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What’s 5G?

株式会社東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 山路 洋史

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. はじめに
  2. 携帯電話の進化
  3. 携帯電話の枠を超える5Gの世界
  4. 着々と進む5Gの開発
  5. 5G導入の技術的課題
  6. おわりに

はじめに

皆さまは「5G」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?中には、重力のことが頭に浮かんだ方もいるかもしれません。例えば、飛行機のパイロットやレーシングカーのレーサーにかかる重力を「5Gの重力がかかった」などと表現します。この場合のGは重力加速度(Gravitational acceleration)を表していますが、最近、通信の世界ではこれとは別の意味を持つ「5G」が重要なキーワードとなってきています。

スマートフォンを使っている方であれば、「4G」「LTE」という言葉はピンと来るかもしれません。実は「5G」は、「4G」「LTE」の次世代技術として今まさに開発が進められている最新の移動通信の技術なのです。その開発は世界中で進行していて、日本でも2020年の東京オリンピック・パラリンピックの頃には、私たちが実際に5Gのサービスを利用できるといわれています。本特集では、第5世代移動通信システム「5G」とはどのようなものであるのか、私たちの生活にどんな変化をもたらすのかを紹介します。

携帯電話の進化

ゲーム・買い物・音楽・映画・読書・スポーツ観戦など、スマートフォン一つさえあれば、さまざまなことがいつでもどこでも当たり前のようにできる時代になりました。以前はその名の通り電話をかけるためだけの端末であった携帯電話は、一昔前では想像できないくらいに進化しました。

こうした進化はどのようにして実現できたのでしょうか?私たちにとって最も分かりやすいのは、端末そのものの進化です。特にスマートフォンの登場により、アプリを入れるだけでいろいろな機能が簡単に使えるようになりました。しかし、いくら高性能なスポーツカーであっても制限速度が低く狭い道路ではその実力を発揮できないのと同じように、高性能なスマートフォンには、それに見合った通り道が必要となります。実際には、この通り道こそが、携帯電話の進化に重要な役割を果たしているのです。その通り道となる携帯電話のネットワークが今、さらなる進化の次の段階に進もうとしています。それが「5G」です。

携帯電話の技術(移動通信システム)は図1に示すような過程で進化し、その進化に応じて第1世代(1G)から第4世代(4G)と名付けられてきました。そして次の世代が、第5世代=5G (5th Generation)というわけです。表1は各世代の主な特徴の一覧です。

世代を追うごとに、通信速度が高速になっていることが分かります。現在の第4世代(4G)は最大約1Gbps(1秒あたり1ギガビットのデータ送受信)と、第1世代(1G)に比べて実に約40万倍の高速化が実現されました。つまり、狭かった1本の道路が30年の間に約40万倍の大通りに拡張されたことになり、これを活かすことでより多くのデータのやり取りが可能となりました。今、私たちがスマートフォンで動画やゲームを手軽に楽しめるのは、この広い通り道のお陰です。そして5Gでは、その通り道をさらに拡げようとしているのです。

図1:移動通信システムの進化

表1:移動通信システムとアプリケーションの変遷

携帯電話の枠を超える5Gの世界

5Gの実現に必要とされている主な技術要件と、それらによってもたらされるメリットを3つ紹介します。

1)超高速・大容量

通信速度のさらなる高速化が図られ、 4Gに比べて10倍の10Gbps以上に達します。これにより、4K/8Kといった高精細動画の高速配信が実現すると考えられます。例えば4Gでは約30秒かかっていた2時間映画のダウンロードが、わずか3秒で完了するといわれています1)

2)超低遅延

データのやりとりの際に発生する遅延時間は、4Gの10分の1となる1ミリ秒を目指しています。遅延時間が短くなると、ユーザーがストレスを感じることなく、より快適なデータ通信が可能となります。超低遅延化により、リアルタイムかつ正確な制御が必要な自動運転や遠隔医療といったミッションクリティカルな分野への応用が検討されています。

