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ワイドバンド・タイムドメインスキャン機能を搭載した新型EMIレシーバ「PXE」とその機能を最大限活用する新EMI測定ソフトウェア「EPX」

株式会社東陽テクニカ ワン・テクノロジーズ・カンパニー 中村 哲也

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. はじめに
  2. 新型EMIレシーバ「PXE」登場
  3. ワイドバンド・タイムドメインスキャン
  4. FFT帯域幅内測定
  5. ワイドバンド・タイムドメインスキャンも万能ではない
  6. 新EMI測定ソフトウェア「EPX」
  7. 「EPX」の優れた機能
  8. おわりに

新型EMIレシーバ「PXE」は、世界で最も広い1)FFT帯域幅のワイドバンド・タイムドメインスキャン機能によりノイズの見逃しのないEMI測定が可能です。新EMI測定ソフトウェア「EPX」はこの機能を最大限に活用し、測定の効率化、測定結果の信頼性向上に大きく貢献します。

はじめに

電子機器が発する電磁波の評価を目的としたEMI(電磁妨害)測定にFFT (高速フーリエ変換)を取り入れたタイムドメインスキャン。登場して約10年が経過し、今や多くのEMIレシーバに搭載されています。

タイムドメインスキャンは、EMI測定に適するように改良されたFFTによるスペクトラム解析機能です。これにより複数の周波数成分を同時に解析できるため、自動車および車載電子機器のEMI測定、特に準ピーク値検波(以降QP値検波)測定は、丸一日かかっていた測定がわずか数分で完了できるようになりました。しかしながら、ターンテーブルやアンテナマストを動かしながら測定するマルチメディア機器、家電製品、医療機器などの電子機器の放射ノイズ測定では、従来のスイープ法によるスペクトラム解析に対して明確な優位点が見いだせず、ほとんど使用されませんでした。

新型EMIレシーバ「PXE」登場

Keysight Technologies社製の新型EMIレシーバ「PXE」は、一度にスペクトラム変換できる周波数範囲(ここではFFT帯域幅と呼びます)が350MHzという、世界で最も広いFFT帯域幅のワイドバンド・タイムドメインスキャン機能を持つ新型EMIレシーバです。オシロスコープのFFT機能とは大きく異なり、パルスの応答が良く、QP値検波の評価も可能です。

ワイドバンド・タイムドメインスキャン

従来の30MHz~1,000MHzの周波数範囲の放射エミッション測定において、全測定周波数帯域をピーク値検波によるスキャンでは13レンジ、QP値検波によるスキャンでは40レンジに分けて測定していましたが、ワイドバンド・タイムドメインスキャンを用いると、どちらもわずか3レンジで測定できます(図1)。これにより表1に示す通り大幅な測定時間短縮が可能となります2)。特にQP値検波測定の時間短縮は顕著で、わずか6秒でスキャンが完了することになり、自動車および車載電子機器のEMI測定の評価時間を大幅に短縮できます。

図1: QP値検波の測定レンジ比較

表1:測定時間比較

ここまで速くなれば、利点は単に測定時間の短縮にとどまりません。例えば、従来滞留時間3)不足により生じていた測定エラー“ノイズレベルの段差”(図2)も、高速スキャンが可能な分滞留時間を十分長く取ることができるため、発生頻度を大幅に抑えることができます。たとえ滞留時間に10秒かけても、従来13分20秒かかっていたものがわずか1分です。このように、ワイドバンド・タイムドメインスキャンを用いることによって、短時間で信頼性の高い測定結果が得られるのです。

図2:ノイズレベルの段差(測定エラー)の例

FFT帯域幅内測定

ワイドバンド・タイムドメインスキャンのFFT帯域幅内測定は、受信周波数を固定したまま、測定周波数範囲のすべてのスペクトラムを常時観測する“ノイズの見逃しのない測定”が可能です。たとえ、1レンジごとにターンテーブルおよびアンテナマストを動かしながら測定したとしても、30MHz~1,000MHzの周波数範囲の放射ノイズ測定もわずか3回の測定でカバーできます。

また、ワイドバンド・タイムドメインスキャンはQP値検波測定も広帯域測定が可能なため、プリスキャン測定の段階からQP値検波を使用すれば、ノイズによっては測定結果をそのまま最終結果とすることも可能でしょう。

