五島列島沖に沈む24隻の潜水艦を調査する
「伊58呂50特定プロジェクト」

九州工業大学社会ロボット具現化センター長一般社団法人ラ・プロンジェ深海工学会 代表理事 浦 環
総合海洋政策本部参与会議 参与 元 海上自衛隊 第26代海上幕僚長 古庄 幸一
株式会社東陽テクニカ 海洋計測部 柴田 成晴

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. なぜ「伊58」と「呂50」なのか
  2. 沈められた潜水艦の現在の姿を見ることの意義
  3. 海底に突き刺さった潜水艦を発見
  4. ROV調査、そしてバーチャルメモリアルを
  5. 海をもっと知ってほしい
  6. コラム:伊58、呂50をついに特定!

長崎県五島列島の沖合、水深200mの海底に旧日本海軍の潜水艦が24隻沈んでいます。それらは第二次世界大戦後、米軍によって海没処分されたもので、2015年8月に日本テレビが調査を行い「伊402」潜水艦のみ特定されました。

日本の海中ロボット研究の第一人者である浦 環氏は、残る23隻の潜水艦のうち「伊58」と「呂50」を特定することを目指した「伊58呂50特定プロジェクト」を進めています。2017年5月にはサイドスキャンソナーによる事前調査を実施し、海底に突き刺さった潜水艦の姿を捉えることに成功しました。そして8月にはROV(遠隔操作型無人潜水機)による調査を行い「伊58」「呂50」など8隻を特定しました。 8月のROV調査を前に、プロジェクト実行委員会の委員長である浦氏と、副委員長である元 海上幕僚長の古庄幸一氏、そして委員である東陽テクニカの柴田成晴による座談会1)が実現。これまでの経緯や、調査にかける思いなどを語っていただきました。

1)2017年7月21日東陽テクニカ本社において

なぜ「伊58」と「呂50」なのか

柴田:「伊58呂50特定プロジェクト」の第1回実行委員会が開催されたのは2016年10月でした。プロジェクトを立ち上げるまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

浦:2013年に東京大学を退官して自由の身になったとき、死ぬまでに技術者としてやるべきことは何かと考え、フィリピン・レイテ島沖のシブヤン海に沈んでいる戦艦「武蔵」を発見しようと思ったのです。私はAUV(自律型無人潜水機)技術者なので、最新の技術を使えば短期間で「武蔵」を見つけられる自信がありました。しかし、お金がかかる。どうしたらお金を集められるだろうかと考えあぐねていたところ、マイクロソフト創業者の一人であるポール・アレンに先を越されてしまいました。自分たちで「武蔵」を発見できなかったのは、とても残念でした。

「武蔵」が発見されたのは2015年3月。その少し後に日本テレビの人が、1946年に米軍によって海没処分され五島列島沖に沈んでいる旧日本海軍の潜水艦を探す企画を立てているのだが、どうしたらいいか教えてほしい、と尋ねてきたのです。場所が絞られているのだったらマルチビームソナーで海底地形を調べて、AUVやROV(遠隔操作型無人潜水機)を使えば見つかるのではないか、と答えました。以前調査を行ったときに協力していただいた東陽テクニカに相談してみたらどうか、という話もしました。

柴田:日本テレビは五島列島沖に沈んでいる24隻の潜水艦のうち、当時世界最大級の潜水艦であった「伊402」に注目し、それを特定するという計画を立てていました。潜水艦が沈んでいる位置が分からず、想定される範囲は約10km× 10kmと広大なため、広範囲を調査できるマルチビームソナーを使用した事前調査を2015年5月に実施しました。

2015年8月の調査にも東陽テクニカは協力し、私たちが商品として扱っているAUVとROVを使ってサイドスキャン映像とビデオ映像を得ました。それらの映像を解析した結果、24隻の潜水艦の中から「伊402」を特定することができたのです。その様子は8月16日に「真相報道バンキシャ!」で放送されました。

