航空機の安全な運航を支援する、
航空業界の“気象観測”とは?

株式会社東陽テクニカ 特機技術部

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目次
  1. はじめに:空の安全を守る航空気象観測システム
  2. 航空機の安全な運航に欠かせない航空気象観測
  3. 災害現場でも活用できる ポータブル航空気象観測システム
  4. おわりに

航空機の安全な運航を支援する、航空業界の“気象観測”とは?

この記事を読んだら分かる3つのポイント

・航空機の離着陸の判断にかかわる気象要素
・災害現場でも使用可能、1人で持ち運びできる航空気象観測システム
・ブルーインパルスの安全な運航にも貢献、実際の活用例

はじめに:空の安全を守る航空気象観測システム

朝起きて窓を開けると、空にはどんよりとした灰色の雲。「今日は傘を持って行こうか、いや、午後から晴れるのだろうか……」このような時、多くの方がテレビやスマホで天気予報を確認して判断されているのではないでしょうか。

天気は、私たちが社会生活を営むうえで切っても切り離せない重要な要素です。古代から人々は空や雲、生物の動き、植物の様子を注意深く観察し、未来の天気を予想してきました。特に船乗りは風や雲、潮の変化を読み、航海の安全を判断してきました。悪天候に遭遇することは、命の危険を意味するからです。

現代社会では、海を渡る船だけではなく、空を翔ける航空機も人々の生活と密接に結びついています。輸送、防災、報道、エンターテインメント、安全保障など、航空機は欠かせない存在です。

では、空の安全を守る現場では、どのように天気を観測しているのでしょうか?

実は、ここでも東陽テクニカの製品が活躍しています。

今回の記事では、航空機の安全運航を支える「航空気象観測」と、飛行場以外の場所で離着陸する航空機の気象観測を支援するシステム「MWS」と「IWOS」についてご紹介します。

オールインワン小型気象センサシステム「MWS」

オールインワン小型気象センサシステム「MWS」
https://www.toyo.co.jp/kaiyo/products/detail/ISY_MWS_C

航空機の安全な運航に欠かせない航空気象観測

航空気象観測の目的

一般的な天気予報では、天気、気温、降水確率、風、湿度、季節によって花粉情報、梅雨前線、台風進路など、生活や防災に役立つ情報を提供しています。

一方、航空気象観測の目的は、航空機の安全な離着陸と運航を確保することです。出発前の飛行計画の作成、最適な飛行ルートの決定、離着陸の判断、空港施設や地上作業員の安全確保のために必要不可欠となります。そのため、一般的な天気予報とは異なる、航空気象観測特有の項目もあります。

航空気象観測で重要な気象要素

航空気象観測で特に重要視されている気象要素が6つあります。

1. 風
航空機が離着陸するためには、機体の重さを支えるだけの揚力(航空機が上昇するための力)を得なければなりません。揚力の式は以下のとおりです。

L = 1/2 ρSV2CL
(L:揚力、ρ:空気密度、S:翼面積、V:対気速度、CL:揚力係数)

上記の式から分かるとおり、揚力を得るためには速度を十分に大きくする必要があります。

追い風の方が速度が大きくなるようにも思えますが、実際は逆です。向かい風のほうが、大気、すなわち、空気の流れる速さと翼の相対速度差が大きく、離着陸までの滑走距離・滑走時間が短くなり安全に離陸できるのです。

風は離着陸時に重要な要素となるため、航空気象観測では10分間平均の風向・風速だけではなく、2分間平均の風向・風速も観測しています。

滑走時速度が時速300キロメートルの航空機について。

滑走時速度が時速300キロメートルの航空機について。
秒速5メートル(時速18キロメートル)の追い風の場合、対気速度は速282キロメートル。
秒速5メートルの向かい風の場合、対気速度は時速318キロメートル。

2. 視程
視程とは、どれだけ先が見えるかを表す指標です。離着陸の可否、飛行方式、侵入方の決定などに直結します。

そのため飛行場では、人間の目視によって観測される卓越視程のほか、滑走路視距離(RVR:Runway Visual Range)、霧などで雲底の高さが観測できないときに観測通報する鉛直視程(VV:Vertical Visibility)を観測しています。

