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5Gや、その先の6Gで実現される世界 ユーザー中心のサービスによって暮らしがより安全・安心、便利に

KDDI株式会社 執行役員常務 モバイル技術本部 本部長  要海 敏和 氏

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目次
  1. 5Gによって進化すること
  2. 測定器メーカーに期待すること
  3. 「KDDI Accelerate 5.0」 ―インフラ中心から人中心の世界へ

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 写真

大手電気通信事業者として、日本の通信インフラを支えてきたKDDI株式会社。同社の執行役員常務でモバイル技術本部の本部長を務める要海敏和氏に、2022年から本格運用が始まる5G通信サービスや、それを支えるテクノロジーの「今」についてお話を伺いました。また、次世代通信によって産業界や人の暮らしはどう変わるのか。未来像についても語っていただきました。

【インタビュアー】
川内 正彦
(株式会社東陽テクニカ 執行役員 情報通信システムソリューション部統括部長)

5Gによって進化すること

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 写真

5Gのネットワークサービスは、過去のネットワークサービスと比べてどのような点が優れているのでしょうか?

一言で申し上げるなら、「基本的な性能のポテンシャルが極めて高い」という点です。

5Gというと、多くの方は無線技術が進化したものだと考えられると思います。しかし実は、無線技術はもちろんのこと、周辺の技術が大きく進化したことが5Gネットワークサービスのポテンシャルを高めているのです。

5Gの通信速度が速いのは、無線の周波数の帯域が広くなるためです。しかし、KDDIの場合はそれだけではありません。5Gのサービスを実現するために、基地局とネットワークセンターとをつなぐ有線のネットワークも全て新しく5G用に設計をして作り変えることで、十分以上の帯域の確保を実現しています。

ユーザーにとって、5Gのメリットはどのようなものでしょうか。技術的な背景とともに教えてください。

今、KDDIは、5G専用の周波数として3.7GHz帯の100MHzの帯域を2スロット割り当てられています。つまり、電波が広域まで届きやすいとされるSub6の帯域で、4Gで利用していた周波数全てを足したのとほぼ同じ200MHzの帯域が確保されているということになります。

加えて、Sub6の16倍高速である28GHzミリ波帯を400MHz幅で確保しています。4G LTEでは数百MHzの帯域を持つ電波は扱えませんでしたが、無線技術が進化したことで、5Gの場合はそれができるようになっています。これらによって、無線区間でのデータの伝送能力が極めて高くなったことが、ユーザーのメリットとして挙げられます。

さらに、ファイバー網を新しく設計したことで、遅延量を小さくしたり、通信の信頼性を高めたりと、ネットワーク側の進化もありました。一番大きいのは、コアアーキテクチャの進化です。

KDDIは現在、5GのサービスはNSA(ノンスタンドアローン)という方式に加え、法人向けにはSA(スタンドアローン)方式でサービスを提供しています。SA方式というのは、コア設備も全て5G専用に作られたネットワークという意味です。2022年内に、一般のスマートフォン向けにもこのSA方式でサービスを開始しようと、準備を進めているところです。

5Gノンスタンドアローンと5Gスタンドアローンのイメージ

図1:5G NSAと5G SAの比較(KDDI株式会社提供)

5G SAのコアネットワークは、今までとは全く異なるアーキテクチャで作られています。仮想化技術で構築したプラットフォームの上に通信に必要なネットワークの機能がソフトウェアとして構築され、これによって、お客様が求めるSLA(サービスレベルアグリーメント)に準じたネットワークをハードウェア上で仮想的に各々作って、提供できるようになるわけです。

このように、高速大容量であるとか、超高信頼低遅延、超大量端末など、要件が異なる用途を1つの通信規格でまかなうネットワークスライシングのサービスを提供できる点は、大きな進化だと思います。

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 写真

まだ5Gのサービスは始まったばかりですが、すでにBeyond 5Gや6Gといった次の技術について議論されています。御社でも取り組みが始まっていると思いますが、その具体的な内容を教えていただけますでしょうか?

6Gは2030年頃に実現すると言われていますが、私たち技術部隊でもどのようなことを準備し、どんなネットワークで何をお客様に提供するかという議論を、最近よくしています。

おそらくその頃になると、人と人との通信は相当効率化されていると思います。どちらかというと人とマシン、もしくはマシンとマシンの間での通信が今まで以上にどんどん膨張していくでしょう。

携帯電話は今、お客様が携帯電話会社と契約をして利用料を支払う仕組みになっています。しかし2030年になると、通信にお金を払うという概念は薄くなり、利用しているサービスやアプリケーションの価値に対して利用料を支払うように変化していくと考えています。利用する価値の中に、通信料金が含まれるようになります。

よく言われているのが、通信が社会に溶け込んでいくと、誰も通信を意識しなくなるということ。つまり、「コネクティビティはあって当たり前」という世界になっていくと考えています。