3)多数端末同時接続

乗り物・住宅・家電・電気/ガスメーター・ドローン・ロボットなど、あらゆるモノをインターネットに接続するIoT(Internet of Things)への活用を目標として、4Gに比べて100倍以上の複数端末を同時に接続できるようになります。既に4Gや他の通信方式を用いたIoTサービスが一部で始まっていますが、5GによりIoTのさらなる普及が期待されます。図2はITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)で定義された5Gの利用シナリオをまとめたものです。これを見ると、5Gが従来の携帯電話の枠を超えたさまざまな分野で利用されようとしていることが分かります。具体的な利用例を表2で紹介します。

図2:ITU-Rで定義された5Gの利用シナリオ(出典:Recommendation ITU-R M.2083-0、IMT Vision - Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2020 and beyond)

表2:期待される5Gの利用例

着々と進む5Gの開発

上述したように、5Gは幅広い分野での利用が想定されています。そのため、携帯電話会社だけではなく、さまざまな業界が連携した研究開発が進められています。表3は総務省が2017年から実施している「5G総合実証試験」の一覧です。自動車・交通・建設機械・警備・メディアなど業界の枠を超えた、多くの企業や自治体が実験に参加していることが分かります。このように5Gは既に実験室を飛び出して、屋外環境で実用化に向けた具体的なトライアルの段階に進んでいます。

2018年2月に韓国で行われた平昌冬季オリンピックでは、会場一帯で5Gの実証実験が大々的に行われました。日本でも今後、私たちが実際に5Gの凄さを身近に体感できる機会が増えるものと思われます。

表3:総務省「5G総合実証試験」一覧(出典:総務省「5G総合実証試験の実施概要(平成29年度)」を基に加工)

5G導入の技術的課題

サービス開始に向けて順調に開発が進んでいる5Gですが、導入に向けて解決すべき技術的課題もあります。主なものを2点紹介します。

1)ミリ波の活用

5Gでは一度に大量のデータを送るために、より広い周波数幅が必要となります。そのため、これまでレーダーなど特殊用途でしか使われていない、広い周波数幅の確保が可能なミリ波(高周波数帯)の活用が想定されています。

しかしミリ波は直進性が高く、かつ遠くへ飛びにくい特性を持つため、これまで携帯電話では使われていませんでした。5Gでは、既存の携帯電話技術を応用できる比較的低い周波数であるサブ6GHz帯(3.7GHz、4.5GHzなど)とミリ波帯(28GHz、39GHzなど)とを組み合わせることで、各周波数帯の特性を生かして活用するための取り組みが現在進められています。

2)効率的な周波数利用

従来の携帯電話では、基地局のアンテナ数本(2~8本)を使って面的に電波を飛ばしてユーザーを収容していましたが、繁華街やスタジアムなど人が密集する場所では限られた電波を多くのユーザーで分け合うこととなり、繋がりにくさや通信速度の低下を招いていました。

5Gでは、基地局のアンテナを数十~百本以上に増やしてユーザーごとに電波を飛ばす「Massive MIMO」技術が採用されます(図3)。これにより、特定のユーザー端末ごとに専用の周波数リソースが割り当てられ、人が密集する場所でも快適な通信を実現することが期待されています。

図3:Massive MIMO導入イメージ

おわりに

5Gは、単に新しい携帯電話の技術としてだけではなく、私たちの生活になくてはならない社会インフラとしての活用が大いに期待されています。近い将来、私たちが何気なく利用するサービスで、 5Gの技術がいつの間にか使われている時代が来るでしょう。

当社では5Gの早期実現に貢献すべく、図4および表4に示すような世界の最先端5G測定ソリューションを展開しています。

2020年、さらにはその先のネットワークの進化を見据えて、今後も日本のお客様に最新の測定テクノロジーと試験ノウハウを提供していきます。

図4:5G測定ソリューション カバーエリア

表4:5G測定ソリューション一覧

1) 出典:総務省。平成27年6月26日「2020年代に向けたワイヤレスブロードバンド戦略」

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 課長

山路 洋史

1997年に東陽テクニカに入社。情報通信分野の計測器・運用監視製品の営業を経て、現在はモバイル・ワイヤレス関連計測器の営業推進を担当。