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情報通信ネットワークの大容量化とイーサネットの進化
― 次世代IPパフォーマンステスタSpirent TestCenter ―

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部 河田 力

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. IPトラフィックの増加
  2. 進化を続けるイーサネット
  3. 40ギガイーサ/100ギガイーサのテクノロジとチャレンジ
  4. 40ギガイーサ/100ギガイーサ時代のパフォーマンステスト
  5. Column ユーザー様の声:40ギガイーサ/100ギガイーサ テスト事例 ①・②

IPトラフィックの増加

企業や個人ユーザが使用するIPトラフィックはこれまで順調に増加し、近年では、クラウドやスマートフォンの登場によって、さらにトラフィックが増えることが予想されています。 IPトラフィックのトレンドについては様々な企業等から統計データや予測が公開されていますが、ここでは2011年6月にシスコシステムズから公開されたレポート※1を元に、世界および日本のIPトラフィックがどのような状況であるかを紹介していきます。

図1:全世界のIP トラフィック予測

※1: Cisco Visual Networking Index(参照URL http://www.cisco.com/web/JP/solution/isp/ipngn/literature/VNI_Hyperconnectivity_WP.html

図1は2010年から2015年の、1ヶ月あたりに流れるIPトラフィック総量を予測したものです。2015年には1ヶ月あたり約81EB (エクサバイト=10の18乗バイト、テラバイトの百万倍)に達し、2010年から比べると4倍、年平均成長率(CAGR)は32%になると見込まれます。

またこのレポートではIPトラフィックを「有線インターネット(Fixed Internet)」、「マネージドIP(Managed IP: 企業通信)」、「モバイルデータ(Mobile Data)」の3つのタイプに分類し、この中で有線インターネットが60EBと最も多いことがわかります。さらにモバイルデータの伸びも著しく、 2010 年には合計 IP トラフィックの約1%程度だったものが2015年には約8%を占めるまでに増加すると予測されています。日本は全世界のIPトラフィックのうち2010 年で約1.4EB、2015年には約4.8EBを生み出すトラフィック大国です。CAGRも27%と、今後も堅調な伸びを続けていくと考えられます。

進化を続けるイーサネット

増え続けているIPトラフィックを、情報通信ネットワークはどうやって支えているのでしょうか?その中心となるテクノロジが「イーサネット※2」です。

イーサネットはOSI参照モデルと呼ばれるコンピュータ通信の階層構造において、下位の階層に当たるレイヤ1(物理層)、そしてレイヤ2(データリンク層)を担っています。本 来イーサネットはLAN(Local Area Network)向けの技術でしたが近年ではWAN(Wide Area Network)でも中心となっており適用領域をどんどんと広げています。これはイーサネットが多機能化や高速化した規格を追加し、常に進化し続けてきたことが理由に挙げられます。

図2:主なイーサネット規格の標準化時期

図2は主なイーサネット規格が標準化された時期と転送速度を示しています。図のうち青で示したものはツイストペアケーブル(より対線: Twisted Pair Cable)を使用する規格です。ツイストペアケーブルは取り扱いが簡単で、イーサネットの普及に大きく貢献しました。現在でも「LANケーブル」として家電店などに流通している製品の大部分はツイストペアケーブルです。イーサネットではツイストペアケーブルや光ファイバなどの様々なメディアを使って、10Mbpsの転送速度を持つ10メガイーサから100メガイーサ、そしてギガイーサや10ギガイーサと進化してきました。

このイーサネットでの新たな規格として、40ギガイーサおよび100ギガイーサが2010年6月に標準化されました。100ギガイーサを使ったネットワークではブルーレイディスク1枚分の情報(25GB)を2秒で転送することが可能になります。

40ギガイーサ/100ギガイーサでは、長くイーサネットの発展を支えてきたツイストペアケーブルの利用については規格化されていません。今後の技術革新により新たに規格化される場合も有りますが、本原稿の執筆時点※3では明確な見通しは立っておらず、このままツイストペアケーブルが採用されない可能性があります。

※2:イーサネットは、富士ゼロックス(株)の登録商標です。
※3:2011年9月時点

40ギガイーサ/100ギガイーサのテクノロジとチャレンジ

それでは40ギガイーサ/100ギガイーサとはどのようなテクノロジで成り立っているのでしょうか。

表1:40ギガイーサ/100ギガイーサ規格

表1はIEEE(米国電気電子学会:The Institute of Electrical and Electronics Engineers)が802.3baとして標準化した規格の一覧となります。極めて近距離(1m、7m)の場合を除いて光ファイバを使用することとなります。また、光ファイバでもこれまでイーサネットでは用いられていなかった複芯ファイバを使用する規格があります。これは40ギガイーサ/100ギガイーサで取り入れられたマルチレーン分配(MLD: Multi Lane Distribution)という技術が大きく関係します。例えば40ギガイーサの規格の一つである40GBASE-SR4で用いられる複芯光ファイバでは、複数ある光芯線のうち送信側で4芯、受信側で4芯を使用して、それぞれ10Gbpsでの転送を同時に行います。一方で100ギガイーサの規格である100GBASE-LR4等では単芯光ファイバを用います。この場合は4つの光波長を用いる光波長多重方式(WDM: Wavelength Division Multiplex)を用いて、マルチレーン分配が行われます。このように従来からある10ギガイーサの技術や光通信技術などを組み合わせて、40Gbpsや100Gbpsといった高速通信を実現させています。

