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100ナノメートルオーダーのDLC膜の“硬さ”を測定

株式会社東陽テクニカ 分析システム営業部 江川 正利

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目次
  1. 数百nmの薄膜の硬度測定が可能
  2. 作業者の経験に頼らない自動測定
  3. 豊富な測定パラメータと拡張機能
  4. 薄膜硬度計の利用範囲

薄膜硬度計「iMicro-A」は、ものづくり日本を支える最先端薄膜材料の開発・評価に欠かせない薄膜の硬度を高精度に測定するために設計された最新の硬度計です。複数のサンプルを自動バッチ測定でき、高効率かつ測定者の主観が混じらない信頼性の高いデータを提供いたします。

私たちの周りには、高性能化を実現しながら、小型・軽量化を実現した商品が数多くあります。例えばスマートフォンでは、何kgもあったパソコンと同等以上の性能が、片手で持てるサイズと重さで実現されています。日本の基幹産業の自動車部品では、ガラスに代わって樹脂が利用され軽量化に貢献しています。またパワートレイン部品には高性能かつ低燃費化のため、低摩擦・低摩耗のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が利用され始めています。これら商品の高性能・小型・軽量化には、多種にわたる機能性薄膜の技術進歩が欠かせません。しかし一方で薄膜を利用することは破損しやすいという危険を伴います。そのため、これらの薄膜には機械的強度が求められます。

機械的強度の指標の一つとして工業的に硬度(硬さ)が用いられ、古くからビッカースやロックウェルなどの硬度計で測定されてきました。しかし、このような硬度計では薄膜の硬さを測定することはできません。

薄膜硬度計「iMicro-A」は薄膜の硬度を測定するために開発された最新の標準硬度計です。

薄膜硬度計「iMicro-A」

数百nmの薄膜の硬度測定が可能

薄膜の硬度測定では、基板が変形しないように膜厚の5から10分の1の押込み深さに留めなければならないことが経験的に知られています。これは1µm厚の薄膜の硬度を測定するためには、押込み深さを100nm~200nmに留めなければならないことになります。薄膜硬度計「iMicro-A」の荷重分解能はわずか6nNであり、数十nmの押込みも余裕を持って行えます。自動車のパワートレイン用部品では数µm以下のDLC膜の利用が増えています。しかし、DLC膜は成膜条件によって膜質が大きく変わることが知られています。

また、スマートフォンの保護フィルムは光沢や低反射などの機能と同時に傷つき難さを両立させるため、数100nmのハードコート膜が利用されています。

このような薄膜の膜質や機械特性の評価・品質管理を行うには100nmレベルの押込み深さの硬度測定は欠かせないもので、「iMicro-A」は最先端薄膜の開発から製造プロセスの管理まで幅広く利用いただけます。

測定例として、図1は金属基板(SUJ2)上に異なる成膜条件で堆積させた1μm厚のDLC膜の押込み結果で、表1はその硬度測定結果を示します。押込み深さはわずか100nm~200nmで、基板の硬度が混在せずにDLC膜そのものの硬度が測定できます。

図1:SUJ2基板上に堆積させた1µm厚のDLC薄膜を10mNで押込み試験した荷重-変位曲線

表1:図1の曲線を解析して得られた硬度・ヤング率

作業者の経験に頼らない自動測定

薄膜の硬度測定法はISO14577計装化押込み試験法として規格化されています。この試験法は、押込み試験時の印加荷重と押込み深さを同時に測定し、荷重-変位曲線を解析することで硬度を算出します。作業者は圧痕観察を行う必要が無く、測定結果は作業者の主観や経験の影響を受けません。したがって、薄膜硬度計「iMicro-A」はバッチ処理で一度に複数のサンプルを自動測定でき、夜間も測定に有効利用でき生産性・作業効率の向上に貢献します。

豊富な測定パラメータと拡張機能

薄膜硬度計「iMicro-A」は、最大1Nの荷重まで印加することができ、薄膜の破壊靱性や密着性評価にもご利用いただけます。このような測定パラメータは薄膜の強度を評価する一つの指標として利用できます。

図2:破壊靱性の評価例
サンプルにクラックが発生するまで押込み、クラックの長さをAFMやSEMで測定し、破壊靱性値を求める。

一方「iMicro-A」は、100nmレベルの薄膜や樹脂など、より低荷重測定が要求されるアプリケーションに対応する超低荷重押込み機構InForce50(荷重分解能:3nN)も搭載でき、より薄い薄膜や生体材料の硬度測定などにもご利用いただけます。拡張機能として圧子を微小振動させるダイナミック試験機能も備わっており、薄膜押込み時の硬度の深さプロファイル収集や局所的な損失係数測定など、機械特性の新たな測定パラメータも提供できます。さらに、高速押込み機能を利用し、硬度の2D/3Dマッピングが行えます。

図3:Cr-Cr₃Siのマッピング例
左は表面形状、右は硬度の2Dマッピングデータ。

薄膜硬度計の利用範囲

冒頭で述べたように、スマートフォンや自動車部品・エレクトロニクス部品などの多くの産業では薄膜が利用されています。高性能・高品質なものづくりを維持し、商品競争力を保つには薄膜の開発と利用は欠かせないものであり、その評価においては正しい判断を短時間で行うことが求められます。しかし、ビッカースやロックウェル硬度計ではこのような判断を行うことが困難です。日本のものづくりを支えるツールとして薄膜硬度計「iMicro-A」をご利用いただきたいと思います。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 分析システム営業部

江川 正利

1999年入社。ナノインデンターなどのナノ領域分析装置の販売に従事。日本材料試験協会「硬さ研究会」に参加し、硬さ測定の普及に務める。