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最新の医療技術「Myrian Software」

株式会社東陽テクニカ メディカルシステム営業部 統括部長 中村 達司

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

目次
  1. 現在の医用画像処理技術
  2. Intrasense社Myrianプラットフォーム
  3. がんについて
  4. 最新のがん治療とMyrianアプリケーションによる術前計画
  5. Myrianシミュレーション画像の拡張性
  6. おわりに

現在の医用画像処理技術

メディカルシステム営業部は、1992年より超音波診断装置用のモニターからメディカル製品の取り扱いをスタートしました。それから25年が経ち、技術の進歩とともに医用画像の現場では、新しい医用画像撮影装置(モダリティ)が続々と開発され、当社でも多様な最先端の医療技術を扱っています。モダリティの技術において、MRIは磁場強度Max1.5T(テスラ)でしたが、今では3.0Tの強磁場が可能となり、CTに関してはシングルスライスからマルチスライス(Max320列)が可能となり、より鮮明な画像がより早く取得可能となりました。また、コンピュータの発達により、25年前はアナログ技術でX線写真をフィルムに焼いていた画像もほとんどがデジタル技術で処理可能となっています。健康診断を定期的に受けている方はご経験があると思いますが、25年前はフィルムを使用して医師が診断、説明していた胸部レントゲン画像が、最近はフィルムからLCDモニターに代わってきていることに気づくと思います。アナログ時代ではレントゲンフィルムはその画像を診断目的に使用するのみでしたが、デジタル技術では画像データの二次利用も可能となり、実際その技術も発展してきています。例を挙げると、胸部写真の肺野部分を見やすくするために肋骨を除去するBone Suppression(骨透過処理)技術、画像から病変の候補を抽出するCAD(Computer Aided Diagnostic)などが挙げられます。このような技術の一つであるフュージョン技術は、複数の撮影装置から得た画像を重ね合わせて利用できます。

医用画像を取得する撮影装置は症状に応じて使用されますが、それぞれ長所と短所を持っています。例えば、CTやMRI の画像は鮮明に病変を描出しますが、リアルタイムで画像を取得することはできません。一方、超音波装置は画質はファジィですが、リアルタイムに画像を取得することが可能です。そのため、腫瘍の位置の確認のためには、CT画像を補助的に使用し、リアルタイムで超音波を使用して作業を行っています。しかし、これでは医師が超音波画像とCT画像を同時に見ることができず、手術現場などでは交互に画像を見る手間がありました。しかし、フュージョン技術を用いることで超音波装置にCTやMRI画像を取り込み、超音波装置モニターでCT画像と超音波画像を同時に表示することも可能となり、それぞれのメリットを生かした画像提供を可能としています。

さらに、最近では医用画像も平面の2D画像から立体的な3D画像に変わってきています。CTの画像をxとyの2次元の世界でとらえていた平面画像に、z軸の情報を追加することで、人間の体を3次元化して診断できるようになりました。立体的な画像を提供することにより、腫瘍の大きさを体積として表現し、形をより鮮明にビジュアル化します。医師の診断の手助け、患者への分かりやすい説明などのメリットに加え、 3D画像を用いて手術の際の術前シミュレーションを実施することも可能となってきています。ここでは、当社の取扱製品の一つであるIntrasense社のマルチモダリティ画像ビューア「Myrian」の3次元画像技術を用いた、最新のがん治療を紹介します。

Intrasense社Myrianプラットフォーム

Intrasense社はフランスのモンペリエに本社を置き、メディカルソフトウェアを開発、世界各国に展開している企業です。そこで開発されている医用画像処理ソフトウェアの一つに「Myrian」があります。「Myrian」は各国の医療規格 FDA(USA)、CE(ヨーロッパ)、CFDA(中国)、薬機法(日本)に準拠しており、14の言語をサポートしています。機能としては血管解析、肺解析、大腸バーチャル内視鏡、前立腺解析、肝臓手術プランニングなど、多岐にわたるアプリケーションが用意されています。また、Intrasense社は外部ソースのアプリケーション、または外部ソフトウェアに「Myrian」のアプリケーションを簡単に統合することができるSDKやToolkitをリリースしており、当社からも各医療メーカーに対して「Myrian」の各機能をOEM販売しています。概念図は図1を参照ください。

図1:Myrian Toolkit およびMyrian SDK概念図

Myrian Toolkit とは「Myrian」が既に標準として持っているlibraryをカスタマーのビューアに組み込む方法です。これによって、Myrian library機能があたかも自社ビューアの標準機能であるかのように使用できます。一方、Myrian SDKは「Myrian」のビューアの中にカスタマーが独自に開発したlibraryを組み込むことができる機能です。これにより自社製libraryをそのまま「Myrian」上で動作させることができるメリットを持っています。

がんについて

多くの人は、がんは特別な人がなる病気である、と思っていますが、誰がなってもおかしくない病気です。どんな健康な人でも例外なく体内で生成される約3,000~5,000個のがん細胞を体内の免疫細胞が日々駆逐しています。しかし、加齢やストレスなどで免疫機能が低下すると、駆逐を逃れたがん細胞がひそかに分裂を繰り返して大きくなっていきます。その細胞が定期健診で発見可能な早期がん(直径約1センチ、重さ約1グラム)になるまで約10年が必要と言われています。ところがこの後は早いスピードでがんが進行し、わずか3年ほどの間に、手術で完全に取り除くことが困難な進行がん、さらに病巣が全身に転移する末期がんへと移行していきます。ここまで来ると最新の医療でも名医であっても完治は厳しくなってきます。もし、定期健診で早期がんが見落とされ、その翌年に発見されたとしても末期がんまでは残り2年しかないことになります。これが、がんは怖い病気と言われる理由です。

