全固体電池研究の最前線

東京工業大学教授 菅野 了次

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目次
  1. 全固体電池について
  2. 研究者として
  3. 全固体電池の未来

電気自動車(EV)普及の鍵として注目を集める全固体電池。ポストリチウムイオン電池として出力特性、エネルギー密度などの性能面に加えて、急速充電、安全性、作動温度を改善できる究極の蓄電デバイスとして実用化に大きな期待が寄せられています。現在、世界各国で研究が盛んに行われ、2035年には2兆円を超える市場規模とも言われています。その全固体電池研究の最先端を走る東京工業大学 菅野教授が語る全固体電池の研究開発の現状とその未来とは。

全固体電池について

― 全固体電池とはどのような電池なのか教えていただけますか。

全固体電池というのは名前の通り、部材全てが固体で構成される電池です。蓄電池は例外を除いて正極と負極が固体で、正極と負極の間の電解質が液体という構成で、それをケースで包み一つの電池になっています。その液体の電解質を固体に置き換えると、構成部材の全てが固体になります。これが全固体電池です。

図1:リチウムイオン電池と全固体電池の違い(東京工業大学提供)

― 電解質を液体から固体にすると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

液体を固体にすることにより電池を積層でき、エネルギー密度を高くすることができます。従来の液体の電解質では積層しようとした場合に液が染み込んでしまい電位を上げることができません。従って、液体の電解質では一つ一つ電池をケースに封じ込めてそれらを直列につなぐ必要があります。しかし、それではケースの体積と重量がかさみます。全固体電池はこれらのケースが不要となり、液体の電解質に比べてコンパクトになり、エネルギー密度を高くすることができます。

― 他にもメリットはあるのでしょうか。

液体を封じ込める必要がないので液漏れがなくなり、信頼性の向上が期待できます。液体の電解質は内部短絡して漏れた場合、液体が蒸発することで安全性に課題があると言われています。そういう課題が少なくなるという期待があります。

― 全固体電池には、どのような種類がありますか。

大きくバルク型と薄膜型の2種類に分類されます。バルク型は、粉体を組み合わせ、ある程度のかさがある電池に仕上げることになります。薄膜型は、主に真空プロセスを使って薄膜で電極を作り、電極上に薄膜で電解質を積み上げて、その上にもう一方の電極を薄膜で作ります。薄膜型は、ミクロンレベル以下の非常に小さなサイズの全固体電池になります。

― 材料の違いはありますか。

はい。バルク型と薄膜型どちらも材料によってさらに分類することができます。バルク型は、電解質の材料として酸化物タイプと硫化物タイプの2種類があります。薄膜型は、酸化物タイプになります。硫化物と酸化物の電解質を比べると、硫化物タイプの方が抵抗が低いため、バルク型は硫化物タイプを使用するメリットがあります。薄膜型は酸化物の電解質を、まさに薄い膜にして積み上げて電池に作り上げるので、酸化物タイプは抵抗が少々高いのですが、薄膜で抵抗を低くすれば使用できると考えています。

― 全固体電池のメリットをお聞きしましたが、デメリットや課題はありますか。

実用化できていないので課題は山積みです。バルク型と薄膜型、電解質が硫化物と酸化物タイプの全てで課題があります。バルク型の硫化物タイプでは、電解質のイオン導電率が非常に高く、現在のリチウムイオン電池に匹敵する、あるいはそれ以上の特性を持つ電池になるのではないかと期待しています。しかし、これまでに確立しているリチウムイオン電池とは、部材が固体のため全く違った製造プロセスが必要となります。その製造プロセスをどのように構築するかが課題になります。薄膜型の酸化物タイプは、電解質の抵抗が高いので使いづらいところはあるのですが、これまでの積層コンデンサのような積層技術を用いて、ある程度小さなチップ型の全固体電池を作ることができます。いずれの場合も、電池は、実際に使用されるデバイスがないと実用化の出口がないので、これまでにない用途を切り拓く必要があります。とりわけ薄膜型の酸化物タイプは、全固体電池としては容量が小さいのですが、安定性・信頼性の高い電池を作ることができます。今後、イオン導電率が高くなれば用途が広がると期待できます。

― 今おっしゃられた用途ですが、どのような産業分野で応用できますか。

電池はこれまで、電池だけが優秀で応用されたことはほとんどありません。要するに、何を動かすか、どういうデバイスにその電池が使われるのかで、電池の歴史は発展してきたのです。逆に言えば、電池というのは一旦あるデバイスと結びついて用途を確立すると、新しい電池が出てきても、その新しい電池と置き換わることはほとんどありません。その一つの例は、クルマのエンジンスターターモータに鉛蓄電池が使われていることです。なにしろ鉛蓄電池は160年ほど昔に開発されているのですが、いま現在も依然としてクルマのスターターを動かす、なくてはならない電池です。もう一つの例として、リチウムイオン電池は、スマートフォンやノート型パソコンで使用され、デバイスの進歩とともになくてはならない電池になっています。そのような確固たる存在のリチウムイオン電池が、急に別の電池に置き換わることはまずないだろうと思います。従って、新しい電池として全固体電池が実用化される場合は、これまでになかったデバイスに新しい用途として使用されると考えられます。

― 電気自動車(EV)が全固体電池で大きく進歩するのではないかと期待されています。

プロフィール

東京工業大学教授

菅野 了次

経歴:
1978 年 大阪大学 理学部 化学科 卒業
1980 年 大阪大学 理学研究科 博士前期課程 無機および物理化学専攻 修了
1980 年 三重大学 工学部 助手
1985 年 大阪大学 理学博士
1989 年 神戸大学 理学部 助教授
2001 年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授
2016 年 同 物質理工学院 教授
2018 年 同 科学技術創成研究院 教授、全固体電池研究ユニットリーダー
趣味: 音楽鑑賞