3. 雲底高度
雲底高度とは、雲の最も低い部分の高さです。飛行場上空に低い雲があると、航空機が離着陸できなくなることがあります。特に着陸時は、パイロットは雲底高度を把握することにより、どの高度で雲を抜けて滑走路が確認できるかを想定します。

飛行場では、雲底高度をシーロメーターという測定器を用いて観測しています。上空に発射したレーザーが雲の最も低い部分で反射して戻ってくるまでの時間から高度を計測しています。

シーロメーターの仕組み

シーロメーターの仕組み

4. 雷
雷は、航空機の安全運航だけでなく地上作業員の安全確保にも関わります。日本では、気象庁が雷監視システム(LAIDEN:LIghtning DEtection Network system)で雷の位置・発生時刻を算出し航空会社などに提供しています。

5. 露点温度
露点温度は航空機のエンジン出力や揚力に影響するため、航空機の離着陸時における滑走距離と適正な積載重量の算出に用いられています。また、気温と露点温度の差(露点差)が近いと雲が発生しやすく、露点差が3度以下であれば雲が多いと推測することができます。

6. 気圧
航空機が飛行中の高度は、気圧を利用して測定します。ある高度に対して気圧が常に一定であれば平均海面に対して正しい高度を示し続けますが、気圧が途中で変わる場合には注意が必要です。実際の高度とは異なる値が表示され、特に高気圧から低気圧に向かって飛行するときには山など標高の高い障害物に衝突してしまう恐れがあります。

航空機が高気圧圏内から低気圧圏内に向かって飛行する場合

航空機が高気圧圏内から低気圧圏内に向かって飛行する場合

そこで、常に正確な高度を示すために、高度計規正値(QNH)を用いて、気圧高度計が平均海面から正しい高さを示すようにします。これは、各飛行場の気圧(水銀柱インチ)を海面上の値に換算したものです。気圧高度計の高度計規正値を標準大気圧の29.92水銀柱インチ(≒1,013.2ヘクトパスカル)に合わせたときの高度を「気圧高度」といいます。

なお、この気圧高度に標準大気の外気温度と実際の外気温度の誤差を補正したものを「密度高度」といいます。密度高度は一般的に航空機の性能を知るために使われます。航空機のエンジンや翼の性能は空気の密度によって大きく左右されるため、密度高度を用いてエンジン出力のコントロールなどに利用しています。

災害現場でも活用できる
ポータブル航空気象観測システム

飛行場以外の場所における航空気象観測の必要性

このように、複雑かつ密接に関係している航空機とさまざまな気象要素を確認するため、全国の空港には、規模に応じて航空地方気象台や航空測侯所、航空気象観測所などの気象庁の施設があります。各地での日々の航空気象観測によって、航空機の安全な運航が確立されているのです。

ただし、航空機の離着陸は、飛行場で行うとは限りません。

災害派遣などで、ヘリコプターが孤立した住民の救助・避難のために活動している様子をニュースで見たことがあるのではないでしょうか。災害時におけるヘリコプターの離着陸には、通常、各都道府県が防災計画で定めたヘリポート適地を使用することが原則ですが、被害のあった集落内に適地が存在しない場合は、空地や橋梁上などの計画外の場所へ生地着陸することも少なくありません。

では、飛行場以外の場所で航空機が離着陸を行うときはどのように気象観測を行っているのでしょうか。

このような場所には、当然、航空気象観測を行うことができる設備はありません。安全な離着陸を行うための解決策の一つとして、東陽テクニカが展開しているのが、米国Intellisense Systems社製のポータブル航空気象観測システム「MWS」と「IWOS」です。

飛行場以外の遠隔地でも航空気象観測を実現する「MWS」

「MWS(Micro Weather Station)」は、航空気象観測のために必要な各種センサー、データ処理部、バッテリー、通信装置を重量わずか1.72キログラムのユニットに集約した、オールインワン型の小型航空気象観測システムです。作業員1名で装置を運搬、設置することが可能で、どのような場所でも迅速に航空気象観測を開始できます。

装置表面の太陽光パネルで発電した電力は内部のバッテリーに蓄えられるため、外部電源を必要としません。観測データは有線ケーブルまたはイリジウム通信を介してノートPCに表示できるほか、ノートPCからコマンドを送信することにより観測設定の変更を行うことも可能です。

