東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら

世界に羽ばたく日の丸エアモビリティ実現に向けて
多様な技術者が集うSkyDriveの挑戦

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長
福原 裕悟氏

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. 「空を、走ろう。」という組織のビジョンが
    そのままSkyDriveという会社名と製品名に
  2. 空飛ぶクルマが気軽に日常使いできるような
    そんな社会の実現を目指しています
  3. 技術者同士でもジャンルが違えば使っている言語が違う
    互いの知見や考え方を受け入れて化学反応が起きた
  4. 2025年の大阪・関西万博では、空飛ぶクルマの
    実物が飛んでいる姿をたくさんの方に見ていただきたい

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏 写真

車でドライブをするように大空を気軽に移動できる、今、そんな新しいモビリティ「空飛ぶクルマ」への期待が高まっています。日本をはじめ世界各国でその開発が進んでおり、機体の開発から地上設備の設置、飛行ルールづくりまで社会実装への動きも加速しています。

そして空飛ぶクルマの開発において、現在日本で最先端を走っているのが株式会社SkyDrive(以下、SkyDrive)です。SkyDriveは、まだ世界に存在していない「空飛ぶクルマ」の開発に心血を注いでいる日本のスタートアップであり、日本製として初めて空飛ぶクルマの型式証明取得を目指しています。

開発にはさまざまな課題・難題がある中、SkyDriveには非常に優秀な航空機、自動車、バッテリーなど多様なジャンルの技術者が集い、それぞれの知見を活かしながら、今までにない技術の実現に向けて、日々トライ&エラーを繰り返しています。東陽テクニカからも、2名の技術者が出向しており、その実現を共に目指します。

2025年、大阪・関西万博会場で空飛ぶクルマの運航を目指しているSkyDriveにおいて、事業化に向けて指揮を執っているのが、エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏です。その福原氏に、開発の現状や今後の展開、開発にかける想いなどをお聞きしました。

株式会社SkyDrive ロゴ

【インタビュアー】
小野寺 充
(株式会社東陽テクニカ 常務取締役)

「空を、走ろう。」という組織のビジョンが
そのままSkyDriveという会社名と製品名に

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

今回このインタビューをお受けいただきありがとうございます。「空飛ぶクルマ」を一から開発されているSkyDriveさんの会社の成り立ちからお教えください。

元々は有志による団体CARTIVATORという組織でした。技術者が集まりそれぞれが仕事をしながら週末集まって、「何か新しいことをやりたいね」というところから始まっています。その中で「空飛ぶクルマ」というのが面白いということで、いろいろなアイデアが出て、本格的に事業化してみようということになり、2018年にSkyDriveを設立しました。

ドローンやラジコン飛行機の技術者が主体で、はじめはメンバーも数人程度でした。2020年に日本で初めて「SD-03」という有人の空飛ぶクルマの飛行に成功し、現在は航空機と同等の安全性の認証を取り、量産できる商品性の高いモデルを完成させるための開発を進めています。スタッフは、社員、派遣の方、業務委託の方、東陽テクニカさんからも2名来ていただいていますが、協業している企業からの出向の方なども合わせると400人くらいです。

相当な人数の技術者の方々が開発を続けているのですね。「SkyDrive」という会社名の由来は何でしょう?ちなみに空飛ぶクルマの製品名も「SKYDRIVE(スカイドライブ)」ですね。

会社のビジョンが「空を、走ろう。」で、それをそのまま英語にしてSkyDriveとなりました。世の中に製品として出すときに、会社名と製品名は一緒のほうが分かりやすいだろうという考えもあり、製品名も「SKYDRIVE」に決めました。

「SKYDRIVE」のイメージ(株式会社SkyDrive提供)

「SKYDRIVE」のイメージ(株式会社SkyDrive提供)

空飛ぶクルマが気軽に日常使いできるような
そんな社会の実現を目指しています

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

2026年に製品の市販化を目標とされている中で、すでに受注も相当数入っていると聞いております。どのようなお客様から注文が入っているのでしょう。

日本、アメリカ、ベトナムなどから全部で数百機のプレオーダーをいただいております。まだ開発中の機体なのですが、大きな期待が寄せられていることを実感しています。観光用やエンターテインメント的な用途で使いたいという話も聞いていますし、ドクターヘリなどを補完する存在として救急救命用にも使いたいなど、本当にさまざまな用途でお話をいただいています。

