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すべてのモノがつながる世界へ ~Internet of Thingsと認証サービス~

株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー 中村 敬一郎

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. IoT(Internet of Things)とは
  2. IoTのためのさまざまな規格
  3. 注目の集まるIoT規格 ― LoRaWAN
  4. 公式認証試験ラボの役割
  5. LoRaWAN試験の概要と東陽テクニカ/DEKRAの役割
  6. LoRaWAN関連サービス ― 型式認証
  7. おわりに

IoT(Internet of Things)とは

最近よく新聞や雑誌、テレビで目や耳にするIoTとは何でしょう? Internet of Thingsの略で、「モノのインターネット」と訳します。あらゆるモノがインターネットに接続され、そしてそれぞれが情報を提供することで、今までできなかったことや、分からなかったことをできるようにする概念です。そのため、私たちの生活やビジネスも大きく変わってきました。

既に、このIoTは我々の生活や仕事の一部に浸透しています。テレビなどの家電製品、電気やガスなどのメーター、車などの乗り物、工場の産業機器など多くの電子機器が情報を提供し、その情報をもとにしたさまざまなサービスが生まれています。

総務省の発表1)によると、2015年時点で既にIoTデバイス数は世界中で150億個以上あり、東京オリンピックが開催される2020年までにはその数は約2倍の300億個まで増大します。以前はPCやスマートフォンなどの通信機器が主役で、引き続き成長が期待されます。しかし今後、それを大きく越える成長率が見込まれているのが、自動車、産業機器、医療機器分野のIoTデバイスです。ここ数年で私たちが想像できないほどさらに多くのモノがインターネットにつながるでしょう。

IoTのためのさまざまな規格

IoTを実現するために、さまざまな通信技術が利用されています。Wi-Fi、Bluetooth、 3G(第3世代移動通信システム)、LTE(Long Term Evolution:3.9G)、4G (第4世代移動通信システム)などを利用した多くの機器が既にサービス提供され、そしてインターネットの世界につながっています。また、5G(第5世代移動通信システム)と呼ばれる、10Gbps以上の通信速度、エンドツーエンドで1ミリ秒の低遅延、 99.999%の信頼性を目標とした通信方式が、2018年6月にフェーズ1、2019年12月にフェーズ2 の仕様策定完了を目指して3GPP(3rd Generation Partnership Project)にて作業が進められています。 IoTにはさまざまな規格と特徴がありますが、すべてのモノがインターネットに接続するためには、今までとは違う要件が求められており、それを満たすため、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる無線通信技術が必要となってきます。LPWAとは、通信速度は遅いですが、その名前の通り、低消費電力で広いエリアを対象にできる、 IoTに特化して利用するための技術です。ボタン電池や乾電池で数年単位の動作が実現可能といわれており、農業や漁業、林業、畜産などの広大なエリアが範囲となるような産業や、気象状況や構造物の情報などのセンサーによる情報提供サービスは、このLPWAにより新たなビジネスへと発展することが期待されています。

そして、このLPWAにもさまざまな規格があり、携帯電話キャリアが認可を受けた周波数帯域を用いた規格と、免許が不要なISM (Industry Science Medical)バンドを用いた規格に大別されます。

現在は規格が乱立している状態ですが、今後淘汰され、集約していくと推測されます。

注目の集まるIoT規格 ― LoRaWAN

LoRaWANは、全世界のIoT関連企業400社以上が加盟するLoRa Allianceが仕様策定とエコシステム拡大を推進しているオープンな通信規格で、10年近いバッテリー寿命や数キロ以上の通信距離などの仕様上の特徴を持ちます。LoRaとはLong Rangeから取られており、独自のMACプロトコルです。これはセムテック社が開発したLoRa変調を利用しており、都市部で3km程度、田園部で8km以上の通信実績があり、日本では920MHz帯を使用します。 LoRaWANは下図のように、エンドデバイス、ゲートウェイ、ネットワークサーバで構成されます。ネットワークサーバがLoRaWANネットワークを制御し、エンドデバイスからセンサーデータを集約します。そして、そのデータをそれぞれのアプリケーションが利用します。 LoRaWANの最新仕様2)は、2016年 7月にリリースされた、LoRaWAN Specification V1.0.2およびLoRaWAN Regional Parameters V1.0です。これらの仕様書はLoRa Allianceのホームページから、非会員でもダウンロードできます。

図:LoRaWANのイメージ

これまでは、このLoRaWANは欧米を中心に成長を遂げてきました。しかし、上記の仕様書において、日本、ブルネイ、カンボジア、香港、インドネシア、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムのアジア11か国にも対応する仕様(AS923)ならびに他の地域の仕様が追加され、現在日本でも非常に関心が高まっています。また、LoRaWANのエンドデバイスには、下表のようにClass A、Class B、Class Cの3つの通信クラスがあります。これらはそれぞれのサービスや用途に合わせて使われますが、現在のAllianceの中ではClass Aを中心に仕様が策定されています。しかし、日本のエンドデバイスメーカーやオペレーターそしてサービス利用者はClass Bに対しても非常に関心を持っており、今後彼らメンバーが率先して仕様策定に力を注ぐことで、これについてもAlliance内で協議されていくことでしょう。

