“真の表面観察”を可能とする
~低加速FE-SEM~

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部 橋本 拓

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目次
  1. はじめに
  2. FE-SEMとは
  3. 低加速の必要性
  4. 1.表面近傍の観察
  5. 2.チャージアップ
  6. 光学系
  7. 検出器
  8. コンパクトFE-SEM
  9. まとめ

はじめに

分野・アプリケーションを問わず試料を評価する方法は世の中に数多く存在しますが、その中でも私たちにとって最も身近で基本的な手法は視覚的に観察することであるといえます。今回は表面を観察する電子顕微鏡の中でも最も一般的に使用されている走査電子顕微鏡を取り上げます。

FE-SEMとは

SEMとは走査電子顕微鏡 ( Scanning Electron Microscope) の頭文字に由来します。高電圧によって加速された電子線をレンズにて収束して得られる微小径の電子プローブを試料表面に照射・走査し、試料から反射した電子の応答によって試料の情報を観察します。顕微鏡の分解能は波長に大きく依存し、例えば光学顕微鏡は可視光の波長(約360~760nm)に分解能に限界が存在しますが、電子顕微鏡では電子線の波長(約0.002~0.1nm)を用いて観察を行うため、より高分解能での観察が可能になります。また電子線は物質の相互作用が強く、多くの情報を得ることに適しています。

また電子線を発生する電子銃には大きく分けて熱電子銃型と電界放出電子銃型があります。

このうち金属表面に強い電界を掛けた際に起こる電界放出を利用したものが電界放出電子銃(Field Emission Electron Gun)であり、この電子銃を用いたSEMをFE-SEMと呼んでいます。熱電子銃と比較して光源のサイズが小さい、高輝度でありS/N比が高い、エネルギー拡散が少ないといった特徴があるため一般的に高分解能撮観察にはFE銃が用いられます。

低加速の必要性

一般的に加速電圧を高くすると電子線の波長が短くなり、電子プローブ径を細くすることができます。当然電子プローブが細くなれば、解像度が上昇します。それにも関わらずなぜ加速電圧を低くする必要があるのでしょうか。

先ずは、高電圧に加速した電子線を試料に照射することにより試料が損傷する可能性が挙げられます。更にこれとは別に、以下に述べる2点からも低加速の必要性を説明することができます。

1.表面近傍の観察

次の図はシリコンに対して加速電圧を1kV及び10kVに設定して電子線を照射した際に、試料内部へ電子線が広がっていく様子をシミュレーションしたものです。加速電圧1kVでは電子線はほぼ試料の表面のみで散乱することに対し、加速電圧10kVでは1μm程度の深さまで電子線が入り込むことが分かります。このように加速電圧が高いと試料の奥深くの情報まで得られますが、その一方で試料のごく表面の形状を正しく捉えることができません。

1kV

10kV

次の写真は加速電圧を変更した場合のSEM像です。一般的に高加速電圧になればプローブ系を細くできるため分解能は上昇しますが、その一方で試料の最表面の構造を確認するためには電子線が試料内部に到達しないように加速電圧を低くする必要があります。

2.チャージアップ

導電性の試料を観察する際には、照射した電子は試料ホルダなどを経由して試料外部へ流れ出ていくため、試料に滞留することはありません。しかしながら非導電性試料を観察する際には照射した電子が試料の中に滞電(=チャージアップ)することがあります。試料に電子が滞留すると一次電子の進行を妨げてしまい本来の試料表面構造を得ることができません。試料に導電性を持たせるため表面に金属コーティングを施してチャージアップを防ぐことはできますが、これでは試料元来の最表面の形状を観察することができなくなります。

非導電性試料を金属コーティングすることなく観察する良い解決策は、低加速電圧を用いることです。上のグラフは電子線のエネルギーと2次電子の放出効率を表したグラフです。放出効率が1以上であれば、試料に照射した電子よりも放出される電子の量が大きくなりチャージアップしません。逆に放出効率が1未満であれば、試料内部に電子が滞留しチャージアップします。加速電圧をEc2(約1kV)に設定することにより、電子は試料内に留まることなく放出されるため、チャージアップすることなく観察を行うことができます。

また試料の帯電を緩和する方法としてCarl Zeiss社 のMerlin/Merlin VP compactにはチャージコンペンセイター機能を搭載できます。これは非導電性の試料を観察する際、試料直近にガスを導入することにより試料の帯電を中和するものです。試料直近にのみガスを導入するので、高真空用の検出器をそのまま使用できます。