なるほど、日本のみならず海外からもプレオーダーが入っているのですね。海外市場に目を向けると今後特に有望と思われるのはどの地域でしょうか。

一つはアメリカですね。アメリカは国土が非常に広いので、翼を持って長距離を移動できる空飛ぶクルマのニーズが強いと考えていました。ところが、都市内で短距離の移動に使いたい、とサウスカロライナ州政府や、空港関係者などからも興味をいただいています。実例を作ることができれば、アメリカの他の都市にも横展開できるのではと期待しています。

それ以外では、東南アジアやインドなどからもお話があります。ベトナムからは、都市開発をされているデベロッパーさんからプレオーダーをいただいています。交通渋滞の激しいベトナムの都市圏の新しいモビリティとして取り入れ、都市全体を開発するという大きなグランドデザインの中に弊社の空飛ぶクルマを位置づけているようです。

また、インドは、弊社の株主でもある自動車メーカーのスズキさんが強い市場ですので、空飛ぶクルマのインド市場の開拓を一緒に進めているところです。

それぞれの地域で異なったニーズがあるのですね。将来、空飛ぶクルマの市場動向について御社はどのようにお考えですか。

SkyDriveとしては2026年に最初の製品を市販できるよう開発を進めていますが、それ以降もバッテリーの性能が向上していくと考えています。そうすると同じ仕様の機体でも将来はさらに航続距離が延びるでしょう。用途もさらに広がると考えています。

現在は観光周遊などエンターテインメント的な用途が主なターゲットですが、目指しているのは主に都市内での移動です。今は航続距離15㎞程度ですが、バッテリー性能が向上すれば30㎞や40㎞まで延びると思います。その先は、パイロットが搭乗不要になれば、乗員数も増やせるでしょう。そうすれば1人あたりの移動コストが各段に下がり、それこそタクシーと変わらないぐらいの移動単価になってくるはずです。そうなれば、空飛ぶクルマが日常使いできると言えると思います。そんな製品を、そうですね、2030年くらいに出していきたいと思っています。

お聞きしてよいのかわかりませんが、2025年の大阪・関西万博や、2026年の製品発売に向けて、現在の開発状況は何合目まで来ているのでしょうか。

「SKYDRIVE」が空を飛ぶイメージ(株式会社SkyDrive提供)

「SKYDRIVE」が空を飛ぶイメージ(株式会社SkyDrive提供)

機体の技術エリアによって進捗に濃淡はありますが、全体として、大阪・関西万博に向けては7合目くらいですね。2026年の製品発売に向けては5合目、6合目くらいですか。機体の製造は2024年春ぐらいから開始予定で、万博できちんと飛ばした後に量産できるよう認証を取る予定です。

技術者同士でもジャンルが違えば使っている言語が違う
互いの知見や考え方を受け入れて化学反応が起きた

空飛ぶクルマのタイプとして、大きく分けてマルチコプター(複数のローターで飛行)と、固定翼(飛行機型)があります。御社で開発を検討するにあたって最終的にマルチコプターを選択したのはなぜでしょうか。

我々の原点は、「個人がどこからどこへでも自由に移動できる乗り物を作りたい」というものです。だから大きな機体を作る必要はなく、1人ないしは2人乗ることができれば十分だったわけです。

また、気軽に移動できるためには、機体はなるべく軽量でコンパクトの方がよいですよね。空飛ぶクルマは滑走路はいらないですが、発着用のポートを作るにも、小型機の想定であれば街中にも作ることが可能になります。議論はありましたが、そのような理由から、小型のマルチコプターで進めようとなりました。

街中の発着用ポートのイメージ(株式会社SkyDrive提供)

街中の発着用ポートのイメージ(株式会社SkyDrive提供)

小型のマルチコプターで進めようと決まったとしても、それを一から開発するというのは相当なご苦労があるかと思います。開発する上で技術的な困難はどういったものがありましたか。

製品として目指す性能と、航空機と同等の安全性を、高いレベルで両立させる機体の仕様を生み出すことが一番難しいところですね。例えば冗長性を持たせるためにローターが12発付いていますが、このローターの配置をよく見てください。実は、ここがとても苦労した部分です。平面ではなく少し曲面に配置していることがお分かりになると思います。技術者同士で喧々諤々やっていた中で、出てきたのがこの曲面配置です。

