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~電池の内部を知る~ 電気化学測定システム「SPシリーズ」

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部 樋口 望

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目次
  1. リチウムイオン二次電池の中を知る
  2. 革新型電池の研究
  3. 電池評価に必要な機能とBio-Logic社の最先端技術
  4. お客様のニーズを日々追求

今回ご紹介する製品は、バッテリー、燃料電池、腐食・防食の評価に必要になるBio-Logic社の電気化学測定システム「SPシリーズ」です。次世代二次電池の評価に欠かせないテクニックを標準搭載しているため、最適なソリューションを提供することができます。

リチウムイオン二次電池の中を知る

リチウムイオン二次電池(二次電池:充電が行えて、繰り返し使用することができる電池)は携帯電話やノートパソコンの駆動電源として使用されており、生活していく上で欠かせない物になっています。最近では二次電池の容量も大きくなり、携帯機器から自動車の動力源や家庭のバックアップ用の電源にも応用され、さらなる需要の拡大が見込まれています。一方、リチウムイオン二次電池は他の電池と比べ高いエネルギー密度を持つため、劣化状態によっては発火の危険性もあります。そのため、容量が大きくなるに従い、安全性も重要視されてきています。そして二次電池があとどれくらい使用できるか、現在の充電量はどれくらいかという情報を得ることも重要です。上記の2点は特に自動車に組み込む際には不可欠となり、近年その評価手法が注目されています。電気化学インピーダンス分光法(Electro-chemical Impedance Spectroscopy :EIS)は現在注目されている電池の内部を知るための評価方法の一つです。EISは電池内部のインピーダンス(交流信号を用いた電気抵抗)を測定することにより、その値から電池の劣化モードや電池の寿命を間接的に評価することができます。そしてEISが注目されている最大の理由は、非破壊測定が可能であるということです。二次電池に負荷を与えない信号を印加するため、使用中の二次電池でも電池の内部を知ることができます。

革新型電池の研究

現在主流になっているリチウムイオン二次電池は他の電池(ニッケル水素電池、鉛蓄電池)と比べ同じ体積、重量でより高いエネルギー密度を持つという利点があります。しかし、コバルトなどのレアメタルが使用されているため、資源量とコスト面での課題が残ります。それを補完するため、現在、ナトリウムやマグネシウムなどを使用した二次電池や金属-空気電池(これらをまとめて革新型電池と呼ぶ)の開発が盛んに行われています。ナトリウムやマグネシウムを使用した二次電池はエネルギー密度がリチウムイオン二次電池よりも劣りますが、資源量、コスト面で改善が見込めます。金属 -空気電池は理論上リチウムイオン二次電池よりも高いエネルギー密度を得ることができます。しかし、革新型電池はまだまだ解決すべき課題が山積みであることも事実です。例えば、ナトリウムイオン二次電池は最適な(安全で且つレアメタルを使用しない)電極、電解液の組み合わせが発見されておらず、エネルギー密度、サイクル特性といった面で課題が残っています。

上記の背景もあり、革新型二次電池の研究では、正極・負極・電解質の電池の基本構成に加え、参照電極と呼ばれる電極を電池系の中に挿入(これを3電極式セルと呼ぶ)しての評価が一般的です。参照電極を入れることにより基準の電極に対して正極および負極の情報を個別に評価することが可能なため、どちらの電極が悪影響を及ぼしているかを詳細にモニターすることができます。

電池評価に必要な機能とBio-Logic社の最先端技術

前述のとおり、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化および実用化に向けた劣化診断や革新型電池の開発は最近の注目トピックスです。これらの評価には電気化学測定システム(ポテンショガルバノスタットおよびインピーダンスアナライザ)が必須の計測器です。ポテンショガルバノスタットは二次電池の充電/放電の試験を行うことができ、インピーダンスアナライザでは電池内部のインピーダンス測定を行うことができます。これは一般的な評価方法なのですが、各種電池の測定において、お客様より下記の要望が新たに寄せられています。 Bio-Logic社製の電気化学測定システムは最先端技術により、それらに対応しています。

1)大容量リチウムイオン二次電池のインピーダンス測定(インピーダンスの低いリウムイオン二次電池の測定)

これまで、二次電池のインピーダンス測定は小容量タイプ(研究レベル)では一般的に行われてきましたが、近年では自動車用の二次電池など実際に使用される大容量電池のインピーダンス測定も主流になりつつあります(理由は前述のとおり)。具体的には、現状容量はエネルギー密度60~100Wh/kg、NEDO指標によると2020年に250Wh/kgを目標に開発が進んでいます。しかしながら、小容量タイプで主流であった測定方法を大容量タイプへ適用するためには、従来の電気化学測定システムでは次の2点の理由により、対応できませんでした。

①電池のインピーダンスが低すぎて、流れる電流が電気化学測定システムの許容値を超えてしまう。
②市販の電流増幅装置(ブースター)を用いて電流を増幅させても交流周波数に対して十分な電流が得られず、インピーダンス結果に大きな誤差が生じる。

Bio-Logic社はこれらの問題を解決するブースターを開発し、大容量二次電池のインピーダンス測定に対応することを可能にしています(図1)。

図1:10Ahリチウムイオン二次電池のインピーダンス測定結果

2)正極・負極のモニター

革新型二次電池の材料研究は未知数な部分が多く、3電極式セルで正極・負極を個別にモニターする必要があります。3電極式セルを使用すれば、正極部分の充電 /放電の状態(主に電圧で評価)、負極部分の充電/放電の状態を個別で評価することができ、材料選定のフィードバックにつながります。従来の電気化学測定システムでは参照電極付きの電池を測定する場合、正極の状態または負極状態のいずれかの情報しか測定できませんでした。Bio-Logic社製の電気化学測定システムは二つの電圧計が組み込まれており、上記の3電極式セルにおいても、正極・負極の状態をモニターすることが可能です(図2)。

図2:3電極式セルの配線図と測定結果

お客様のニーズを日々追求

Bio-Logic社および当社では、お客様に最新の技術を提供するために、ご要望を常日頃からヒアリングしています。測定でお困りのこと、こんな機能があればというご要望がございましたら、是非私共へご連絡ください。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部

樋口 望

2009年東陽テクニカに入社。電気化学測定システムの販売を担当。