オールインワン小型気象センサシステム「MWS」

オールインワン小型気象センサシステム「MWS」
https://www.toyo.co.jp/kaiyo/products/detail/ISY_MWS_C

「MWS」の主な仕様

「MWS」の主な仕様

観測した気象データは、ユーザーが設定した通報間隔で、METAR(定時飛行場実況気象)形式で自動的に通報されます。METARは航空関係者が飛行場の気象状況を把握するための標準フォーマットで、例えば「RJTT 300930Z 34003KT」は、東京国際空港(羽田)における2025年3月30日9:30(世界協定時)、風向340度、風速3ノットを示します。

METERの例:風、視程、雲底高度、露点温度、気圧などの情報が通報される
RJTT 300930Z 34003KT 9999 FEW030 BKN060 BKN080 12/01 Q1018
BECMG 34018KT RMK 1CU030 5AC060 7AC080 A3006

「MWS」活用事例

「MWS」が実際に航空機の運航を支援した例として、防衛省航空自衛隊航空気象群本部のコラム「気象の杜」で紹介されています。
https://www.mod.go.jp/asdf/awsg/aboutawg/column/images/column034.pdf
(出典:航空自衛隊航空気象群本部ウェブサイト「気象の杜」Vol. 034 2025年2月5日)

また、防衛省のInstagramでは、大阪・関西万博でブルーインパルスの飛行前に「MWS」を用いて気象観測を行う様子が紹介されました。

(出典:防衛省のInstagram @modijapan  2025年7月12日投稿)

(出典:防衛省のInstagram @modijapan 2025年7月12日投稿)

このように「MWS」は、航空機の安全運航に貢献しています。

高精度の航空気象観測が可能な「IWOS」

「IWOS(Integrated Weather Observation System)」は、「MWS」の上位モデルで、より高精度で拡張性の高いモジュール式の航空気象観測システムです。

モジュール式気象観測システム「IWOS」

モジュール式気象観測システム「IWOS」
https://www.toyo.co.jp/kaiyo/products/detail/iwos

「IWOS」の構成

「IWOS」の構成

「IWOS」は外部電源に接続することで、より高精度な観測が可能です。例としてシーロメーターを挙げると、「MWS」が10,000フィートまでの雲底高度しか観測できないのに対し、「IWOS」では25,000フィートまで、かつ雲量も観測可能です。加えて、上部に積もった塵やごみを吹き飛ばすためのブロアーや、気温が4度以下になると自動的に起動して雪を溶かすヒーター機能なども搭載されています。

また、「IWOS」ではモジュールごとにセンサーが搭載されているため、気象要素に合わせて必要なモジュールをユーザーが任意に組み合わせることが可能です。故障発生時は故障したモジュールのみを良品と交換・修理することが可能なため整備性に優れています。

「IWOS」には航空気象観測用のモデルのほか、船舶搭載用のモデルもあります。こちらは船の針路・速力・動揺を考慮して真風向・真風速を算出するプロセッサーの搭載や、船から発信されるレーダーなどの電波や磁気に対する対策、センサーを海中に投入することで波高・波の周期・波の方向・海面温度が観測できるなど、船舶特有の設計がなされています。

「IWOS」船舶搭載用モデル

「IWOS」船舶搭載用モデル

おわりに

「MWS」は、2009年にアフガニスタンで任務中の米軍ヘリコプター「CH-47」が同日に2機、別々のフライトで墜落し、多くの死傷者を出したという航空事故を背景に開発・設計・製造されたものです。事故調査の結果、主因は悪天候による視界不良、副因は現地で十分な航空気象観測を実施していなかったことと結論づけられました。このような事故を二度と起こさせないという強い決意のもと、あらゆる場所で航空気象観測を簡単に実施できる「MWS」が誕生しました。

航空気象観測は専門性が高く一般によく知られている分野ではありませんが、実は、皆さんの安心・安全な空の旅を支えるために、最先端の気象観測システムが活躍しています。東陽テクニカは、今後もこれまでにない新しい製品・技術を通じて、皆さんの日々の安心・安全な移動に貢献してまいります。

執筆者情報

株式会社東陽テクニカ 特機技術部

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