その40ギガイーサ/100ギガイーサにも一つの大きな課題があります。それは光ファイバとネットワーク装置を接続するためのトランシーバが、現時点では大型で消費電力が大きく、高価である事です(図3)。これはWDMなどの複雑な機構をトランシーバ内に実装していることが主な理由となっていますが、今後の技術革新によって小型化されたより安価なトランシーバが市場に投入される見通しとなっています。

図3:100ギガイーサ用CFPトランシーバ
サイズ(mm) 幅:77.2 高さ:13.6 奥行き:144.75
消費電力 20W

40ギガイーサ/100ギガイーサ時代のパフォーマンステスト

このようにネットワーク装置への高速イーサネットの実装が既に始まっています。この高速イーサネット装置に対して今まで以上にテストの重要性が増していますが、これには以下のような理由が挙げられます。

・新しいテクノロジの動作を確認するため
・パフォーマンスやスケーラビリティが投資に見合うかどうか確認するため
・QoS(サービス品質: Quality of Service)が担保できるか確認するため
・ネットワークの運用時に必要な情報を収集するため
・高速イーサネット装置の機種選定を効率的に行うため

テストにも目的に応じて様々なタイプがありますが、今最も必要とされているのがパフォーマンステストです。折角新しいテクノロジを導入して構築したネットワークも、どこか一つの装置でも不十分なパフォーマンスであれば全体のネットワーク品質を下げる原因となってしまいます。特に40ギガイーサ/100ギガイーサ製品は未だ高価なものが多く、費用対効果を明確に見極める必要があります。

パフォーマンステストを通じてネットワークの品質向上へのポイントを把握し、投資をより最適化することが可能です。

当社では米国Spirent Communications社(以下「スパイレント社」)の次世代IPパフォーマンステスタ「Spirent TestCenter」を用いて国内のパフォーマンステストを長年リードしてきました(図4)。

図4:次世代IPパフォーマンステスタ「Spirent TestCenter」

40ギガイーサ/100ギガイーサ対応製品も標準化前の2010年2月に市場へ投入し大きな注目を集めました。さらに2011年6月には早くも第2世代の40ギガイーサ/100ギガイーサ対応テストモジュールを発表し、9月から出荷を開始しています(図5)。

図5:HyperMetrics mX 40/100ギガイーサモジュール

日本では情報通信ネットワークに対して、高速・大容量化や高機能化はもちろん、非常に高い品質や安定性も求められています。これらを高いレベルで実現し、ビジネスを成功に導くためにはテストが欠かせません。当社はパフォーマンステストを始めとする様々なテストソリューションを通じて、今後も日本の情報通信ネットワークの発展に貢献していきます。

Column ユーザー様の声:40ギガイーサ/100ギガイーサ テスト事例 ①・②

事例①40ギガイーサテスト
アラクサラネットワークス株式会社様

アラクサラネットワークスは、「ギャランティードネットワーク」というコンセプトのもと、世界に通用する高信頼かつ高性能ネットワーク機器を開発・製造・販売する国産メーカで、通信事業者や大企業を中心に製品を納めています。 2011年9月からは、データセンタ向けに10G多ポートスイッチAX3800Sシリーズを出荷開始しました。AX3800Sは同年6月に開催されたネットワーク業界における国内最大イベントである「Interop Tokyo 2011」でBest of Show Awardグランプリを受賞するなど、高い注目を集めています。

アラクサラネットワーク製10G多ポートスイッチ「AX3830S」

アラクサラネットワークス株式会社製品開発部 日野杉 英樹様よりいただきましたコメント

「 Interopでは Spirent TestCenterとAX3800Sを40ギガイーサで接続し、測定器からの入力トラフィックをリアルタイムで変動させAX3800Sで適切にパケット処理させるデモを行いました。Spirent TestCenterは操作がシンプルで結果がリアルタイムで表示されて判りやすいとお客様からも好評でした。私は研究開発において様々な測定器を使用しますが、測定器選びのポイントは先端技術のキャッチアップの早さだと思います。現在、 40G/100Gなどの次世代イーサネット技術の研究開発を行っていますが、スパイレント社は技術者を標準化団体に積極的に派遣するなどして先端技術のキャッチアップが早く、安心してお付き合いすることができます。」

事例②100ギガイーサテスト
インターネットマルチフィード株式会社様

東陽テクニカは、インターネットマルチフィード株式会社、株式会社インターネットイニシアティブ、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社が共同で行った世界初の超高速100 ギガビットイーサネット IX(ISP 相互接続点)共同実証実験に協力しました。共同実験では、スパイレント社の次世代IP 負荷測定ツール“Spirent TestCenter”を用いて、100ギガビットインタフェースを適用した際のIXネットワークの冗長構成や、100ギガビットのトラフィックを流した際の性能を確認しました。

インターネットマルチフィード株式会社 技術部 担当課長※4 任田 大介様よりいただきましたコメント

「今回、スパイレント社及び東陽テクニカの協力により Spirent TestCenter HyperMetrics 40/100 ギガビットイーサネットモジュールを潤沢に供給頂いた結果、100 ギガビットイーサネット相互接続実験における十分な負荷環境を実現することができました。

試験期間中Spirent TestCenter は安定して動作し、東陽テクニカの充実した技術サポートも頂いた結果、IXにおける異なる製品間の 100 ギガビットイーサネットによる相互接続性や性能を十分に確認することができました。これらの結果を元に、インターネットマルチフィードはサービスを提供するにあたっての仕様や価格を検討し、2011 年内の100 ギガビットイーサネットサービスの提供を目指します。」

※4: 所属は2011年6月当時。現在はエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に在籍。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部

河田 力

コアルータやバックボーンネットワークのパフォーマンステストを担当。近年はクラウドやサーバ仮想化分野にも活動を広げている。