永久磁石材料の最新評価法~FORC解析~

東北大学多元物質科学研究所 准教授 岡本 聡

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目次
  1. はじめに
  2. FORC解析
  3. ネオジム焼結磁石のFORCダイアグラム
  4. SPring-8での観察結果とFORCダイアグラムとの相関
  5. FORC測定の応用
  6. おわりに

はじめに

高性能永久磁石材料はモータや発電機における電力- 動力変換に欠かせない、つまりエネルギー変換のキーマテリアルとして、今日の社会生活を支えています。特に、近年は自動車の電動化への動きが急加速しており、自動車用モータへの需要が高まっています。自動車用モータ用途では、150~200℃の高温環境下での使用となり、高温領域での磁石特性が極めて重要となります。しかしながら、現在主流の高性能永久磁石であるネオジム磁石は高温領域で急速に磁石特性が低減してしまうことが重大な課題であり、高温特性の改善に向けて添加元素効果や組織制御など、非常に多くの取り組みが進められています。

磁化反転a)の観点から考えると、この高温領域での磁石特性劣化は高温で磁化反転が起こりやすくなっていることを意味しています。つまり、磁化反転の起こりやすさに関するメカニズムが分かれば、それに対してさまざまな対策をとることも十分に可能となります。しかし驚くことに、磁化反転は磁性材料の最も基本的な現象の一つであるにもかかわらず、永久磁石材料の磁化反転メカニズムはこれまで理解が十分には進んでいませんでした。これは、バルク磁石内部でどのような磁化反転が生じているのかを物理的に計測する手段がないことが原因で、従来はヒステリシス測定により得られた磁化曲線の形状などからメカニズムを推察するしかありませんでした。

このような状況に対して、First-order Reversal Curve (FORC)測定を行えば、磁化反転過程を可視化することや、磁性材料の特徴をより定量的に把握することが可能になります。

FORC解析

FORC 測定は、図1のように減磁曲線に沿った磁場Hrを始点とするマイナー磁化曲線を磁場H の関数として逐次取得することにより行われます。各データ点M に対してH、Hr による2 階微分=2M/HrHを施し、図2のように(H,Hr)平面上にプロットしたものがFORCダイアグラムと呼ばれています。この計測は(H,Hr)平面において図2の青三角形全領域にわたって白矢印で示すような磁場掃引を繰り返し行うことに対応しており、ヒステリシス曲線の内側領域での磁化をマッピングすることができます。さらにの定義より、FORCダイアグラムは不可逆磁化率の変化を磁場平面で可視化したもの、と見なすことができます。

FORC解析そのものは以前から知られていた手法ですが、これまではプライザッハモデルと呼ばれる単磁区b)微粒子の集合組織をモデル化した理論に基づいた解析が行われてきました1)。しかしネオジム焼結磁石では、後述するようにその磁化過程において多数の多磁区b)粒子の存在が確認されることから、プライザッハモデルに基づいた解析をそのまま適用することはできません。そこで過去に報告されているネオジム焼結磁石のFORCダイアグラムも含めて多数調べてみると、磁石内部での磁化反転に対応した特徴的なパターンが現れていることが分かってきました2)-4)

図1:FORC測定の概略図

図2:FORCダイアグラムの概略図

ネオジム焼結磁石のFORCダイアグラム

我々が測定したネオジム焼結磁石のFORCダイアグラムの一例を図3に示します。測定温度は室温です。特徴として、赤線で囲った低磁場領域と青線で囲った高磁場領域にそれぞれスポットパターンが見られます。同様のスポットパターンは、メーカーや磁気特性が異なるネオジム焼結磁石でも確認されており、広くネオジム焼結磁石に共通した特徴であるということが分かっています。

筆者紹介

東北大学多元物質科学研究所 准教授

岡本 聡

1997年、東北大学大学院工学研究科後期課程修了、博士(工学)。同年、東北大学科学計測研究所 助手を経て、2007年4月より現職。