~実走行燃費測定支援からADAS/自動走行システム向け新試験手法の開発検討まで~

株式会社東陽テクニカ 機械制御計測部 統括部長 袋 晴夫

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目次
  1. 斬新なデザインによるハブ結合式シャシダイナモメータの開発経緯
  2. 安価なコストにて、短期間での導入を支援
  3. 制御技術のさらなる改良に伴う“Road to Lab”の実現
  4. お客様の様々な課題と新たな要求事項を解決しながら、試験アプリケーションを拡充
  5. 新たな試験アプリケーションの開発に向けた活動

ハブ結合式シャシダイナモメータシステム「ROTOTEST Energy」は、自動車業界における実車両を用いた燃費測定や振動騒音試験に不可欠な試験装置です。ステアリングを操作しながら実走行模擬が簡便にできる可搬タイプシャシダイナモメータシステムです。

自動車産業で実車両を用いた試験計測に従事するエンジニアと「ROTOTEST Energy」を活用した多様な試験アプリケーションについて議論を重ねながら、お客様のニーズを満たす新たな技術・システムの開発、ならびに、新たな試験手法の提案を行っています。

斬新なデザインによるハブ結合式シャシダイナモメータの開発経緯

1991年にトラックで有名なScania社出身のエンジニアによる試験コンサルティング企業としてRototest社は創業し、コンサルティング業務に必要な計測技術として、ハブへ直接結合可能なダイナモメータシステムの技術を1993年に開発しました。この技術は、簡便なインストールで高い繰り返し測定精度を実現したハブ結合式シャシダイナモメータとして2003年に製品化され、継続的に改良が行われて、2005年に「VPA-RX」としてリリースされました。 2011年に世界的なリサーチおよびコンサルティング会社であるFrost & Sullivan社から「New Product Innovation Award」を受賞しました。

安価なコストにて、短期間での導入を支援

シャシダイナモメータシステムとは、一般的に、自動車などの駆動輪を道路路面の代わりにシャシローラ上に乗せて疑似的に走行試験を行うためのシステムであり、再現性の良い自動車の走行試験に用いられています。しかしながら、タイヤとローラ表面上のグリップ状態が試験計測の精度に影響を与えやすく、さらに、右図のグレー部に記載のとおり、大規模な設置工事が伴う設備となります。一方、Rototest社製ハブ結合式シャシダイナモメータは、駆動輪のハブに直接結合するため、測定の繰り返し精度に優れているという特長があり、台車機構の可搬式であることから、専用試験施設が不要で、フラットな床があり作動に必要な電源環境が整備されているガレージ内において簡便に使用できます。これらの特長は、ローラ式ならびに固定設置型ハブ結合式シャシダイナモメータシステムと比較して、高い再現性を実現できる試験装置として、より安価で短期間に導入することを可能としました。

ハブ結合式シャシダイナモメータとローラ式シャシダイナモメータの設備レイアウトの違い

制御技術のさらなる改良に伴う“Road to Lab”の実現

油圧方式のモデル「VPA-RX」では、駆動輪のエネルギー吸収のみをサポートしていました。しかし、数多くのお客様からのニーズに応えるため、複雑な走行負荷状態をシミュレーションできるよう電動モーター方式を採用、電子制御技術も新たに開発して刷新し、ハブ結合式シャシダイナモメータシステム「ROTOTEST Energy」を2008年にリリースしました。

モーター方式によるハブ結合式シャシダイナモメータシステム「ROTOTEST Energy」

この「ROTOTEST Energy」は、正回転、逆回転、吸収と回生の第4象限で作動できるため、実走行状態を繰り返し再現させることが可能です。2015年には再びFrost & Sullivan 社から「PRODUCT LEADERSHIP AWARD」を受賞し、数多くの先進的な自動車研究開発分野に導入されています。

2015年「PRODUCT LEADERSHIP AWARD」受賞

お客様の様々な課題と新たな要求事項を解決しながら、試験アプリケーションを拡充

「ROTOTEST Energy」は、ハブに結合するドライブユニットの動作環境に応じた3つの基本パッケージを提供しています。シャシダイナモメータの新規増設や老朽更新の需要に幅広く対応できるよう、ご提案しています。

標準モデル

(動作環境温度:+5℃~+40℃)

環境試験対応モデル

(動作環境温度:-35℃~+55℃/IP54保護等級)

低騒音モデル

(動作環境温度:+5℃~+40℃/45dBA@100km/h走行速度状態)

新たな試験アプリケーションの開発に向けた活動

「ROTOTEST Energy」は、下記の特長 も有しており、昨今の自動車産業で注目を浴びている“先進運転支援システム(ADAS)” や“自動走行システム(ADUS)”、新燃費測定法の“WLTP”や“RDE”への応用に期待が集まっています。

・ステアリング操作が可能
・極めて低慣性であり、応答性が高い
・4輪独立制御が可能

特に国内では、電子制御の複雑さが対数的に増加した試験車両を、安全に走行させ評価することが求められています。このような要求に対して、当社とRototest社は、「ROTOTEST Energy」の特長を活用した試験システムの開発を行うと共に、新たな試験方法のご提案も始めております。たとえば、トルクベクタリングと呼ばれる車両走行制御技術(自動車のコーナーリング時のステアリング操作性を改善する技術)の評価検証もその一つで、4輪独立で、路面とのグリップ状態を模擬させながら、ステアリング操舵状態も確認できる「ROTOTEST Energy」に注目が集まり始めています。

注釈
先進運転支援システム:ADAS(Advanced Driving Assistant System)
自動走行システム:ADUS(Automated Driving for Universal Services)
新燃費測定法:WLTP(Worldwide harmonized Lightvehicles Test Procedure)
実路走行排ガス試験:RDE(Real Drive Emission)

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 機械制御計測部 統括部長

袋 晴夫

輸送機器産業(自動車・鉄道)での試験計測に対する多様な課題を解決する営業推進業務を担当。近年は自動走行システム分野に注目し、活動中。