電波望遠鏡と衛星追尾
~パラボラアンテナとその利用~

VLBI技術開発 代表国立天文台名誉教授 川口 則幸

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目次
  1. はじめに
  2. 世界の大電波望遠鏡
  3. 望遠鏡と望遠鏡を結ぶ技術VLBI
  4. 人工衛星の追尾
  5. スペースVLBIプロジェクト
  6. 東アジアVLBI観測網

はじめに

天体を観測する望遠鏡でまっさきに思いつくのはアストロドームに収められた光の望遠鏡で、接眼レンズを通して星を見る、というのが一般的印象でしょう。光の望遠鏡は目で見ることのできる電磁波(波長380nmから750nm)だけでなく、赤外線(波長0.7μmから20μm)の観測にも使用されています。赤外線は目では見えないので、専用の検出装置で受光して観測結果は計算機ディスプレイに表示されます。日本が運用している最大の光の望遠鏡は「すばる望遠鏡」で、直径は8.2mです。赤外線と同じように目で見ることのできない電磁波(波長1mmから1m)をとらえるのが「電波」の望遠鏡です。電波望遠鏡は「パラボラ」という愛称で知られており、直径10m以上の「パラボラ」アンテナが使われています。世界には直径が60m以上もある大型電波望遠鏡が電波天文観測に使用されています。大きな望遠鏡ほど信号の検出感度が高く、天体からの微弱な電波をとらえることができるからです。本稿では世界の大型の電波望遠鏡を紹介するとともに、これら大型電波望遠鏡を結び付けて、さらに高い感度と分解能を得る技術、VLBIについて述べます。パラボラアンテナは電波天文観測だけでなく、人工衛星の追尾にも使用されます。本稿では、電波望遠鏡と衛星追尾アンテナが密接にかかわるスペースVLBI計画についても述べます。

世界の大電波望遠鏡

図1に世界の大口径電波望遠鏡の外観を示します。

図1:世界の大望遠鏡

左上のALMAはミリ波・サブミリ波の干渉計でチリのアタカマ高地(標高5,000m)に日米欧の協力で建設された「アルマ望遠鏡」です。高い鏡面精度の小型アンテナを多数合成(7m12基、12m54基)することで等価直径90mの大望遠鏡を形成します。TM65mは中国上海天文台の天馬65m鏡で2012年に建設されました。 SR64mはイタリアのサルジニア島に建設中のミリ波大型アンテナ、NRO45mは日本の国立天文台野辺山観測所に1981年に設置された直径45mのミリ波望遠鏡、 GB100mは米国国立電波天文台のグリーンバンク観測所に2000年に建設された直径100mのオフセット型主鏡を持った大望遠鏡、Bonn100mはドイツのボン郊外エフェルスブルグに1972年に建設された直径100mの望遠鏡。これらの望遠鏡はそれぞれ単独で電波天文観測に使用されます。宇宙には様々な分子ガスが存在して分子固有の波長の電波を放射しています。中性水素は1.42GHz、水酸基分子は1.6GHz、メタノール分子は6.7GHz、水分子は22.2GHz、一酸化ケイ素分子は43GHzと86GHz、一酸化炭素分子は115.3GHzなどが良く知られています。星が誕生するときにはこれらのガスが星の周りに集積して強い電波を放射します。また、星の終末期に当たる晩期型星の周りも濃密な分子ガスに覆われていて、星の中心部から宇宙空間にガス(物質)として放出されている様子を見ることができます。

以上述べたように、単一の電波望遠鏡で宇宙空間に広く分布した分子ガスを観測しますが、直径100mの大望遠鏡を使って観測しても電波の観測波長が長いために高い分解能が得られません。分解能は望遠鏡によって識別可能な最小の角度のことで、(波長)/(望遠鏡の直径)(単位ラジアン)で与えられます。電波天文観測では非常に高い周波数100GHzにおいて、100mの物理的な開口径を持つパラボラアンテナが電気的にも100%効率良く動作したとして計算しても、その分解能は7秒角に過ぎません。光学観測の1秒角を切る高い分解能は得られません。光学観測の分解能は、望遠鏡のサイズにはよらず主に大気の揺らぎによって決まります。地表で約1秒角、すばる望遠鏡のあるハワイマウナケア山山頂で0.4秒角、最新の補償光学技術を採用することで0.1秒角より良い分解能が得られています。波長が長い分だけ分解能が悪い電波観測の分解能をより良くするために、遠く離れた電波望遠鏡を結合して高い分解能とより高い感度を得るVLBI技術が開発されました。SR64mやBonn100mは欧州にある多数の電波望遠鏡と結合され、欧州VLBI観測網(EVN)を構成しています。GB100mは米国VLBI観測網(VLBA)と結合して、高い感度が必要な観測に使用されています。 NRO45mやTM65mは東アジアVLBI観測網(EAVN)の主力望遠鏡としての活躍が期待されています。観測網の拡がり(単一電波望遠鏡の直径に相当)は数千kmにおよび、中性水素線(波長21cm、1.4GHz)の観測という低い周波数でも光学観測をはるかに凌ぐ7ミリ秒角という高い分解能が得られています。後述するスペースVLBI観測では0.4ミリ秒角という高い分解能を達成しました。

