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高出力充電規格で世界を席巻するか。
日中共同開発「ChaoJi」の現状と未来

CHAdeMO協議会 事務局長 吉田 誠 氏

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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目次
  1. CHAdeMO協議会について
  2. ChaoJiについて
  3. 今後の展望について

世界中で環境問題への対策が進む中、自動車の電動化が加速しています。その一方、EVに欠かせない急速充電器の規格は現在も統一がなされておらず、それがEVの充電インフラ整備の足かせになっているのではとの危惧もあります。

しかし、そんな急速充電器の勢力図を変えると期待されている新しい充電規格があります。それが日中共同開発の「ChaoJi」(チャオジ)です。

今回は今注目されているChaoJiについて、規格発行や開発を行うCHAdeMO(チャデモ)協議会事務局長の吉田誠氏に、なぜChaoJiが期待されているのか、その特徴や普及に向けての取り組みなどについてお話をお聞きしました。

CHAdeMO協議会について

CHAdeMO協議会の設立経緯とミッションをお聞かせいただけますか︖

CHAdeMO協議会の設立は2009年、今から10年以上前です。日本発の急速充電の規格を作り、それを広め、EVの普及と推進に貢献することを目的として発足しました。

ご存じかもしれませんが電気自動車というのは10年ごとにブームを繰り返してきました。カリフォルニア州でZEV規制(自動車メーカーに一定数以上のゼロエミッション車両の販売を義務付けるというもの)が始まった1980年、そして1990年、2000年にも米国を中心にEVのブームがありました。ただ、インフラの未整備や充電規格選定の問題もあってなかなか成功しなかったのです。

そして、今のEVブームは2010年頃に始まったものです。カリフォルニア州のZEV規制が強化されることになり、各国の自動車メーカーが本格的にEV開発を始めたのがきっかけです。

規制に先立ち日本でもSUBARU、三菱自動車、日産自動車などがEVの開発をスタートさせました。そして、新しいEVには新たな共通の充電規格が必要ということで、当時東京電力でEVを担当していた、現CHAdeMO協議会会長の姉川が中心となって、東京電力が自動車会社の仲立ちとなる形でCHAdeMO協議会を発足させたのです。

新たな規格を策定するうえで重視されたことなどございますか?

重視したのは、安全性と互換性です。EVの急速充電は、住宅10戸分に相当する50kWといった大きな電力を使用します。それを小さなコネクタで一度に充電するわけですから、万が一触れれば人の命にかかわります。安全性は絶対に担保されていなければなりません。

また、優れた互換性がなければ利便性にも欠けます。そんな理想的な充電規格を形にしたのがCHAdeMOなのです。とても優れた充電規格ですから、それを世界中に広く普及させたい、それが今のCHAdeMOのミッションということになるでしょうか。

CHAdeMO協議会の主な活動内容を教えていただけますか︖

まずはEVのさらなる普及に不可欠な急速充電器の設置場所の拡大、そしてCHAdeMOの世界的な標準化を図るため、GtoGの会議などに参加し、優秀さをPRするなどの活動を行っています。

その活動もあってCHAdeMOの充電器の基数は着実に伸びています。図1を見てください。欧州も米国もアジアも年々そのシェアが拡大しているのがわかるかと思います。特に欧州では二次曲線的にその数を伸ばしています。

図1:CHAdeMO基数の推移(出典:2020年CHAdeMO総会資料)

現状では世界に約41,000基のCHAdeMO充電器が導入されています(図2)。一番多いのが欧州で19,000基ほど。欧州といえばEVの充電規格はCCS(コンボ)1)というイメージがありますが、以前はCHAdeMO規格の充電器のほうが多く設置されていたのです。ただ、残念ながら欧州では近年CCSの普及に莫大な公的資金が投入されていて、2020年の暮れにCCSに逆転されました。

図2:CHAdeMO基数(出典:2021年CHAdeMO総会資料)

ChaoJiについて

ChaoJi取り組みの背景を教えていただけますか︖

CHAdeMO協議会発足後、最初の5年は国内にCHAdeMO規格を普及させることを主眼に活動していました。急速充電器を設置するには高電圧の規制や火災予防条例などクリアすべきルールや法律もたくさんありますし、ユーザーに対しても、どのような注意が必要なのかを理解してもらうことも必要ですから。

その後、世界市場に向けてCHAdeMOの普及活動を始めたのですが、2013年~2014年頃、欧州でCHAdeMOのライバルとなるCCSの規格がスタートしたのです。