さらに、この方法は測定の信頼性向上にも大きく貢献します。例えば図3(a)(b)はある被試験機器からのノイズを3種類の検波モードで測定した結果ですが、ある瞬間だけQP値が最大となる周波数が現れ、しかもピーク値および平均値が最大となる周波数と全く異なることがあります(図3(b))。これはピーク値および平均値検波のプリスキャンだけで測定していた従来法において、評価すべきノイズを見逃してしまう典型的な例でした。今まではベテランのEMCエンジニアだけが勘と経験で正しいQP値の最大値を見つけていましたが、ワイドバンド・タイムドメインスキャンを用いればプリスキャン測定にQP値検波を使用できるので、誰でも正しい周波数でQP値検波測定が可能となるでしょう。

このようにワイドバンド・タイムドメインスキャン機能搭載の「PXE」を使用すれば、放射ノイズ測定のような広い周波数帯域においても正確で見逃しのない測定が簡単に短時間で行えます。

図3(a):定常的に観測されるノイズ

図3(b):瞬間的に現れたノイズ

ワイドバンド・タイムドメインスキャンも万能ではない

測定時間の短縮、測定の信頼性に高い効果をもたらすワイドバンド・タイムドメインスキャンですが、使用の際には以下に示す点について注意が必要です。

①滞留時間を超える間隔で間欠的に発生するノイズは見逃す可能性がある。
②全周波数帯域に大きなレベルのスペクトラムを持つ静電気、クリックのような測定対象外のインパルスの入力があると、アナライザの画面がこのスペクトラムに覆われてしまい、本来評価が必要なノイズスペクトラムが隠れてしまう。

ワイドバンド・タイムドメインスキャンの原理を理解していればこれらに配慮した測定が可能になりますが、ユーザーにとっては新たな負担となる場合もあります。しかし、これらの点をカバーするソフトウェアがあれば、ユーザーは従来通りの操作で、ワイドバンド・タイムドメインスキャンの恩恵を最大限享受することができます。

新EMI測定ソフトウェア「EPX」

当社「ワン・テクノロージーズ・カンパニー」が開発した「EPX」は、ワイドバンド・タイムドメインスキャンの効果を最大限に活用できるソフトウェアです。「EPX」は、従来通り一つのレンジに全測定周波数帯域を設定するだけで従来の1/4から1/14も測定時間を短縮できます。さらに先に示した注意点も自動的にカバーする機能を持っているため、特別な操作を必要とせず、信頼性の高い自動測定が可能となります。

「EPX」の優れた機能

「EPX」はノイズのレベル変動傾向を自動的に解析し、最適な滞留時間を割り出し、信頼性の高い測定を行います。また“測定対象外の瞬間的なインパルス”は、スペクトラムの出現頻度、 検波器の応答などに特徴があります。「EPX」はこれらを解析し不要なインパルスのスペクトラムを取り除きます。

図4(a):不要スペクトラム除去機能OFF

図4(b):不要スペクトラム除去機能ON

図4(a)では、測定途中で発生した瞬間的なインパルスが原因で、スペクトラムがFFT帯域幅分盛り上がって不自然な段差が生じています。図4(b)は、不要スペクトラム除去機能をONにした時のスペクトラムで、見事にインパルスによる不要なスペクトラムを取り除いた場合のスペクトラムが表示されています。丸印で示されたSSCG(スペクトラム拡散クロック発振器)のスペクトラムも正しく表示されていることがわかります。

おわりに

自動運転、IoTなど留まることのない技術の進歩により、ますます重要になるEMC測定において、評価すべきノイズもますます複雑化しています。測定方法だけが旧態依然としたままではいつまでもEMC測定の効率化は望めず、対策時間の増加など後退の懸念すらあります。ここで紹介したワイドバンド・タイムドメインスキャンは測定の効率化だけでなく、新測定法を創造する可能性さえ秘めています。

新しい機能を持つハードウェアも、最適な設定、操作が行われてこそ、最大限に活用できます。新機能を搭載したEMIレシーバ「PXE」と新EMI測定ソフトウェア「EPX」は、両方が揃ってこそ、従来にない画期的な性能を発揮できると言えるでしょう。

1) 主要なEMIレシーバの中で(東陽テクニカ調べ)。
2) 「PXE」の仕様は予告なく変更する場合があります。
3) 測定器が一つの測定結果を得るために内部でデータを連続的に取得したり監視したりする時間。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ ワン・テクノロジーズ・カンパニー

中村 哲也

1981年入社。EMC計測システムの開発・技術サポートなど約35年間EMC関連業務を担当。IECの国際会議に出席し、EMC規格の改定にも携わる。