールもひっ迫していました。しかし昨今はチップ、モジュールが占める領域が増え、数年前と比較すると、メーカが開発・評価に掛ける時間が短くなっています。

2つの携帯電話の認証試験

携帯電話業界における主要な認証試験団体としては、欧州、アジアを中心に認 証を行うGCF(Global Certification Forum)と、主として北米市場向けに認 証を実 施 するPTCRB(PCS Type Certification Review Board)の2つ の団体が挙げられます。

GCFは1999 年に“ test once, use anywhere”(一度試験すれば、どこでも利用可能)という精神のもと、GSMAの内部組織として設立された団体です。MNOごとに独自の試験を課すのではなく、各MNO向けに試験結果を共用できるフレームワークを作ることを目的にしています。メーカからすると、複数のMNO向けに試験を複数回実施する手間が省けます。

陸続きで多くの国と接し、移動も頻繁である欧州では、早くから相互接続性を保つことが必要とされてきました。今は一般的になった国際ローミングサービスなども、このような標準化団体があるおかげで、グローバルな相互接続性が保たれています。 GCFには世界の主要な網事業者や、インフラメーカ、デバイスメーカ、試験ラボが参加し、世界で最も成功した業界団体の一つとも言われており、2013年には436ものモデルがGCFの認証を受けています。 GCF認証試験の内容は3つあります。シミュレータ対向で仕様に準拠するかを検証するコンフォーマンス試験(Conformance Test)、実網で複数の携帯電話網との相互接続性を検証するフィールド試験(Field Trial)、相互接続性を検証するIOP試験(interoperability Tests)です。コンフォーマンスは前述の3GPPで規定された無線やプロトコルの試験をシミュレータ対向で実施し、フィールド試験では、複数の認定されたMNOの実サービス下で、携帯電話が正常に利用できるかを検証しています。

一方PTCRBは、北米のMNOのネットワーク上で利用されるデバイスの、認証取得フレームワークを提供するために1997年に設立されました。PTCRBはGCFと同様の活動をしていますが、PTCRBは北米のオペレータの影響を強く受けており、米国で利用されている周波数帯域(バンド)についての認証を目的としています。

GCFやPTCRBでは、表1のような外部団体の試験仕様を用い、独自の認証基準を定義しています。

表1:GCF・PTCRBで利用されている仕様の名称と用途

認証における試験ラボの役割

PTCRB、GCFの2つの認証団体は、認定された外部ラボの試験結果のみをデバイス認証の対象としています。自社で認定試験ラボを立ち上げない限り、メーカは外部試験ラボに認証取得を依頼しなければなりません。PTCRBでは、認定ラボの役割がより大きく、試験対象の携帯電話の機能に基づく試験項目の決定もラボに求められています。

現在、このような認証試験ラボはアジアでは台湾に多く存在し、台湾のOEMメーカやアジアの携帯電話、デバイスメーカから試験を受託しています。

一方、国内のMNOは、現在認証ラボでの認証取得を必ずしも義務化してはおりません。そのため、日本国内での認証試験ラボの利用ニーズは低く、日本国内にGCF/PTCRB認証ラボはありません。

被試験対象の拡がり

元来、携帯電話は『通話するため』のデバイスでしたが、昨今良く耳にするようになったM2M(Machine to Machine)は、携帯電話ネットワークをマシン同士の通信のために使うことで、新たな市場の創造が見込まれています。これは、モジュールが安価になり、ネットワークの容量が増えたことで実現されており、今後は自動車、生活インフラ、エネルギー、医療、セキュリティなど、さまざまな分野への応用が検討されています。

ある世界的なオペレータでは、M2Mデバイスやビジネスデバイス向けに、独自試験プログラムを新たに作成しており、タブレット、PC、業務用ハンディ端末、テレマティクス、電子書籍などさまざまなデバイスが対象となっています。このプログラムは、各国の強制規格試験や、アンテナ性能試験などを必要最低限な項目として定め、デバイスの機能によって、網事業者特有試験、フィールド試験などを追加で要求しています。このようなプログラムによって、GCFやPTCRBのような試験の透明性を確保し、メーカにとって参入障壁を下げる狙いを持っています。

AT4 wireless社の世界的な試験サービス

PTCRBやGCFの認証試験ラボは、試験設備の導入だけでなく、スキルを持ったエンジニアの確保や、各標準化団体に参加し、最新の試験動向に追従することなど、多くの活動が必要です。

AT4 wireless社はスペイン アンダルシア州のマラガ市に本社を置く、世界的な認証試験ラボです。

1991年からテレコム分野を中心に試験ラボサービスを提供しており、スペイン以外に米国、台湾、チリに自社の試験拠点を有しています。前述のGCF, PTCRBの認証ラボであるとともに、BluetoothやNFC、 Wi-Fiなど様々な分野で認証試験サービスを提供しています。

図3:世界的なAT4の試験ネットワーク

GCF/PTCRB認証試験以外に、AT4は2つの特長的なサービスをご提供しています。 1つはWCS(Worldwide Compliance Service)と呼ばれる世界各国の強制規格試験です。CEマークやFCC、また日本の技適認証などがこれに当たり、Bluetooth、 Wi-Fi、セルラーなどの無線・EMC性能が規格範囲内にあるかを検証しています。

特に中東、アフリカ、南米などの国では、言語・文化の違い、仕様のあいまいさなどにより、認証取得のために問題が発生し、取得までに時間を要することがあります。 AT4ではこれをスペインの専任チームが管理し、現地のエージェントを通じて認証取得完了までお手伝いしています。

もう1つはMNOの認証試験サービスです。 PTCRBやGCFの認証以外に、MNOは独自の性能指標を定めています。これにより、認証試験では確認されていないエンドユーザの体感する性能を検証しています。 AT4では北米のAT&TやT mobile、欧州と南米のTelefonicaなど、複数MNO向け認証試験サービスを実施しています。

図4:世界各国強制規格試験サービスと対応試験テクノロジ

AT4 wirelessと東陽テクニカ

当社は2011年にAT4 wireless試験ラボサービスの国内代理店業務を開始し、これまで日本国内のお客様向けに複数の携帯電話の評価プロジェクトをご利用頂いて参りました。当社が窓口となり、台湾や米国、スペインのAT4各拠点での試験サービスや、認証取得をご提供しております。さらに、海外のAT4拠点で試験を実施するだけでなく、2013年2月東京日本橋・東陽テクニカテクノロジー・インターフェースセンター内に、『AT4 wireless Japan Authorized Lab』 を開設し致しました。これは、NTTドコモ認定試験ラボの立ち上げのためで、同年7月には、アンテナ、プロトコル試験認証の認定ラボとして、認証試験サービスを提供しております。

製造メーカが売り上げを伸ばすためには、国内市場だけでなく、海外市場での販売を伸ばすことが必要不可欠です。北米市場、欧州市場に携帯電話や無線機能を持ったデバイスを販売するためには、 PTCRBやGCFの認証取得、強制規格の取得が必須となります。

高まる認証試験のニーズに対して、当社はAT4と連携し、よりよいサービスをご提供するために、国内の設備の拡張を検討して参ります。

図5:AT4 Japan labの設備の一部

図6:AT4 Japan lab ロゴ

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部

畑山 景介

2004年入社以来 無線通信分野の計測器販売を担当。
現在は認証ラボサービスの販売に従事。