浦:私は、海没処分された24隻の潜水艦のリストに「伊58」があるのを見つけ、それを特定すべきだと考えていました。

「伊58」は1945年7月、米国の重巡洋艦「インディアナポリス」をフィリピン海で撃沈した潜水艦です。2016年2月、内閣府総合海洋政策本部の参与会議の後、古庄さんに「伊58」を特定する調査を一緒にやりませんか、と声を掛けました。すると古庄さんからは「呂50」も特定してください、と返ってきました。なぜ「呂50」なのかと聞くと、古庄さんが海上自衛隊時代に佐世保で仕えていたのが「呂50」の艦長だったとのこと。調べてみると、「呂50」は沖縄戦で唯一生き残った潜水艦でした。それで「伊58呂50特定プロジェクト」となったのです。

古庄:「呂50」の艦長は二人いますが、私が仕えていたのは、最後の艦長、今井梅一さんです。「呂50」は、今井さんが艦長のときに3回出撃しています。3回目は1945年8月11日、舞鶴を出て大連で燃料を搭載し、沖縄沖に行けという命令でした。12日に大連の港に着いたものの霧で入港できず、待機していました。15日に艦長が大連の司令部に呼ばれ、そこで敗戦を知るわけです。呉に戻れという命令が出ましたが、今井艦長は済州島まで南下したところで、「俺はこのまま沖縄に行って米軍と戦い続けるから、下りたい者は下りていい」と言ったそうです。誰一人として下りませんでした。今井艦長はその夜、自分の部屋に置いておいた拳銃がなくなっていることに気付き、部下を呼んで問うと、「艦長が自決しないように私が預かっています」と言われたそうです。その言葉を聞き、戦争は終わったのだから乗組員を家族のもとに帰さなければいけないと思い直し、沖縄行きをやめて呉に帰るわけです。「呂50」を生きて帰らせたのは、今井艦長です。

旧日本海軍の潜水艦は、排水量によって伊、呂、波に分類されています。呂号の潜水艦は36艦建造されましたが、「呂50」以外は全て米軍に撃沈されてしまいました。呂号で1隻だけ残った「呂50」を特定することは、「伊58」と同じくらい価値があると思っています。

沈められた潜水艦の現在の姿を見ることの意義

浦:吉村昭さんの小説を読むと、「武蔵」をつくった人たちの物語がたくさん出てきます。彼らは、日本が戦争に勝つためというだけではなく、素晴らしい戦艦をつくりたいという気持ちでやっているのです。潜水艦をつくった人たちも同じ意気込みだったはずですが、そういう物語はまったく残っていません。全て海の底に沈められ、潜水艦そのものだけでなく、ものづくりの物語も “水に流されて”しまったのです。私は造船者の一人として、このままでは情けないと思っていました。

古庄:「呂50」は1年7ヵ月くらいで建造されました。ほかの潜水艦も同様です。戦争をしながらですよ。米軍は旧日本海軍の潜水艦を徹底的に調べた後で、海没処分しました。その後につくられた米国の潜水艦には、そのとき学んだ日本の技術がいくつも使われています。その優れた技術が海の底に沈んだままになっているのは、悔しいですね。

柴田:当時の技術力は相当高い。今回の調査で潜水艦の姿を見ることができたら、潜水艦の技術史も再び脚光を浴びるかもしれません。

浦:私はものづくりをやってきましたから、物が見えるということがどれほど大きな意味を持つのか、よく分かっています。また歴史についても物があることによって、私たちはよく知り、考えることができます。この数年、「武蔵」に関するドキュメンタリー番組やドラマが次々とつくられたのも、2015年3月にシブヤン海に沈む「武蔵」が発見されたからです。だからこそ私は、五島列島沖に沈む24隻の潜水艦の姿を撮影し、特定したいのです。

この10年で深海調査の技術が大きく進みました。お金はかかりますが、海底に沈んでいる潜水艦の姿を撮影し、特定することは、不可能ではないのです。とはいえ、そういうプロジェクトでリーダーシップを取れる人は、日本にはあまりいません。旗を振るのは私の役目かなと思い、皆さんに声を掛けたのです。