彼らの目的の本音は、日本やアジアでのEVのシェアを取りたいというものでしょう。既にCHAdeMO規格のEVである日産リーフが世の中に広く浸透していました。またテスラもアダプターを介せばCHAdeMOが使える。そんな状況に「このままでは急速充電規格の仕様決定権や市場をコントロールするパワーを日本に握られてしまう」そんな危機感を覚えたのだと思います。そこで欧米が協力してCHAdeMOのライバルとなる規格、CCSをぶつけてきたのです。

当初CCS側は劣勢でした。しかし、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルゲート(2015年に発覚したVWによるディーゼルエンジンの排出規制不正事件)で潮目が変わったのです。VWが何千億円、それこそ兆に届くような金額をペナルティとして支払い、そのお金がEV、そしてCCS規格の充電器に流れたのです。その結果、2020年末、欧州で充電器のシェアがひっくり返ってしまいました。

我々としてはそれを、指をくわえて見ていたわけではなく、欧州だけでなくアジアや中南米、中近東などにもマーケットを広げるため、CHAdeMOの安全性やカーボンニュートラルとの組み合わせなどをもって、優位性をアピールする活動をしてきました。

そして、さらなる選択肢の一つとして、2018年に中国と共同でCHAdeMOをベースとした新たな充電規格を開発することを発表したのです。それがChaoJi(チャオジ)です。

中国と共同開発するメリットとしては、どのようなものがありますか?

まず世界最大のEVマーケットにその充電規格を普及させられるという点です。2018年当時、世界のEV用充電器のほとんどが中国で作られていました。なんといってもスケールメリットが違います。

日本では当時、10年で7,000基というレベルで、ほぼ手作業によって充電器を作っていましたが、彼らは既に専用のラインを作り大量生産を行っていました。価格においても、我々では一基500万円かかっていたのに対して、同じ仕様なら100~200万円で作れるという、その圧倒的なコスト力に期待するものがありました。

また、CHAdeMOの活動で、アジア各国に赴きEVの充電器の規格について話をすると、聞かれるのは世界の趨勢はどうなんだということです。当然ですが彼らは普及率の高い規格を導入したいのです。そんなときにもアジアにおける中国の影響力は巨大でコスト競争力が違います。少ない投資で多くの充電器を導入できる可能性が高いうえ、共同開発なら我々もその大きな傘を借りることができる―これは大きなメリットと言えるでしょう。

逆に日本と共同開発する中国側のメリットはどのようなものですか?

まず、高出力の急速充電器の開発に関してCHAdeMOのほうに一日の長があるということ。それに安全性や品質に関する作りこみも日本の充電器メーカーのレベルは圧倒的に高いです。

ケーブルやコネクタなど精密さが求められる部品などは、日系メーカーのほうが優れた製品を作ることができます。その高品質を取り入れた上で、より優れた充電規格を作ることができるわけです。

つまり、スケールメリットの中国と、安全で優れた品質を提供できる日本、この二つが手を取り合うことで高品質で安価という優れた充電規格ができるわけです。

それに、ChaoJiが世界的な急速充電規格として普及すれば、中国は国際的な規格のEVや充電器を安価に大量生産して、それを世界中に輸出することもできます。彼らの得意技であるマスプロダクションによるスケールメリットが得られるのですね。

ChaoJiの特徴とはどのようなことでしょう︖

まず高出力に対応しているということでしょう。CHAdeMOでは最大出力400kW(CHAdeMO2.0)が規格上の上限です。しかしChaoJiの規格上の最大出力は1,500V×600A=900kWです。高出力になればそれだけ充電時間も短くすることができます。また、大容量の蓄電池を積んだ大型EVトラックやバスなどにも対応でき、さらに普通乗用車タイプのEVであれば1台の充電器で同時に複数台の充電も可能となります。

とはいえ我々としては、このマックスの900kW規格が一気に普及するとは考えていません。ここまでの高出力のニーズはおそらく全体の2割もないと思います。ただ規格を作る側としては、ニーズがあるのならばそこに安心安全に電気を届けなければいけない。新しい規格を広く普及させるためには、そういった幅広いニーズにも対応しなければいけないのです。

高出力にするとケーブルやコネクタに大きな熱が発生します。熱に対応させるためにケーブルを極端に太くしてコネクタを巨大化させては使い勝手が極端に悪くなってしまいます。そこでChaoJiでは、液冷2)でケーブルを冷やし、さらにコネクタのピンの付け根まで液冷チューブを伸ばして効果的に冷却しています。そうしてコネクタの小型化が実現し、ケーブルも細くできたのです。

図3:ChaoJiの特徴(出典:2021年CHAdeMO総会資料)