望遠鏡と望遠鏡を結ぶ技術VLBI

図2にVLBIの原理図を示します。遠く離れた電波望遠鏡を直接ケーブルで結ぶことは困難*注ですので、電波望遠鏡でとらえた天体からの信号はいったん磁気媒体に記録し、一か所に集めて合成します(注:最近は光ファイバーを使った長距離高速通信回線で直接電波望遠鏡を結合するeVLBI技術も使われ始めました)。この方法で、原理的にはどんなに遠く離れた電波望遠鏡でも結合することが可能になりました。観測データを集めて合成処理する局は相関処理局と呼ばれており、日本や米国、欧州の他に韓国や中国にも相関処理局が運用を開始し国際共同観測に参加しています。

図2:望遠鏡と望遠鏡を結合する技術、VLBI

VLBIは複数の電波望遠鏡を合成し、個別では達成できない高い感度や分解能を得る他に、望遠鏡間の相対位置を正確に計測するためにも用いられます。天体からの電波はまず図2の左側のアンテナで受信され、少し遅れて右側のアンテナで受信されます。この遅れ時間は、それぞれの電波望遠鏡が遠く離れていればいるほど大きくなります。逆に、この遅れ時間を正確に計測することで、望遠鏡間の距離が正確に計測できます。望遠鏡間の距離だけでなく、地球の回転(自転運動)も正確に計測できます。図3に原理図を示しますが、電波の到達時間差を地球が一回転する間計測することで、地球自転軸の位置の変動や回転速度の変化、春分点の季節による移動などが明らかにされています。

図3:地球の回転を測るVLBI

人工衛星の追尾

パラボラアンテナは人工衛星の追尾や衛星データの地上伝送の際にも使用されます。図4は、我が国の通信衛星(CS)や放送衛星(BS)の追尾とデータ伝送に用いられた直径13mのパラボラアンテナです(左側がBS用、右側がCS用)。このアンテナは2015年の夏に撤去されました。筆者はCS用13mアンテナを用いた衛星追尾実験を担当しました。CSの受信周波数は19GHz帯でBSは12GHz帯です。 CS/BS13mアンテナは、1976年に建設されたアンテナで、ビーム伝送方式(4枚のミラーで受信部まで信号を伝送する方式)が採用され、その後この方式は野辺山宇宙電波観測所45m望遠鏡、臼田宇宙空間観測所64mアンテナ、国土地理院つくば32mアンテナなどにも引き継がれています。当時は直径13mのアンテナで各種衛星通信実験が行われましたが、現在では人工衛星の性能が格段に向上し、地上の追尾アンテナとしては直径数mの小型パラボラアンテナで可能になりました(図4)。

図4:NICT鹿島宇宙実験センターの衛星追尾用13mアンテナ(情報通信研究機構(NICT)ホームページより)

宇宙科学研究所は1985年に惑星間試験探査衛星「さきがけ」とハレー彗星探査機「すいせい」を打ち上げ、国際共同探査計画に参画しました。「さきがけ」と「すいせい」はM3型ロケットで打ち上げられた小型の科学観測衛星で大きなアンテナや高性能の通信設備を搭載できませんでした。そこで、地球から遠く離れた探査衛星と交信するため、直径64mの大型衛星追尾アンテナが建設されました。図5に臼田宇宙空間観測所の64mアンテナの外観を示します。図5を良く見ると左上に小型の衛星追尾アンテナが見て取れます。これは直径10mの「はるか」追尾用アンテナです。「はるか」は世界で初めてのスペースVLBI観測用の宇宙電波望遠鏡で、天体観測データを128Mbpsという超高速で地上局に伝送します。このため、直径10mの追尾アンテナは、宇宙研究としては初めてKu帯(14GHz帯) の受信が可能になっています。Ku帯を使用する以前は、S/X帯(2/8GHz帯)を使用していました。運用周波数を高くすることでより大量の情報伝送が可能になりました。「はるか」計画における地上追尾局は、臼田10m局の他にオーストラリア局、スペイン局、米国カリフォルニア局とウエストバージニア局の計5局が参加しました。