例えば無線技術は、今まで以上に高周波数帯を使ってさらに高いデータレート、さらに大きなデータ量を扱うようになると思うのですが、そうすると新しい設備などの増設や高周波への切り替えが必要となり、これによるペインがまた顕著になってきます。高周波数帯を使う場合、技術的には、通信する距離は非常に短くなり、かつデバイスが小型化していく必要があるだろうと思います。

社会生活的に言えば、すでにオフィスという概念は変わってきていますが、メタバースの領域がさらに拡大して、リアルとサイバー領域の融合が進むでしょう。無人のコンビニでカバンに商品を入れて店を出ると、カメラが撮影をしていて顔認証で口座から自動決済される。そんなことが当たり前になるはずです。

そのためにはやはり、大容量のネットワークが必要になります。当社として、それをどう支えていくのか。先ほど周波数がもっと高速化、高周波化していくという話をしましたが、6GやBeyond 5Gの世界を作るためには、テラヘルツや、もっと高い周波数領域を活用することが議論されています。それを実用化できる技術の開発を、早急に進めていかなければならないと考えています。

測定器メーカーに期待すること

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 と 株式会社東陽テクニカ 川内正彦が並んでいる写真

左:要海敏和 氏(KDDI株式会社) / 右:川内正彦(株式会社東陽テクニカ)

高周波化が進んでいくと、我々のような測定器を提供する側にとってもチャレンジングな世界になっていくと思います。技術的な視点から、測定器ベンダーや測定器メーカーに期待することを教えていただけますか?

ネットワークもそうですが、いろいろなものが目に見えない状態になると思うのです。例えば、今では仮想化の技術を使ったネットワークが当たり前になってきて、通信設備も仮想化されたプラットフォームに構築されています。そして近未来には、基地局の設備もどんどん仮想化の技術を使ってソフトウェア化されていきます。それがインテリジェントに動くことになると、外から見た設備の形と、実際に中でどういう機能が動き、何が行われているのかを関連づけて考えることが難しくなります。

ですから、これが測定器によってリアルタイムにビジュアル化され、人がそれを見れば直感的に何がどうなっているのかが理解できるようになっているといいなと思っています。

社内で無線技術を担当している人たちには、「電波が見えるシステムを構築してください」と話しているのです。あらゆるネットワークのエレメントがAIやプロセッシングによって制御されている状態になるので、その情報を引っ張ってくれば、たとえ電波であっても、あたかも目の前でそれが行われているように見える化ができると思います。こうしたことの実現を、測定器ベンダーさんには期待します。

今、スペースICTという高度の飛行機や衛星に基地局を搭載して、応用範囲を広げていこうという動きもあります。KDDI様ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

KDDIは、SpaceX社の「Starlink」と提携して、高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネットの活用を拡大していこうとしています。

従来の衛星通信では、静止軌道に衛星を配置し、地球上に設置した地球局との間でやりとりをしていました。しかしこの方法では、衛星までの距離が遠く、遅延量に課題がありました。

今の衛星通信は低軌道で複数の衛星を打ち上げます。衛星は低軌道で移動していくのですが、それをたくさんの衛星でカバーしています。これなら、周波数がうまく利用できれば十分な帯域が取れますし、低軌道であるため低遅延で通信できます。衛星さえ上がれば、地球全体がカバレッジになるのも利点です。かなり利用価値は高いと思いますね。

我々もスペースICTの恩恵が受けられる時代が、近々来るのでしょうか?

基地局の展開が厳しい地域に対して、基地局のバックホール回線として衛星回線を使うことを試みています。例えばこれまでは、離島に基地局を置くときには海底ケーブルを引くのですが、そのコストは基地局構築の大きな課題でもありました。

しかし、衛星を使えばその課題が解消されます。山岳地や災害地など、社会生活の安心安全を支えるような領域で、スペースICTは非常に価値があると考えています。

「KDDI Accelerate 5.0」
―インフラ中心から人中心の世界へ

KDDI株式会社のロゴ

現在KDDI様が注力されている取り組みについてもう少し詳しくお聞かせください。

当社では「KDDI Accelerate 5.0」というものを発表しています。これは、内閣府が提唱している「Society 5.0」を実現するために、技術開発や高度な技術の活用を組織的に進めていくことを宣言したものです。

KDDI Accelerate 5.0を加速させる5G/Beyond 5Gを中心とした7つのテクノロジーのイメージ

図2:KDDI Accelerate 5.0の7つのテクノロジー(KDDI株式会社提供)

この中で、フィジカル空間とサイバー空間の融合を進めるために、KDDIが持つ5Gを中心とした7つのテクノロジーで「Society 5.0」の循環を加速させることを明示しています。そして、この7つのテクノロジーを連携させるために、次の3つのレイヤーを整備することが不可欠と考えています。

● ネットワーク
● プラットフォーム
● ビジネス

「ネットワーク」のレイヤーは、今展開しているネットワーク技術を昇華させて、モバイルも固定もさらに使いやすいものにしていくことです。ここでいう技術には、先ほどご説明したネットワークスライシングや、今ではポピュラーになっているMEC(Multi-access Edge Computing)と呼ばれるエッジにコンピュータを入れていく技術、ネットワークのいろいろな特性を外部から調整したり、コントロールしたりできるNEF(Network Exposure Function)、仮想化技術を使ったフルオートメーションオペレーション、仮想化基地局、カーボンニュートラルなどが含まれます。

