ナノメートルレベルで材料表面の電気特性分布観察が可能に

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部 技術グループ 相蘇 亨

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目次
  1. ナノメートル領域の電気特性評価手法の歴史
  2. AFMとは?
  3. 局所仕事関数や帯電分布の可視化技術
  4. 局所インピーダンス・キャパシタンスの可視化技術

走査型プローブ顕微鏡法(SPM: Scanning Probe Microscopy)は、ナノ領域での表面観察ツールとして広く世界的に普及しています。中でもAFMは、形状観察だけでなく物性解析ツールに応用しようと、数多くの応用技術が研究され、実用化が進んでいます。

1. ナノメートル領域の電気特性評価手法の歴史

走査型プローブ顕微鏡自体の歴史は、 1982年のSTMの発明及び1986年のAFMの発明に始まります。その後、形状だけでなく物性の違いまで可視化できるような無数の応用技術がAFMをベースに発明されました。その中でも代表的なのが、KFMやSCMといった電磁気学的手法で物性解析する技術です。これらは半導体デバイス分野や材料科学分野などの様々な分野で広く利用されていますが、それぞれに長所と短所があり、特に微細化が進む半導体分野においては、検出感度や面分解能、定量性・再現性の面で今でもなお多くの課題があります。そこで電子計測とナノテク計測の両分野で定評のある米国アジレントテクノロジー社は、電気特性評価に特化したSPM機能を世界に先駆けて開発しました。ここではそれらの機能の基本原理や特長、応用例について紹介します。

2. AFMとは?

AFMは、数nmまで先鋭化した探針を先端に形成したカンチレバー(図1)と呼ばれる板バネを使い、非常に弱い力を保ったまま表面をなぞり形状測定する顕微鏡です。レーザ光をカンチレバー背面に当て、その反射光を4分割フォトディテクタで捉えることで、弱い力を微小な反り量の変化として検出します(図2)。この方式をコンタクトモードと呼び、カンチレバーを振動させながらさらに弱い力で制御しながらイメージングするタイプをACモードと呼びます。

図1: カンチレバー先端のSEM像

図2: AFMにおける形状測定の原理図

AFMには、カンチレバーを微小駆動させる為のピエゾ素子がXYZ軸用に組み込まれています。XY軸ピエゾはスキャンに用い、 Z軸ピエゾは探針-試料間に働く力を一定に保つようにフィードバック制御されます。このZ軸ピエゾに印加している電圧を長さスケールに変換したものを、表面形状像として表示しています。

応用分野は、金属、半導体、高分子材料、 バイオなど多岐に渡り、環境を選ばずに容易にサブナノメートル分解能の凹凸が測定できることがAFMの最大の特長です。

3. 局所仕事関数や帯電分布の可視化技術

3.1 いかに電位をイメージングするか

電位をイメージングするには、ケルビン法という測定技術をAFMに応用した“KFM”という手法を用います。探針-試料間の仕事関数の差に応じて集まった電荷の間に働く静電気力を、カンチレバーで検出し、その静電気力をキャンセルするように両者間にDC電圧を印加し、そのDC電圧を表面電位像としてイメージングします。試料が金属や半導体の場合のKFM像はカンチレバーと試料間の仕事関数の差を表し、絶縁物の場合は主に帯電分布を表します。用途としては、電池電極表面の腐食状態の観察、 動作中トランジスタ表面のバンド構造解析、 トナー等の帯電分布観察など多岐にわたります。

3.2 位相検出KFMとは?

一般的に市販されているKFMは、静電気力をカンチレバーの振動を直接ロックイン検出するいわば振幅検出方式ですが、アジレント社は、位相信号の中に含まれる静電気力成分を取り出し、この成分をキャンセルするようにフィードバック制御する位相検出方式を採用しました。位相成分には、静電気力の力勾配成分が含まれる為、検出感度と面分解能の向上に威力を発揮します。図3にSi基板上に自己組織化したF14H20を、従来の振幅検出KFMと位相検出KFMとで比較したデータを示します。

図3: (上段)左から形状像, 振幅検出KFM像, 位相検出KFM像
(下段)振幅検出KFMと位相検出KFMのプロファイル比較

4. 局所インピーダンス・キャパシタンスの可視化技術

4.1 マイクロ波を使ってイメージング

SMMは、マイクロ波通信解析に用いられるベクトルネットワークアナライザ(以下VNA)とAFMを組み合わせた画期的な手法で、試料表面のインピーダンス・キャパシタンス分布が測定可能です。SMMは、VNAとAFM、導電性プローブを含む共振回路系から構成されており、GHzオーダの電磁波がVNAから特殊な共振回路を通じて、試料表面に接触している導電性プローブから入射されます。このプローブは高感度なアンテナとして働き、VNA単体では到底検出できないような探針周辺の僅かなインピーダンス変化を、反射波の変化として捉えます。

4.2 微小キャパシタンスの定量測定

SMMは、キャパシタンス校正試料と自動校正アルゴリズム、及び浮遊容量の低減と再現性の向上の為に特別にカスタマイズされたPt製フルメタルプローブを用いることで、今まで定性的な測定しかできなかったaFオーダの微小キャパシタンス値の定量測定が期待されています。既知である校正試料上のキャパシタンス値と実測値とのフィッティングを行ないますが、実際の測定データを見ても、測定値とキャパシタンス値の相関関係が既に良い線形性を示すことがわかります(図4)。

図4: キャパシタンス校正サンプル構造(左上), 形状像(右上), キャパシタンス像(左下), キャパシタンス信号(縦軸)と理論値(横軸)の相関

4.3 低濃度キャリアの高精度測定

従来、半導体キャリア濃度分布評価にSCMと呼ばれる手法が用いられていますが、SMMを用いることで、今まで困難だった低濃度キャリア濃度測定が可能となりました。従来のSCMは1016以下のキャリア濃度で感度が低下するという問題点がありましたが、キャパシタンス信号では1014以下もリニアに信号が変化するため、キャリア濃度の定量評価が期待されています。図5に各信号とキャリア濃度との相関を示します。

図5: キャリア濃度(横軸)とSMM信号(青), SCM信号(赤)の相関

SMMは微小インピーダンスが測定可能な為、半導体キャリア濃度測定だけでなく、誘電体材料の誘電率分布測定や、生体サンプルのインピーダンス分布測定にも応用可能です。また、マイクロ波周波数が2~18GHz程度まで可変できることから、誘電率の周波数特性評価への応用も期待されています。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部 技術グループ

相蘇 亨

2004年 東陽テクニカに入社。主に走査型プローブ顕微鏡を用いた電気物性評価関連のアプリケーションを担当。