柴田:2016年10月の第1回実行委員会のときは、実現するのは遠い先かなと、正直思っていました。思いの外、早く進みましたね。

浦:こういうのは、どんどん進めないといけない。2017年1月にはラ・プロンジェ深海工学会という一般社団法人を登記し、 5月からは調査費用を支援していただくためにクラウドファンディングを開始しました。日本テレビの調査に協力した東陽テクニカ、ウィンディーネットワーク、旭潜研をはじめ、強力な仲間たちが集まったからできているのだと思います。

海底に突き刺さった潜水艦を発見

浦:私はAUV技術者なので、AUVできちんと調べたい。しかし、費用と得られる結果を考えると、ROVでやらざるを得ないという結論になりました。

柴田:当初はいきなりROVで4日間調査を行う予定でしたが、それでは情報が足りず効率的な調査ができないため、事前にサイドスキャンソナーによる調査を行うことにしました。2017年5月18~21日に実施しました。

浦:すると、立っている潜水艦が2つあることが分かった。驚きでした。

古庄:不思議です。船首にある魚雷の発射管のところに瞬間的に空気がたまって浮力が生まれ、こういう格好になったとしか思えません。

海底に突き刺さる「伊58」潜水艦のスキャニング画像

「呂50」潜水艦のスキャニング画像

ROV調査、そしてバーチャルメモリアルを

柴田:8月にはROV調査を4日間行います。

浦:ROVに加えて、東京大学で開発した3Dレーザーを使う予定です。レーザーで表面のデコボコを計測し、その上にROVが撮影した映像を貼り付けることで3D映像ができます。対象物まで3m以内に近づく必要はありますが、音波ではできない高解像度の3Dデータを得ることができます。8月の調査では、ROVによって24艦全ての映像を撮影すると共に、1艦は3Dデータをきっちり取りたいと思います。

浦:調査の様子は、ニコニコ生放送で配信します。4日間でやれるだけのことをやって、それをベースに来年度の計画を立てようと考えています。

柴田:部品だけでも引き揚げることができればいいのですが。

浦:私も当初は潜水艦を引き揚げて展示しようと思っていたのですが、難しいでしょう。今は、データをコンピュータ上で3次元化し、バーチャルメモリアルをつくることを考えています。

古庄:見える化しないと駄目です。月は見えるから、みんなが月に親しみを持っています。一方、海の中は見えないからあまり親しみが湧かない、ということがあると思います。

柴田:リベット1個1個が分かるくらい詳細に再現して、皆さんに見ていただけるようにできれば、引き揚げに相当する遺産になりますね。

浦:最終的には24隻が沈んでいる6km2の海底全てを3次元化したバーチャルメモリアルをつくりたい。バーチャルリアリティ技術を使えば、海底を歩き回ることもできます。

古庄:潜水艦の中にも入れたらいいですね。

浦:AUVを使うと広範囲のデータを短時間で取ることができます。次の調査ではAUVの出番です。もちろん、高精度のデータを取得できるROVも欠かせません。両方をうまく使って調査を進めていきたいと思います。

海をもっと知ってほしい

古庄:これまで総合海洋政策本部参与会議での議論の中で、海がいかに知られていないかを痛感していました。海の調査は、水圧との闘いです。浦さんから声を掛けていただいたときに、ぜひやりたいと言ったのは、そういう海の調査の大変さも含めて、皆さんに海のことを知ってもらういい機会になるという思いもあったからです。

浦:最近、若者の海離れが進んでいると言われます。海のプロとしては、もっと海に興味を持ってもらいたいですね。五島列島沖の海底に沈んでいる潜水艦を特定し、現在の姿を明らかにすることが、海に興味を持つ、また戦争について考えるきっかけになったら嬉しいです。やる気が出てきたな。頑張りましょう。私も老骨にむち打って働きますよ。

コラム:伊58、呂50をついに特定!