模型を横から見ると、12発のローターが水平ではなく、曲面上に配置されていることが分かる。

模型を横から見ると、12発のローターが水平ではなく、
曲面上に配置されていることが分かる。

なるほど、技術者の皆さんの苦労の末に生み出された曲面配置とのことですが、設計上、考慮しなくてはならない課題も多々あったのではないでしょうか。

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

ローターを水平配置しているマルチコプターの例もあるため、我々も当初は水平配置で設計していました。しかし、型式証明を取得する上では、何らかの要因でローターブレードが破損して機体から外れ飛んで行った場合、ローターが平面配置だと破断したローターが他のローターに当たる可能性も考慮する必要がありました。

そこで、安全性も高く、安定して飛べるようにするにはどのような配置にすればよいのか、検討を重ねて生まれたのが曲面配置です。

12発のローターがあることで、どこかのローターがトラブルで止まっても安全に飛行が続けられます。また、ローターの凸曲面配置形状として、何十通りもの配置を検討した中でこの配置が決定しました。これなら万が一、ローターが破断してもローターはすべて曲面の外側に飛んで行くので、他のローターに当たる可能性を下げることができます。もちろん単に安全性に優れているだけでなく、機体の安定性や操縦性も考慮したベストな配置となっています。マルチコプターでこういったローターの曲面配置をしているのは、弊社のこの製品だけですし、特許も出願しています。

なにぶん世界にまだないものですから、最初から答えが見えているわけではなく、一つ課題をクリアすれば問題が全て解決できるということもありません。ただSkyDriveには航空機やドローン技術者、自動車メーカー、バッテリーメーカー出身の技術者もいます。さまざまな分野の技術者が集まって、各々が自分の知見と経験、そして知恵の限りを尽くした結果、このようにローターの曲面配置ということで課題を解決することができました。

大変興味深いお話です。さまざまな業界出身の技術者が知見と経験を持ち寄り、突き詰めた議論と検討を重ねた結果なのですね。単にコンピューターでシミュレーションした結果ではないのですね。

もちろん、それでも解決できないこともあります。そもそも技術者同士でも、ジャンルが違えば言葉の意味が違っていることもあります。言語が違うのですね。逆に言語が違うからこそ、「そういう考えもあるんだ!」、「そんな視点はなかった!」など技術者たちの間に化学変化、化学反応が起きる。結果、思いもよらないアイデアで解決策が生まれてくるということもありますね。

硬直した組織では生み出せない、「組織の化学反応によってこそ解決策が生み出せる」というのは大変勉強になります。他にエピソードがあれば教えてください。

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

機体のコンパクト化のための装備品の配置の時ですね。航空機の基準だと、この部品とこの部品は、これぐらい離しておくべきだという意見が出ました。それに対して、いやいや自動車の設計だったらこれぐらい近づけても大丈夫だよと、それぞれがそれぞれのジャンル、業界で学んできた設計の定石を主張し合いました。でも双方同じ言葉を使って話しているのに、どうも話がかみ合わない。

そこで航空機の設計はこうあるべきで、自動車ではこう。でもそれはなぜなのか?改めて言葉を交わして、一緒にそれぞれの分野の定石はなぜそうなっているのか掘り下げていきました。

ただ航空機としての安全性の認証などは、絶対という部分もあるので、各業界で積み上げてきた経験や知見を提示した上で検討しました。そうして議論を重ねた結果、化学反応が起きて、そこに新しいSkyDriveならではの空飛ぶクルマの設計のアイデアや定石が生まれたということですね。そんな思いもよらぬ技術者同士の化学反応を見ると、さまざまな分野の技術者、エキスパートが、空飛ぶクルマの開発という使命のもとにSkyDriveに集まったのは、運命というか、必然なのかもしれません。

さまざまな技術者が試行錯誤して生み出した曲面配置を施した「SKYDRIVE」の模型と(左)SkyDrive福原 裕悟氏 (右)東陽テクニカ 小野寺 充

さまざまな技術者が試行錯誤して生み出した曲面配置を施した「SKYDRIVE」の模型と
(左)SkyDrive福原 裕悟氏 (右)東陽テクニカ 小野寺 充

2025年の大阪・関西万博では、空飛ぶクルマの
実物が飛んでいる姿をたくさんの方に見ていただきたい

改めて、大阪・関西万博に向かって開発も佳境を迎えていると思います。当面の目標である2025年の運航にかける皆さんの思いを教えてください。

今は本当にスケジュールに追われ、常にプレッシャーを感じながら開発を進めています。何か課題が出てきても検討に一ヶ月かけてじっくり考える、などという悠長な暇はなく、明日までに何とかしなくちゃいけない、同時にこっちも検討しないといけない、そんな状況です。大変ですが、面白いのも間違いありません。