2011年に帰らぬ人となったスティーブ・ジョブズ も2003年に早期の脾臓がんが発見され、当初は手術を拒み、10か月後に大きくなったがんの摘出手術を受けましたが、 2008年に肝臓に転移していました。がんが発見されて直ぐに手術を受けていれば違った結果であったかもしれないと言われています。

最新のがん治療とMyrianアプリケーションによる術前計画

一昔前までは手術と言うと開腹手術が主流でしたが、20年ほど前から開腹せず、体に数ヶ所の穴を開けて行う腹腔鏡手術が出てきました。このような低侵襲手術は患者にとっては体に数ヶ所の穴を開けるだけで済み、負担が少ないというメリットがありますが、施術者にとっては、術野が狭く、術法には特別なトレーニングが必要でである、というデメリットがあります。さらに低侵襲手術の一つに、ablation(アブレーション)というがん治療法があり、これは腫瘍の近くに針状のアンテナを挿入し、そこにエネルギーを放出することにより、腫瘍を破壊する方法です。アブレーションは主に肝臓、肺、腎臓腫瘍に行われ、既に広くがんを治療する先進国では使用されている術法です。アブレーションの種類としてはRFA(Radio Frequency Ablation)、 MWA(Microwave Ablation)、IRE(Irreversible Electroporation)などがあります。針状のアンテナを腫瘍へ挿入し熱を発生させて癌細胞を破壊する際に、 RFAはラジオ波、MWAはマイクロ波を使用しています。しかし、RFAやMWAでは、血管近くにある腫瘍は血流により冷やされ温度が上昇せず(Heat sink effect)、がん細胞が死滅しない場合があります。

それに対してIREは複数の電極針を用いて腫瘍部を取り囲むように穿刺し、針間に高圧(1,000~1,500V/cm)で直流パルス電流(100~200パルス)を流すことによって、細胞膜にナノサイズの穴を開け、非熱的に細胞を死滅させる治療法です。電極針は門脈、動脈などの重要な血管を避け、腫瘍部を取り囲むように刺入する必要があるため、術前にはCTの3D画像を用いて十分なシミュレーションを行うことが必要です。

図2は、肋骨の間からアンテナを穿刺し、腫瘍まで到達したシミュレーション、図3は腫瘍の周りに3本のアンテナを穿刺したシミュレーションを示しています。

Myrian XP-Ablationは各社のアンテナ情報をデータベースとして持っているため、医師は手術のシミュレーションを行う際にアンテナのデータベースより、的確なアンテナを選択することが可能です。また、3D画像を使用して正確に関心領域(腫瘍、血管、骨)を可視化し、3D画面上で正確に針軌道をシミュレーションすることができます。

図2:肋骨の間からアンテナを穿刺し、腫瘍まで到達したシミュレーション

図3:腫瘍の周りに3本のアンテナ穿刺をしたシミュレーション

実際に穿刺する際には施術者は病変を直接見ることができないため、超音波装置を使用して、リアルタイムで画像を見ながら行います。現場では、医師は事前に作成した3Dのシミュレーション画像で確認した病変やアンテナの位置が、リアルタイムで表示されている超音波画像のどこに相当するのかを頭の中で同期させる必要があります。これは医師にとって手術の現場で煩雑な作業を強いられることになります。 Myrian XP-AblationはCT画像から超音波画像を仮想的に作り出し、図4のように仮想超音波画像にてアンテナの軌道を表示することができます。これにより医師はアンテナを穿刺する方向、角度を事前に正確にシミュレーションし、現場でそれを参照しながら手術をすることができます。

図4:CT画像から作り出した仮想超音波画像

Myrianシミュレーション画像の拡張性

「Myrian」の特長の一つとして生成した画像を3D PDFファイルとして保存する機能があります。PDFファイルはよくご存じかと思いますが、3D PDFファイルはあまり知られていません。3D PDFは図5のように画像データを3次元で保持しているため、画像を固定の一方向からだけではなく、リアルタイムで画像を回転させ、多方向から見ることが可能です。また、PDFファイルであるために特殊なアプリケーションは必要なく、通常のPC上で3次元画像を見ることができます。これにより、患者に対してのインフォームドコンセントや遠隔医療など、さまざまな用途に使用することができます。

図5:Myrianで生成した3D PDF画像

おわりに

医用画像の現場ではPCのスペックの向上、画像処理の技術の進歩などにより、今まで不可能であった診断方法や治療方法が新しく確立されてきています。今後も医学が発展し、これまで想像もつかなかった夢のような診断方法や治療方法が出てくるかもしれません。しかし、医療の技術が進歩しても病気がなくなるわけではなく、早期の治療を行わなければ、結果的に完治することが難しいことに変わりありません。日本も超高齢化社会を迎えますが、加齢により免疫力は落ちてくるため、がんの罹患率が増えていくことは避けられないと言われています。皆さまには、まず病気にならないための予防対策として、定期健診を必ず受けていただき、病気を早期に発見し、健康で長寿を全うできるよう心がけていただくことを願います。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ メディカルシステム営業部 統括部長

中村 達司

1981年に入社後、メディカル分野に従事。(社) JIRAのモニター診断システム委員会の副委員長としてガイドラインの作成に貢献する。