光学系

Carl Zeiss社 製 の走査電子顕微鏡(Model:MERLIN 写真1)は”Geminiカラム”と名付けられた特徴的な光学系を採用しています。

写真1 Model:MERLIN

GEMINIカラムは磁界型及び静電界型のレンズを組み合わせたハイブリッド対物レンズを搭載しており、電子銃から電子線を発生し試料に照射されるまでの経路にクロースオーバー点が存在しない設計となっています。仮に電子線が経路の途中で交差すると、電子同士の相互作用によって電子線のエネルギー分布の幅(=色収差)が増大します。エネルギー差のある電子は焦点距離にも差があるので、結果的に焦点がにじむことになります。特に加速電圧が低い場合にこの色収差の影響が大きくなります。

また鏡筒の内部では一旦電子を加速し、対物レンズの先端に配置された静電レンズによる電界にて電子を減速することにより、鏡筒内部での色収差の発生を低減しています。同時にこの減速電界は試料表面を高分解能で観察する為に試料から発生する二次電子をインレンズ検出器へ向かって引き上げる役割も果たしています。

これらの色収差を軽減する光学設計によって、加速電圧などの観察条件を変更した際にも光軸位置が変わらず、試料の同じ位置を観察し続けることができます。これは最適な観察条件を見つけ出す時間と手間を大幅に低減でき、スループットの向上に大いに貢献します。

検出器

GEMINI鏡筒には、それぞれの検出器を試料の表面情報、凹凸情報、結晶情報などを得るために最適化された位置に搭載することができます。

インレンズ二次電子検出器は対物レンズの上方に設置され、対物レンズ内での電界によって巻き上げられた二次電子(~50eV)だけを検出します。試料表面を高分解能観察する目的で使用されます。

インレンズ二次電子検出器のさらに上方に設置されるEsB検出器(Energy and angle selective Backscattered electron detector) はhigh angle BSE(Back-scattered Electron )とも呼ばれ、照射した電子線に対して照射方向に近い高角度で反射した電子を検出することにより、またエネルギーフィルターを用いて検出器に入射する電子のエネルギーを選択することにより、組成コントラストを得ることができます。ポールピースの下部に設置されるAsB検出器(Angle selective Backscattered electron detector)はlow angle BSEとも呼ばれ、照射した電子線に対して試料から広角に反射した電子を検出することにより結晶情報を得ます。試料ステージの高さを変更することにより収集する電子の角度を選択できます。なおこの検出器を用いる際には散乱量を多くするため加速電圧を高く設定することがあります。

検出器に関する大きな特徴としてこれらの検出器を同時に使用できるということがあげられます。低加速電圧時の分解能向上のため、リターディングという手法が使用されることがあります。これは電子ビーム径を絞る、色収差を低減するといった観点で加速電圧を観察する電圧よりも高く設定しておき、一方で試料台に逆バイアスを印加することによって、電子線を減速する方法です。試料から反射した電子線はこのバイアス電圧よって上方に加速されることになり、チャンバー側壁に設置された二次電子検出器やその他の分析用検出器へ電子が入射しなくなります。当社取扱製品ではリターディング機能を搭載していないため、鏡筒内部の検出器およびチャンバー内部の検出器を同時に使用することができます。試料を観察する際には当然いろいろな観察条件で像を撮り比べることになりますが、この条件出しにはある程度の時間と熟練を必要とします。複数の検出器から得られる情報を同時にモニタリングしながら、また極低加速領域まで光軸がずれることなくシームレスに観察条件を変更できるので、条件出し及び観察にかかる時間と労力を大幅に低減することができます。

コンパクトFE-SEM

Agilent社製低加速イメージング用8500型FE-SEM(写真2)は、従来の鏡筒から体積比で約1/4、重量比で約1/10の小型化を実現しながらも、熱陰極FE電子銃を搭載し、2次電子検出器/反射電子検出器を装備しており、これまでの卓上型ではなし得なかった低加速/高分解能観察を実現します。8500型はAC100Vで駆動し、コンプレッサーや冷却水循環装置といったユーティリティも不要です。また、光学系には静電界型レンズを用いており、 Carl Zeiss社の特徴と同じく、加速電圧を変更しても光軸位置が変わりません。

まとめ

走査電子顕微鏡においては観察対象から必要な情報が正確に捉えられるかといった性能面がまず第一に求められます。

その一方で情報が得られるまでにかかる時間と費用に関しても考慮しなければなりません。試料を評価するために掛かる時間が長くなると、当然ながら研究開発にフィードバックするまでの期間も長くなります。また限られた時間の中で評価できる試料数が少なくなると電子顕微鏡の導入に対する投資効果も薄れてしまいます。

今回ご紹介した走査電子顕微鏡は高性能面と高スループットを極めて高い次元で両立しており研究開発から品質管理まで様々なニーズに対して評価スピードの高速化とトータルコストの低減に必ずや貢献します。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部

橋本 拓

2002年4月入社。マテリアル関連の評価システム及び分析装置の技術担当を経て、現在は電子顕微鏡に従事。