図5:臼田宇宙空間観測所(©宇宙航空研究開発機構(JAXA))

スペースVLBIプロジェクト

すでに述べたVLBIの原理(図2)から見ればわかるように、電波望遠鏡がたとえ宇宙にあっても地上局との合成は可能です。衛星(宇宙電波望遠鏡)からのデータ(天体観測データ)は、地上の追跡局で受信し、磁気記録されます。記録媒体は相関局に送られ、地上の多くの電波望遠鏡との合成処理が行われます(図6)。宇宙電波望遠鏡の軌道は遠地点が地上高21,400kmなので、地球の直径12,700kmを勘案すると最大基線長は34,000kmを超え、主力観測周波数帯5GHz帯における分解能は0.4ミリ秒角、最高観測周波数22GHz帯では80マイクロ秒角という高い分解能が得られました。また、宇宙電波望遠鏡は超楕円軌道(近地点560km)に打ち上げられましたので、地上電波望遠鏡との相対位置関係が刻々と変化し、たった1基の宇宙電波望遠鏡だけで数基の地上電波望遠鏡に相当する撮像効果を発揮して、高いイメージング能力が得られました。これにより、非常に遠方のクエーサーの微細なジェット構造が描き出されました(図6)。宇宙電波望遠鏡の観測データを地上で受信する追跡局は世界で5局参加しましたが、そのうち臼田局では新宇宙探査用の64mアンテナを地上電波望遠鏡として電波天文観測に使用(1.6、5、22GHz帯)する他、地上追跡局(10m局)も併設して宇宙電波望遠鏡の観測データも取得してその場で相関を確認するという重要な役割を果たしました(図5)。

図6:スペースVLBI観測の概念図

東アジアVLBI観測網

電波望遠鏡を結合することで天体の構造を撮像したり、地球の回転や望遠鏡位置を正確に計測して精密な地図作りに役立てたり、といった応用をこれまで見てきました。この他、日本ではVERA計画を推進しており、我々の銀河(天の川銀河)を構成する星々の位置(方角と距離)を正確に計測する観測を行っています。また、韓国ではミリ波帯電波天文観測専用のVLBI観測網(KVN)を建設し2010年から本格的な運用を行っています。2013年からはKVNとVERAを結合したVLBI観測網(KaVA)を共同利用でオープンしました。

VERAとKVNを結合することで高いイメージング能力が得られています。また、中国にはすでに紹介した上海天文台の天馬65m局の他、北京天文台の密雲50m局、新疆天文台の南山26m局、雲南天文台の昆明40m局などのVLBI局が中国VLBI観測網(CVN)として稼働しています。CVNは中国の月探査計画において月周回衛星の軌道の精密計測や月面移動車の位置精密計測のためにVLBI観測を行っています。

日本、韓国、中国のVLBI関係者は、それぞれの運用するVLBIネットワーク、VERA、 KVN、CVNを結合して東アジアVLBI観測網を形成すべく試験観測を開始しています。図7に局配置図を示しますが、このネットワークは、空間的な広がり、観測可能周波数帯、望遠鏡の総開口集光面積、のどの項目についても世界の他のVLBI観測網、欧州VLBI観測網(EVN)、米国VLBI観測網(VLBA)に匹敵する北半球における3大VLBI観測網の一つに位置付けられます。また将来はタイやベトナムへの展開も検討され始めています。

図7:東アジアVLBI観測網の建設

筆者紹介

VLBI技術開発 代表国立天文台名誉教授

川口 則幸

1977年より一貫してVLBI技術の開発研究に従事、郵政省電波研究所鹿島支所(現NICT鹿島宇宙センター)の34mアンテナを建設する他、スペースVLBIプロジェクトにおいて宇宙電波望遠鏡の開発や国立天文台の高精度位置天文観測ネットワーク(VERA)の開発を行った。