“真の表面観察”を可能とする低加速FE - SEM

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部 山下 泰久

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目次
  1. 技術の発展と顕微鏡
  2. SEMの原理と歴史
  3. SEMは、本当に表面を観ている?
  4. アジレント・テクノロジーズ社製 8500型 低加速FE-SEM
  5. 高分解能・高感度性能を支えるキー・テクノロジー

走査型電子顕微鏡(以下SEM: Scanning Electron Microscope)は、表面観察を行う高分解能顕微鏡の代表格として一般的に利用されています。近年、極表面の観察を可能とする低加速電界放出型SEM(FE-SEM)が開発され多くの研究者から注目を浴びています。

技術の発展と顕微鏡

光・電子・原子間力などを利用した高分解能顕微鏡が開発・製品化され、学術的な用途から製品検査に至るまで幅広く利用されています。顕微鏡技術は、医学・薬学・材料・デバイスなどあらゆる分野の発展に欠かせないキーテクノロジーであり、“観る”技術が先端技術の発展を支えていると言っても過言ではありません。特に日本は、微細化技術で世界をリードしてきたこともあり、高分解能顕微鏡の普及率は高く、最も汎用的に利用されているSEMに至っては年間700台以上もの市場規模をもち、今後も増加傾向にあると予測されています。

SEMの原理と歴史

SEMは、電子源から取り出した電子ビームをスキャニング(走査)させながら試料に照射し、その際に放出される電子(二次電子や反射電子)を座標ごとに検出し、マッピングする事で、表面構造を得ます。原型は、 1930年代にベルリン工科大学のMax Knoll博士らによって考案され、1950年代にCambridge大学Oatley博士のグループらによって初期のSEMが開発されました。 1965年にCambridge Instrument社により世界で始めて商用型SEMが発売され、以来より高い分解能を求めてさまざまな改良がなされてきました。

SEMの分解能は、主に電子ビーム径の大きさに依存します。その径は、ビームの開き角、電子のエネルギー拡散や波長、作動距離(WD)に関係し、一般的には、加速電圧が高く作動距離が短いほど小さくすることが出来ます。このため、これまでのSEMでは数kV~30kVの比較的高い加速電圧を利用して高分解能な観察を実現してきました。

①電子ビーム径(d)の関係式
d2=(Mds)2+(0.5Csα32+(Ccα⊿V/V)2+(0.61λ/α)2- - - ①

M:レンズ系の総合倍率, ds:電子源サイズ,Cs:球面収差係数,α:ビームの開き角,Cc:色収差係数,⊿V:ビームのエネルギー幅,V:加速電圧,λ:ビーム波長(参考:ナノテクノロジーのための走査電子顕微鏡 日本表面科学会)

SEMは、本当に表面を観ている?

図1:シリコンのモンテカルロ法による電子拡散シュミレーション

加速電圧を高くすることで電子ビーム径を小さくすることはできますが、別の問題を引き起こします。図1に示すモンテカルロ法による電子の散乱シミュレーションが示すとおり、高いエネルギーの電子を試料に照射すると、入射した電子の内部散乱範囲が広がります。結果、2次電子や反射電子の発生範囲が広がり、“真の表面観察”を実現することが困難になります。高加速電圧で得られたイメージは信号強度が高く、一見すると分解能の高い測定ができているように見えますが、真に表面の構造を反映したイメージになっているか、常に考察する必要があります。(写真1:加速電圧を変えた場合のSEM像)

写真1:加速電圧を変えた場合のSEM像

また、高分子材料やセラミクスなどの絶縁試料を観察する場合には、照射する電子ビームによる熱ダメージやチャージアップが生じることから、一般的には金やカーボンなどの導電性材料を表面に蒸着して観察します。しかしながら、そのような試料を高倍率で観察すると、蒸着した材料自体が見えてきてしまい、目的とする試料表面を観察することが困難になります。写真2 レジスト上の30nmライン構造, 写真3 寄生虫(マンソン住血吸虫)にあるイメージは導電性材料を蒸着していないため目的とする試料の微細構造が観察されています。

写真2:レジスト上の30nmライン構造

写真3:マンソン住血吸虫

このように、SEMにおける”高分解能化”と” 真の表面観察”を実現するためには、電子ビームの低加速化が重要なポイントとなります。

アジレント・テクノロジーズ社製 8500型 低加速FE-SEM

アジレント・テクノロジーズ社がリリースした、 8500型低加速FE-SEM(以下8500型)は、低加速電圧での高分解能イメージングに最適化されたFE-SEMで、1kVの低加速電圧で10nm以下の分解能を実現しています。8500型のコンパクトなボディには、SEM上級者が望む、電界放出型電子銃(FE型電子銃)、高感度・高効率2次電子・反射電子検出器、高性能防振機構、真空排気系が標準で装備されています。さらに、直観的なオペレーションを可能とするグラフィカル・ユーザ・インターフェースや繰返し測定を容易にする座標記憶機能付きモータ・ステージも採用しており、SEMの上級者だけでなく、初心者にもご満足頂けるパワフルかつユーザフレンドリーな高分解能FE-SEMとなっています。

高分解能・高感度性能を支えるキー・テクノロジー

8500型では、高輝度で安定性に優れた熱陰極電界放出型電子銃(ショットキーFE電子銃)を採用しています。8500型の電子銃のバーチャル・ソース径は10nm以下と極めて小さく、電子線のエネルギー拡散も少ないため高分解能観察に適しています。手のひらサイズに設計された電子ビームカラムに内蔵されている対物レンズ,絞り,偏向レンズなど全てのレンズは、シリコン積層技術を応用した静電式レンズを採用しており、一般的に採用されている電磁式レンズに比べて、画質の低下の原因となる収差ずれを最小限に抑えることができます。また、試料直上に位置する4極マイクロチャネル・プレート型検出器は、2次電子・反射電子を効率良く検出することはもちろんのこと、上下・左右の対向するデータを即座に演算し、微小な凹凸を強調するトポグラフィック・イメージをリアルタイム表示させることが可能です。

低加速型FE-SEMは、今後走査型電子顕微鏡の主流となります。8500型低加速FE-SEMを通じて、これまで以上に、日本が強みとする材料開発・ものづくりに貢献していきたいと考えております。

主な仕様:分解能: 10nm/1KV
電子銃:電界放出型(ショットキー型)
加速電圧:0.5K-2KV
ビーム電流: 0.2n ‒ 1nA
測定モード:2次電子・反射電子・トポグラフィ

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部

山下 泰久

1992年東陽テクニカ入社以来、走査型プローブ顕微鏡・エネルギー分散型X線分析装置などの表面分析機器を担当。表面分析関連装置が専門。