高エネルギー化するEV試験に求められるもの

高エネルギー化するEV試験に求められるもの|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

高エネルギー化の流れ

※本記事は2020年6月29日に掲載した記事の再掲載となります。情報はもとの掲載日現在の情報です。
最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

CO2排出量の削減を目指し開発が進む電動車両(EV/PHEV)には大容量のバッテリーや高出力のモーターが搭載されています。また、モーターで車を駆動させる以外にも、エアコンやナビゲーション、パワーステアリングなど多種の電装品を動かすためには大きなエネルギーが必要です。現代の自動車は「動く電化製品」といっても過言ではありません。

扱うエネルギーの増加に伴い、電気エネルギーについては電圧/電流ともに増加の傾向が見られます。例えば駆動力を担うモーターの駆動方法に関してはポルシェの「タイカン」の800Vの高電圧搭載が話題となりましたが、今後も出力密度向上や損失低減などの目的で800V以上への昇圧が見込まれています。別の側面からは、急速充電への対応を目的とした高電圧化/大電流化への将来的な見込みがあります。日本発の充電規格”CHAdeMO”では充電で使用する電圧と電流を500V/400Aとしていますが、将来的に日中合同規格”ChaoJi”への発展が見込まれています。短時間でバッテリーを充電するためには、時間あたりのエネルギー容量を増やす必要があり、”ChaoJi”では1,500V/600Aとして、将来的にさらなる高エネルギー化への対応が見込まれています。

本稿ではこのような車両の高エネルギー化に対応する、安全な計測手法について考えていきます。

小型車 中型車 スポーツカー
モーター電圧 300 300 300/600
インバーター電圧 400 400 420/800
バッテリー 400 400 420/800

図1:電気自動車の電圧レベル(単位:V)

試験ニーズの変化

電動車両はバッテリー、インバーター、モーターの三つの構成品で成り立っています。また同時にそのほかの補器電装品が電力を受け取れるように12Vや48VへのDC/DCコンバーター、ケーブルなどそれぞれが複雑に連携した制御を行っているので、エンジン/バッテリーにかかわる熱マネジメントやエネルギーフロー、燃費・電費の計測の際には、多くの計測ポイントにて温度、電圧、電流、センサーの値を統合的に計測し車両の挙動を確認する必要があります。ただし、ここで忘れてはならないのが、上記の通り、高電位や大電流の“電場”であることです。試験の準備、オペレーションに関して、作業中の誤配線、ショート、さらには感電事故に注意しなければなりません。

図2:EVやPHEVなどの車両の構成|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図2:EVやPHEVなどの車両の構成

計測器が炎上?

事故を防ぐためには、電場に対応した機材を使う必要があります。例えば、図3では、作業者が絶縁グローブや絶縁処理が施された工具を用いています。また、測定レンジを適切に選定しなかった場合、図4のように測定器から煙や炎が発生する可能性があります。

図3:絶縁工具の使用例|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図3:絶縁工具の使用例

図4:テスターの使用が適切でない場合の事故|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図4:テスターの使用が適切でない場合の事故

熱電対での温度計測を例にして説明します。熱電対は先端が絶縁/非絶縁の両タイプがありますが、狭い部分に熱電対を設置する場合は、素線の熱電対が好まれます。素線の場合も先端をテープピングなどで絶縁しますが、もし測定ポイントに300V~400Vの高電圧が発生していた場合、熱電対の先端は高電位に設置されます。万が一絶縁が正常に機能しなかった場合、計測器は300V~400Vの高電位に接続される可能性があるということです。事故防止のためには測定器にも“絶縁性能”が必要になります。

図5:熱電対計測の例|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図5:熱電対計測の例

バッテリーパックの計測事例

図6は韓国のバッテリーメーカーのテストベンチの事例です。バッテリーパックの高電位の環境において、セル間電圧や熱電対、白金測温抵抗を計測し“性能”、“機能”の試験、およびバッテリーセルの“短絡試験”を行うシステムです。安全に熱電対での温度計測を行うことはもちろん、高いコモンモード電位を持つ、セル間の電圧測定も高精度かつ安全に行うことができます。次の章からはどのような測定器を用いてこのシステムを実現しているのかをご説明いたします。

図6:高電圧/高絶縁モジュールの例、テスト対象、ソフトウェアGUI|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図6:高電圧/高絶縁モジュールの例、テスト対象、ソフトウェアGUI

高電圧に対応した測定器(高電圧/高絶縁)

ドイツのimc社によって開発された高電圧対応の計測モジュールアンプを紹介します。電動車両(EV/PHEV/FC)の高電圧部品の温度測定や電圧測定にて作業者の安全を守ります。

imc CANSASflex HV4/imc CRONOSflex HV4

測定レンジ:1,000V
測定対象:電圧
用途:
●バッテリーパックや昇圧DC/DCコンバーターの電圧測定
●感電防止/作業員の安全を確保しなければならない環境

図7:imc CANSASflex HV4/imc CRONOSflex HV4外観|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図7:imc CANSASflex HV4/imc CRONOSflex HV4外観

imc CANSASflex HISO8/imcCRONOSflex HISO8

絶縁性能:800V
測定対象:電圧、熱電対、白金測温抵抗
用途:
●ハイブリッド車や電気自動車のバッテリー、燃料電池などの高電圧部品の温度測定
●バッテリーのセル間の電圧計測
●感電防止/作業員の安全を確保しなければならない環境

図8:imc CANSASflex HISO8/imcCRONOSflex HISO8外観|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図8:imc CANSASflex HISO8/imcCRONOSflex HISO8外観

ケーブルやコネクタの絶縁性能

ご紹介した測定器はケーブルやコネクタの安全性にも配慮しています。作業者によるケーブルの配線作業を安全に行うために、プラスチック製のコネクタを採用しています。また、imc社では全ての出荷品に対して絶縁性能の確認テストを行っています。

図9:ケーブル・コネクタ画像|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図9:ケーブル・コネクタ画像

図10:熱電対の先端絶縁|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図10:熱電対の先端絶縁

安全性の規格試験について

ご紹介した測定器は安全性に関する国際規格EN 61010-1、EN 61010-2に準拠した絶縁性能試験を実施済みです。EN 61010-1、EN 61010-2は、日本ではJIS C 1010 シリーズ(測定用、制御用及び試験室用電気機器の安全性)としてリリースされています。

ドイツ imc Test & Measurement GmbHについて

上記でご紹介した計測システムと測定器メーカーをご紹介いたします。ドイツのベルリンに本社を構える計測器のメーカーimc社は、長年ドイツの自動車部品サプライヤー向けにコンポーネントテストベンチの作成をしてきました。欧州の自動車業界において代表的なBOSCHやコンチネンタルなどのパーツサプライヤーの要求に応じてテストベンチを構築しています。”Productive Testing”(生産的・効率的な試験)をテーマに計測器の開発からテストベンチ一式までのターンキーソリューションを提供しています。

図11:imc社ボードメンバー|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

図11:imc社ボードメンバー

imc社Webサイト:https://www.imc-tm.de/

まとめ

電動車両を試験するために必須となる高電圧/高絶縁試験の考え方をご紹介しました。今後ますます高電圧化、高エネルギー化を推進するためにも、安全の観点から試験手法を見直す動きが必要だと考えています。東陽テクニカは、ご紹介したような安全な試験をご提案し、車両開発に貢献しています。

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