表 :エンドデバイスの通信クラス

公式認証試験ラボの役割

LoRaWAN認証は、LoRaWANネットワークとの相互接続性を保証します。また、認証を取得することでLoRa Allianceの認定ロゴを製品に使用することができ、さらにLoRa AllianceのWebサイトに認証済み製品として表示されます。これらによって、コンシューマーやオペレーターは安心して、認証済みの製品を利用できます。 LoRa Alliance以外にも、たくさんのAllianceや認証団体は存在しますが、これらはいずれも、公式認証試験ラボの試験結果をエビデンスとしているため、各メーカーは自社で公式認定ラボを立ち上げない限り、外部の公式認証試験ラボに認証取得を依頼しなければなりません。特に、北米市場向け携帯電話の認証を実施するPTCRB(PCS Type Certification Review Board)では、公式認証試験ラボの役割が非常に大きく、試験対象である携帯電話の機能に基づき試験項目を決定することも求められていて、第三者機関として非常に重要な役割を担っています。

このような認証試験ラボは、アジアでは中国や台湾に多く存在し、台湾のOEMメーカーやアジアの携帯電話、デバイスメーカーから試験を受託しています。

国内でも、BluetoothやWi-Fiなど、普及の進んだ仕様に対する認定試験ラボは存在し、そこで認証を取得したデバイスは各団体のロゴを利用でき、コンシューマーや企業はそれを品質保証としてデバイスを選択しています。

また、携帯電話のMNO(Mobile Network Operator)でも認証意識は高く関心も非常に高まってはいますが、他のAllianceと同じように義務化はしていません。そのためまだ利用ニーズは低く、認証試験ラボも限られているのが現実です。

LoRaWAN試験の概要と東陽テクニカ/DEKRAの役割

当社は、DEKRA(旧AT4 wireless3))社と協業しており、日本では2011年から国内代理店業務を開始、2013年に東陽テクニカ・テクノロジーインターフェースセンターに共同で「東陽テクニカ/DEKRA日本ラボ」を開設しました。そして、2016年11月に日本で初めての公式認証試験ラボに認定され、LoRaWAN認証サービスを開始しています。

2017年3月時点では、LoRa Allianceで承認されている認証プログラムは、EU地 域 向け863-870MHz帯およびUS地 域 向け902-928MHz帯 のClass Aデバイスのみです。Class B、Class C、 LoRaWANゲートウェイの認証プログラムはまだ開発されていません。また、EU地域以外の地域の認証プログラムも開発が進められている状態です。

日本を含むAS923仕様の認定プログラムはLoRa Allianceからリリースされていませんが2)、当社およびDEKRA社は、策定に積極的に取り組んでいます。リリースに先行してAS923向け事前テストサービスを開始しており、リリース後には速やかに正式認証試験サービスを開始できるよう準備を着々と進めています2)

LoRaWAN関連サービス ― 型式認証

また、無線デバイスを販売・使用する際に考慮に入れておく必要があるのが、各国の型式認証(Type Approval)です。前述のLoRa Allianceを含む各業界団体が定める認証試験は、デバイスが業界団体の定める仕様を満たしていることを確認するための試験ですが、一方、型式認証は、各政府機関が無線通信を安全に効率よく利用するために法規で定めている認証のことで、無線デバイスは対象国および地域の型式認証を必ず取得しなければなりません。代表的な例としては日本の技術基準適合証明および工事設計認証(通称:技適)や、北米のFCC、欧州のCEなどが挙げられます。型式認証を滞り無く取得するためには、製品の企画段階から各国の最新の法規および関連情報を正確に把握することが肝要です。製品化の最終段階で実施される型式認証において、製品が法規を満たさないことが判明し仕様の大幅修正が必要となると、市場投入スケジュールの見直しを迫られることにもなりかねません。

それではどういったことに気をつけておくべきでしょうか。そのポイントは実に多岐にわたります。技術的にはまず、無線テクノロジーは搭載が許されているものか、使用できる周波数はいくつか、を抑えておくことが重要です。例えばLoRaWANデバイスも、国・地域毎に使用できる周波数帯、ならびに使用が認められている周波数は異なります。また、販売戦略的にはモデル名の付け方もポイントになり、 “型式”認証と名付けられているように、モデル名が変わると全く別の機種とみなされる国も多く、認証を一から取り直す必要がある場合もあります。その他、認証取得の費用と期間、現地試験の有無、現地代表者の要否、認可証の有効期間は、最低限抑えておきたい点です。

しかし、法規による要求事項は国毎に異なり、不定期な改正も行われるため、常に最新の情報を入手し続けるには労力・費用・時間を要します。また、法規情報が現地語で書かれている場合もあり、言語の障壁もあります。東陽テクニカ /DEKRA日本ラボでは、型式認証に対して専門のスタッフが日々情報収集や各国の当局との折衝を行っており、200を超える国や地域における型式認証取得の代行サービスを提供しています。

おわりに

当社は今後もDEKRA社と協力して、LoRaWAN認証サービスを推進し、併せてそれ以外のIoT技術を用いた認証サービスも同様に開発・提供してまいります。また、国内・国際型式認証サービスを通じて、法規制の遵守にも貢献してまいります。

1) 出典:「平成28年版 情報通信白書」(総務省)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc121100.html
2) 2017年5月30日現在
3) AT4 wireless社は2017年4月にDEKRA社へと社名変更しました。DEKRA社(本社:ドイツ)は自動車・防爆・医療分野の大手試験ラボです

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー ラボサービス ビジネスユニット

中村 敬一郎

2015年入社来、無線通信分野のラボサービスを担当。現在は国内向けラボサービスと共に、LoRaWAN認証サービスの提供および推進に従事。