2017年8月21日夕方、日本サルヴェージ所属の海難救助船『早潮丸』は九州北東端に位置する門司港を出航しました。特に今回の調査のミッションは、90時間の連続観測およびそれを生中継するというものです。船内には、今回の調査で使用する大型の有線式遠隔操縦水中ロボット「クエーサー8」と、衛星を利用した長距離インターネット通信を可能にする通信設備、さらにROVによる潜水艦調査を生中継するためのさまざまな機材が搬入され、各分野で活躍している技術者がそれぞれの機器を担当。我々東陽テクニカは、潜水艦特定要員として、各艦の特徴をまとめROV調査に備えていました。

今回の調査対象である、本海域に沈んでいる「伊402」を除く23艦の潜水艦は、乙型2艦(伊58と伊53)、丙型2艦、海大型5艦、中型1艦(呂50)、丁型2艦、潜輸小型7艦、潜高小型4艦です。同型の艦の場合、外形や装備品が非常に似通っていて、しかも艦番号は、艦体に直接塗装もしくは艦番号が塗りこめられた帆布が貼り付けられているだけである、ということはあらかじめ分かっていました。従って、艦の特定は、艦首部、艦橋部、艦尾部の微妙な形状により判断しなければなりません。しかし、終戦間際には多くの艦が改修工事を実施していて、現在その工事図面の類は全く残っていません。我々は海没処分前の米軍の映像や有識者の意見を頼りに、各艦の特定ポイントを決定していきました。

調査は8月22日午前8時より8月25日未明まで90時間に及びました。この映像はニコニコ生放送により完全生中継され、50万人を超える視聴者を記録しました。もしかすると見られた方もいらっしゃるかも知れません。潜水艦には艦橋を上に向けて鎮座しているものもあれば、上下反転してしまった状態で海底にあるもの、海底に突き刺さっているように立っているものもありました。

今回の調査の2大目標の一つである、「呂50」は艦橋の形状が特徴的で、艦首側の甲板に機銃が据え付けられています。両方の特徴を備えた潜水艦を映像に収めることができ、同型艦が一つということもあって、すぐに特定することができました。

一方、「伊58」の特定については、艦体の大きさから調査対象としてプロットしていた2箇所が「伊53」と「伊58」のうちのどちらかというところまでは確定できたのですが、そこから先の、艦の特定に至る特徴を確認することに難航しました。一方は船底を上にして海底に沈み、もう一方は艦尾を上にして斜めに海底に突き刺さり魚網が幾重にも折り重なっている状況で、どちらも艦首から艦橋前面にかけては全く確認できません。何度もROVの潜行を繰り返しましたが、90時間以内に両艦の特徴を把握することは残念ながらできませんでした。

「伊58」確定作業は下船後に持ち越し、帰京後も何度も何度も繰り返しROVの動画を検証しました。何度目か分からないくらい動画を見続けていると、ついに斜めに立っている潜水艦の映像に、艦体の壁面に穴のようなものがいくつも開いていることを発見しました(写真1)。これが両艦の特定につながるのではと思い当時の画像を見てみると、「伊58」にのみ、この穴があることが判明しました。 「伊58」は海没処分直前の映像が残っていて、これで艦橋の状態を詳細に確認することができ、ROVの動画と比較すると、穴の配置が完全に一致。これをもって、斜めに立っている潜水艦を「伊58」と特定することができました。

写真1:ROVが捉えた艦橋側壁の『穴』

写真2:海没処分直前に米軍によって撮影された「伊58」

プロフィール

九州工業大学社会ロボット具現化センター長一般社団法人ラ・プロンジェ深海工学会 代表理事

浦 環

1948年生まれ。東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了。工学博士。東京大学生産技術研究所教授、同研究所海中工学研究センター長などを経て、2013年より九州工業大学社会ロボット具現化センター長。2007年、IEEE(米国電気電子学会)フェロー。専門は海中ロボット学。

総合海洋政策本部参与会議 参与 元 海上自衛隊 第26代海上幕僚長

古庄 幸一

1946年生まれ。防衛大学校第13期卒業。第39護衛隊司令、第3護衛隊群司令を経て2003年第26代海上幕僚長に就任。1974年には佐世保地方総監部副官として「呂50」最後の艦長である今井梅一地方総監(当時)に仕えた。退官後も防衛問題、海洋環境問題について精力的に活動を続ける。

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部

柴田 成晴

2006年に入社以来、一貫して海洋部門の技術サポートに従事。水中音響計測機器や水中ロボットを担当。