そもそも空飛ぶクルマという、まだ世の中にないものを試行錯誤しながら生み出すなんて、こんな面白いことはありません。自分たち技術者、そしてSkyDriveという会社の存在意義もそこにあるのだと思っています。

大阪・関西万博では、空飛ぶクルマの実物が飛んでいる姿をたくさんの人に見ていただきたいですね。実際に目にすれば、空飛ぶクルマが本当に次世代のモビリティとして可能性があると、リアルに実感できると確信しています。

今まで見たことのないものが頭の上をびゅんびゅんと飛び回る姿を見て、最初は不安を感じる方もきっとたくさんいるでしょう。だからこそ万博で見てもらい、「これは安全なものなんだ、音も静かで全然問題ない」と、受け入れてもらえたら非常にうれしいですね。

我々も画面上のCADデータで見ていたものが具現化し、大空を飛ぶ姿を見るのはとてもワクワクします。大阪・関西万博での運航は、空飛ぶクルマにとってきっと大きなマイルストーンになると思います。

弊社でも計測分野でお手伝いをさせていただいておりますが、東陽テクニカにどのような期待をしていただいていますか。

まず、優秀な技術者の方2人に出向していただき、地上での要素試験を行うチームで活躍していただいております。一緒に仕事をする中で課題があった時に、ソリューションの提案をいただけることが、とてもありがたいと思っております。例えば、実施したい試験のスケジュールやコストがうまくはまらない時に、さまざまな解決策を提案してもらえる、本当に素晴らしい技術者であり、我々も常々助けられています。

SkyDriveに出向している東陽テクニカの社員

SkyDriveに出向している東陽テクニカの社員

これから飛行試験を行う前に、地上での仕上げとして、実機と同じ飛行制御コンピューターやバッテリー、モーターを地上でつなぎ、模擬的に飛行を再現した環境下での試験、そういったものを航空機業界では「アイアンバード」と言いますが、それを行います。その際、試験装置全体の取りまとめを東陽テクニカさんにお願いしています。そういったことを任せられるのも、東陽テクニカさんが、本当に信頼をおける心強いパートナーだからです。

空飛ぶクルマのアイアンバード自体、日本では初めてのもの。それを一緒に試行錯誤しながら、課題解決をしていくのは本当に楽しみです。東陽テクニカさんの強み、計測の技術がそこで大きく活きることになると思っています。期待しています。

東陽テクニカルマガジンの読者は、日本の研究開発に携わっている技術者の方々も多く、日夜大変なご苦労をされていると推察します。そういった方々にメッセージがあればぜひお聞かせください

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

我々SkyDriveは、まったく新しい乗り物を実現しようとしています。これは日本のみならず世界でもまだないものです。その開発にはさまざまな生みの苦しみはありますが、多様なバックグラウンドを持った技術者が「空飛ぶクルマの開発」という大きな目標のもとに集まって、化学反応を起こしながら懸命に知恵を振り絞って、一つの形にしようとがんばっています。

簡単なことではありませんが、新しいものを生み出すということに、我々技術者は大きなやりがいを感じます。空飛ぶクルマに限らず、未来に向けてそんなイノベーションが日本中で起こっていくことを期待しています。今、我々は日々七転八倒しながら空飛ぶクルマの実用化を進めています。ぜひその実現を楽しみに待っていてください。

プロフィール

株式会社SkyDrive エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏

株式会社SkyDrive
エアモビリティプロダクトマネジメント部長

福原 裕悟氏

京都大学工学部航空工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻修士課程修了。1991年に三菱重工に入社し、技術者として戦闘機等の開発に従事の後、少人数有志で国産初のジェット旅客機であるMRJ事業を立ち上げ。2008年の三菱航空機設立後はマーケティングリーダー、営業部長として、国内外のエアライン・リース会社からMRJを受注。2021年1月からSkyDriveに参加。

事業紹介