また、900kWという高出力を必要としない場合には液冷は必須ではありません。50kWなどといったレベルなら空冷3)として、その分さらに軽量化もできるでしょう。要するにコネクタにも調整可能な幅を持たせた規格ということ、それもChaoJiの特徴です。

さらに、後方互換性も重視しています。ChaoJiの充電器を使えばCHAdeMOやCCS規格のクルマにも充電ができ、また、今のCHAdeMOの充電器で、ChaoJi対応のクルマに充電できるようになる予定です。

我々の一番の目的は、この規格で世界調和を図るということです。そのためには従来の充電インフラを切り捨てるのではなく、それらを使えるように後方互換性も担保しなければならないのです。

ChaoJiの現状と課題、今後の取り組みはいかがでしょうか︖

ChaoJiの市場投入の時期ですが、自動車メーカーや充電器メーカーの各社さん次第ですね。ChaoJiの規格書自体は既にできています。2020年4月にCHAdeMOの3.0という形で発行しており、物は作れるような状態です。

我々としては、各社さんになるべく早く作ってくださいね、と言うしかありません。それが新型EVの中国投入のタイミングになるのか、他社との差別化のためにセールスポイントとして使われるのか、または、全固体電池が実用化されその優れた充放電性能を生かす高出力の充電器として導入することになるのか、それはわかりません。

現状では充電器側の出力を上げても充電時間はほとんど変わらないでしょう。200~300kWといった大容量の電池を積んだバスやトラックにはChaoJiの高出力化は有効ですが、普通乗用車タイプのEVに広く普及させるとなると、電池の改革とセットにならないと難しいかもしれません。

ただChaoJiの可能性は非常に明るいと考えています。例えばインドですが、将来的にChaoJiの導入を検討しているという状況です。インドと中国というと、その関係に微妙なところもありますが、我々日本がその間に立ち、潤滑油となることで、日本の発言力をキープしながら協力関係を築いていくことが可能なはずです。

中国とインド、そして日本の人口を合わせれば世界人口のほぼ4割です。EV標準規格化における巨大勢力です。さらに今後EVの大きなマーケットとなり得るタイやベトナムといったアジア勢も急速充電標準規格化に対して一票持つことになります。その彼らがChaoJiを採用すれば、充電規格に関してアジアがイニシアチブを取れるかもしれません。そうなれば欧州も従わざるを得ないはずです。

もちろんCCSにこだわるのも構いませんが、それが欧州のEVマーケットのガラパゴス化につながる可能性もあり、彼らには早くそのことに気付いてほしいと個人的には思っています。

EVに関しては、今までは欧米や日本が技術やマーケットを引っ張ってきました。しかし、これからはレストオブザワールドと言われてきた国が大きな力を持つことになるはずです。そのためにも我々CHAdeMO協議会は、ChaoJiで中国、インド、そしてアジアに協力関係を構築していくことが非常に重要だと思っています。

今後の展望について

将来の展望や今後挑戦したいことがありましたら、お聞かせください

EVのテクノロジーはまだまだ進歩すると思っています。MaaS4)やCASE5)など次世代モビリティの分野においてもEVは重要な位置を占めるでしょう。そこでは、CHAdeMOの持つV2X(クルマと充電器の双方向通信技術)が重要な役割を持つことになるはずです。

また、蓄電池の進化に合わせて、充電器側の仕様というのも日々変わってくるはずです。ですから電池の発展に関しても、常に目を向けていかなくてはいけません。

EVも急速充電器も、まだまだ技術のところではやりたいことがたくさんあります。また、普及という意味では、アジアや中南米などにもCHAdeMOの良さをもっと啓蒙していかなくてはいけません。そしてCHAdeMOやChaoJi規格のクルマを作ってもらい、CHAdeMOのネットワークを世界に広げていきたいと思っています。そのためにはまだやるべきことがいっぱいありますね。

1)CCS=Combined Charging System:欧州および北米のEV充電規格
2)液冷:エンジンなど発熱する物体を冷却する場合に液体を用いて熱を移動させる方法
3)空冷:エンジンなど発熱する物体を冷却する場合に、空気との熱交換により放熱する方法
4)MaaS=Mobility as a Service:IoTやAIなどにより様々な交通手段の最適な組み合わせが可能になる新たな交通サービス
5)CASE:「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared(シェアリング)」「Electric(電動化)」の頭文字をとった、自動車開発における先端技術領域の総称

プロフィール

CHAdeMO協議会 事務局長

吉田 誠 氏

1989年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。
同年、日産自動車(株)入社、欧州日産ブラッセル事務所、北米日産ワシントン事務所などを経て、2015 年4月より現職。

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