仮想化の技術を使うということは、サーバーに「プラットフォーム」を構築してそのプラットフォーム上にネットワーク機能を搭載するわけです。それをネットワーク機能だけに留めずに、お客様が使いたい機能を一緒にセットで載せることで、機能がネットワークと関連して端末・デバイスに接続できるようになります。これはまさに、先ほどお話ししたように、いろいろな利用シーンに応じてデバイスから要求が来たときに、コネクティビティを提供しながらネットワークスライシングで必要なネットワークの特性、例えば帯域や遅延量、信頼性を提供していこうというものです。

この技術を使いながら、パートナー企業と一緒にどのような「ビジネス」が作れるか、エンドデバイスに対してどんなサービス提供ができるのか、を探っているところです。このときに、非常に重要な概念として社内で議論されているのが「ユーザーセントリック通信」という考え方です。

「ユーザーセントリック通信」とはどのような考え方でしょうか?

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 と 株式会社東陽テクニカ 川内正彦が対談している写真

モバイルネットワークをイメージしてみてください。今は、基地局が一つ作られると、この基地局の周りにサービスエリアができて、エリア内にいると基地局からサービスが提供されるようになっています。どちらかというとユーザーが中心ではなく、インフラが中心ですね。

この概念を変化させ、ユーザーがいて、アプリケーションを起動するなど通信の要求を出した瞬間に、端末を取り巻くインフラがアプリケーションの利用に必要なリソースを把握して、快適に利用できるリソースを供給するというのが、「ユーザーセントリック通信」の考え方です。

わかりやすい例をお話しします。渋谷駅にはたくさんの人がいて、ある人はSMSでメッセージのやりとりをしている。すぐ脇を走る電車の中では、何百人もの人がスマートフォンで動画を見ながら一斉に移動している。近くには高速道路もあって、ナビゲーションにいろいろな情報を送っている。

このように、ユーザーは違う場所で違う使い方をしていますね。これを本当にインフラドリブンでやっていていいのだろうかということです。そうではなく、ユーザーがYouTubeをスタートすると、例えば6Mbpsの通信が維持できるように常に状況を見ながら、その端末にはYouTubeが快適に見られるリソースを基地局が連携して提供するようになる。これができればユーザーは、自分が中心になって、なんでもやりたいことがスムーズにできるようになるわけです。

SNSの利用なら小さいリソース、動画をアップロードするなら大量のリソースが提供されます。必要のないリソースを垂れ流すことはしませんし、サーバーもプロセッシングしていないときは電力を落としておきます。需要に応じてリソースが割り当てられますので、これらが実現されると、カーボンニュートラルにもかなり効果があると思います。

SDGsにもつながっていくわけですね。社会課題の解決という点では、具体的な取り組みはありますか。

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 写真

今はコンシューマー型のスマートフォンのお話をしましたが、この技術は社会課題を解決し、法人のお客様に対してさまざまな新たな価値を提供することにもつながっていくと考えています。

例えば、危険地域での建設作業や災害地での救助作業など、遠隔操作を実現するのに必要な機能をネットワークとセットでデバイスに対して提供するなどです。

実際、大林組さんと一緒に2年ほど前に5Gを使って遠隔操作の実証試験をしました。非常に良い感触を持ちましたね。一度セットアップしておけば、あとは使いたい場面に応じてみんなで使い回したり、さまざまな機能を組み合わせたりすることで、サービスの範囲を広げていけると考えています。

また、土木工事の設計図を作業に落とし込んで自動化してしまえば、オペレーターの方々が実際に操作することもなく、自動的に建設工事や造成工事ができるようになるのではないかと思います。

最近はバスの運転手が確保できないために路線がなくなってしまう、といったことが起きています。しかし、バスの自動運転が実用化されれば、そうしたことはなくなるでしょう。

そう遠くないうちに、AIやデータ分析、運行管理、eコマース、位置情報の処理、エンジンなどを組み合わせることで、バスの自動運転の機能を提供することができるようになると考えています。バスの場合は路線が決まっているので、やりやすいと思いますね。運行管理情報をバス会社に転送して、簡単にダイヤの最適化もできるのではないかと、いろいろ議論を重ねているところです。これらのことは、数年後には実現したいと思っています。

プロフィール

KDDI株式会社 要海 敏和 氏 写真

KDDI株式会社
執行役員常務 モバイル技術本部 本部長

要海 敏和 氏

1982年 国際電信電話株式会社(現KDDI)入社。
伝送、衛星通信、マイクロ波通信システムの開発、建設業務を経て、1997年以降は移動体通信システム(3G~5G)、BWAシステム(WiMAX)の開発、システム構築に従事。
2013年 UQコミュニケーションズ 執行役員技術部門長
2017年 KDDI株式会社 理事
2020年 KDDI株式会社 執行役員
2022年 KDDI株式会社 執行役員常務 現在に至る