自動運転/ADAS車の安全性担保に向けた性能評価
―交通流シミュレーター機能の活用
目次
はじめに
一般的に自動運転車の開発には以下の四つの課題があると言われています。
- 法規制に関する課題
- 実装費用が高額になるとされる自動運転/ADAS(先進運転支援システム)車のマネタイズに関する課題
- 認知技術の向上に関する課題
- 自動運転/ADAS車の安全性を担保するための検証シナリオに関する課題
これらのうち③と④はエンジニアの頭を悩ませる大きな課題となっています。2021年2月に執筆したコラム「自動運転車におけるAI(人工知能)の機械学習方法とその課題」では、③の課題に対する解決策として、現実の世界を模擬可能なCG画像提供サービス「Anyverse(エニーバース)」を紹介しました。今回のコラムでは、④自動運転/ADAS車の安全性を担保するための検証シナリオをテーマとして、その課題を解決する手段として注目されている手法を紹介します。
自動運転/ADAS車の性能評価工程と実走行による評価の課題
自動運転/ADAS車の性能評価はシミュレーションソフトウェアを使用した評価と実走行による評価に大別されます。シミュレーションソフトウェアを使用して典型的な走行パターンを評価した後に、実走行で自動運転/ADAS車のアルゴリズムを評価することで、段階的に自動運転/ADAS車の性能を確認します。現状、自動運転/ADAS車の性能評価の最終段階では実走行による評価が行われていますが、実走行試験ではコーナーケース(予期することが難しい事例)やエッジケース(まれにしか発生しないが、合理的かつ安全な方法で対処するために特別な設計上の注意が必要な事例)と呼ばれる事故につながり得る状況を網羅的に評価することができないという課題があります。そのため近年では、自動運転/ADAS車用のシミュレーションソフトウェアを使用した評価の重要性が改めて認識されています。具体的には、実走行相当の環境をシミュレーションソフトウェア上に構築し、霧がかかった環境、酔っ払い運転車両が走行する状況、動物が道路に侵入した状況など、実走行では再現が困難な状況を評価しようとする動きが見られます。
自動運転/ADAS車の安全性を担保するための検証シナリオの生成・評価方法
自動運転/ADAS車を普及させるためには、あらゆる状況において自動運転/ADAS車が安全であることを謳う必要がありますが、現状100%の安全性を担保できる検証シナリオはなく、それぞれの自動車会社が創意工夫を凝らして検証シナリオを検討している段階です。このような中で一定の支持を獲得しつつあるのが、交通流シミュレーションソフトウェアを使用した以下の手法です。
- 交通流シミュレーションソフトウェアを使用して、自動運転/ADAS車用のシミュレーションソフトウェア上に実交通流相当のシミュレーション環境を構築する。
- 自社の自動運転/ADAS車用のアルゴリズムを搭載した車両を①で構築したシミュレーション環境上で走行させ、事故につながり得る走行パターンを抽出する。
- ②で抽出した走行パターンをコーナーケース・エッジケースとして検証シナリオ用のデータベースに保存する。
- ③で保存した検証シナリオを相対位置や相対速度などの条件を変更しながら詳細に検証する。
シミュレーションソフトウェアを使用することで、実走行による評価よりも短い時間で自動運転/ADAS車用のアルゴリズムを評価することができます。上記①で構築した環境上にて、実世界で発生し得るあらゆる状況を再現し評価することで、事故につながり得る走行パターンを網羅的に評価することができます。下記はAutomotive Artificial Intelligence社が提供する「ReplicaR」のシステム構成図です。このシステムを使用することで、上記四つの手順に基づいてコーナーケース・エッジケースの評価をすることができます。

図1:安全性を担保するための検証シナリオを生成・評価するシステム
(Automotive Artificial Intelligence社「ReplicaR」)
実交通流を模擬する交通流シミュレーター「Intelligent Traffic」
この評価で肝となる機能が交通流シミュレーター機能です。自動運転/ADAS車で発生する事故は天候や他車両、二輪車、歩行者など、動的に変化する外的要因により引き起こされると考えられています。そのため自動運転/ADAS車用のシミュレーションソフトウェアには、事故の原因となる外的要因を模擬するための機能が求められます。Automotive Artificial Intelligence社の交通流シミュレーター「Intelligent Traffic」には実交通流をシミュレーションソフトウェア上に模擬する機能が搭載されています。具体的には、実交通流データを使用して生成したドライバーモデルをシミュレーションソフトウェア内の他車両に搭載することで、実世界の車両の動きをシミュレーションソフトウェア内に模擬することができます。この機能を自動運転/ADAS車用のシミュレーションソフトウェア上に実装することで、実交通流相当の環境で自社の自動運転/ADAS車用のアルゴリズムを評価することができます。これにより、限られた時間の中で、実走行相当の評価が可能となります。

図2:実交通流を模擬する交通流シミュレーター
(Automotive Artificial Intelligence社「Intelligent Traffic」)
おわりに
今回のコラムでは、多くのお客様が抱えている「自動運転/ADAS車の安全性を担保する」という課題に対する解決方法として、交通流シミュレーターを使用したコーナーケース・エッジケースの抽出・評価方法について紹介しました。「自動運転/ADAS車の安全性を担保するシナリオ」を確立することは自動運転/ADAS車を普及させるうえで必須の要件といわれている一方で、現状では確立された方法がありません。今回のコラムが「自動運転/ADAS車の安全性を担保するシナリオ」を構築する際のヒントになりましたら幸いです。
東陽テクニカでは、お客様のニーズに応じたオーダーメイドの自動運転/ADAS車用のシミュレーション環境を構築しています。自動運転/ADAS車の評価に欠かせない「自動運転/ADAS車の安全性を担保する」という課題を、シミュレーション環境の提供を通じてお手伝いしていきたいと考えています。
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