次世代のクルマと自動化のパラドックス
~未来の車、どれだけ信用しますか?~

技術コラム

次世代のクルマと自動化のパラドックス~未来の車、どれだけ信用しますか?~|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

執筆者:Smart Eye社CEO Martin Krantz氏

私たちは車に大きな信頼を置いています。目的地に、時間通りに、それも安全に連れて行ってくれると信じています。そして、おそらく多くの人々は、車というのはこちらの思い通りに動くものと考えています。だからこそ、何の心配もなく高速道路において時速100kmで車を走らせることができるのです。

しかしながら、あなたの命、あなたの愛する人の安全を、完全に「マシン」の手に委ねるとしたらどうでしょうか。自動運転で、混雑した高速道路を時速100kmで走っているとき、シートにもたれながら目を閉じることができますか?

これまで自動運転の夢について語るのはとてもわくわくするものでした。しかし、その夢物語がだんだんと現実になりつつある今、不安の声が上がり出したのです。この「次世代の乗り物」を信用しすぎなのではないか、と。

2、3年のうちに覚悟を決めて自動運転を信用する人も出てくるでしょうが、多くの人たちはまだしばらくは信用していいのかどうか悩むかもしれません。でも、これだけははっきりしていますー自動車業界は完全自動運転車の開発に針路を定めています。来るべき時が来たら、私たちは「一体どこまで車を信頼するのか?」という重大な問題への答えを出さなくてはならないわけです。

自動運転5つのレベル

熱心な自動運転信者たちの期待とは裏腹に、自動車メーカーの多くは完全自動運転車の実現にはまだ数年、もしかしたら数十年かかるという意見で一致しています。ただ、その実現までの過程で、徐々に自動レベルが上がっていくことは確かです。既に革新好きな自動車メーカーが、より先進的な運転支援システム(ADAS)の可能性を探っています。自動運転の段階は、全く自動機能を持たない車から完全な自動運転車まで、5つまたは6つのレベルに区分されるのが一般的です。

レベル0―自動機能なし:常にドライバーが操作を行う。

レベル1―運転支援:ドライバーのスイッチ「手=ON、目=ON、思考=ON」
能動的なドライバーが常に必要ではあるが、スピードアシストや自律緊急ブレーキなどの運転支援機能があり、ドライバーの運転を部分的に支援する。

レベル2―部分的自動運転:ドライバーのスイッチ「手=ON、目=ON、思考=ON」
車線サポートや車線逸脱防止など、より先進的な運転支援機能を含む。

レベル3―条件付き自動運転:ドライバーのスイッチ「手=OFF、目=ON、思考=ON」
自動モードのときには自動運転が可能になるが、必要時に運転を代わることができる人間のドライバーが必要。ドライバーが車の操縦をすぐに引き継がなくてはならないとき、「自動運転から手動運転への切り替え」という複雑な問題が起こる。

レベル4―高度な自動運転:ドライバーのスイッチ「手=OFF、目=OFF、思考=OFF」
あらゆる状況で自動運転が実現するため、ドライバーは携帯電話でメールをするなど好きなことをできる。目を閉じてもかまわない。

レベル5―完全自動運転:ドライバーのスイッチ=OFF
どんなに極端で予測不可能な状況であっても、車があらゆる事態に対処できるようになる。ここまでくるともはやハンドルはあってもなくてもよいものとなる。

現在道を走っている車の9割が自動機能を持たないレベル0に分類されますが、今後10年間で、レベル2のクルマが量産車の中で最も多くなると思われます。もっとも、完全自動運転車の実現にはまだ数十年かかりそうですが。

自動運転は安全へのカギ?それとも危険な実験?

自動運転は、「期待が高まっている」などという言葉では足りないほどに盛り上がっています。クルマ好きの生涯の夢をかなえるというだけではなく、道路の安全に革命を起こすとも予測されています。無人運転車は2050年までに交通事故死を90%減らすことができるかもしれないと言う研究者もいます。一方、世界保健機構(WHO)によると、毎年約120万人が交通事故で命を落としています。つまり、10年ごとに1,000万人の命を救うことになるというわけです。これは議論の余地のない数字です。

しかし、すでに書いた通り、完全な無人運転車というのはまだ遠い先のゴールです。自動運転のレベルを上げながら、リスクを軽減し、安全性の課題に挑戦する、長い道のりです。

条件付き自動運転車を道路で走らせる際の最大の壁は「自動運転から手動運転への切り替え」です。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の調査によると、半自動運転車が自動モードを継続するのが難しくなった場合にドライバーが操作を代わるまでに最大で17秒かかったということです。17秒というのは、時速100kmで走行している車が400メートル以上進んでしまうことを意味します。さらに、ドライバーがメールを打つなど他のことに集中していた場合、システムからの警告に対する反応はさらに遅くなりました。

この調査によって、自動運転車についての最大の懸念事項が露呈します。自動化のパラドックスと呼ばれたりもするもので、自動運転車が頼れるものになればなるほど、その機能を使用するドライバーはあてにならなくなり、ドライバーがクルマの自動走行を信用すればするほど、それだけ必要時の運転の引き継ぎがうまくいかなくなってしまうようです。この安全性の認識の誤りが致命的な結果をもたらす可能性があるということは、すでに証明されています。

自動運転を過信したために起こったもっとも悲劇的で、もっとも広く報道された例は、2018年に米国フェニックスで起こった衝突による死亡事故です。試験中の自動走行車が歩行者をはね、その歩行者は後に事故による負傷で死亡しました。その車のドライバーは、衝突の瞬間テレビを見ていて、運転を完全に車に任せてしまっていたようです。

自動走行車が人の命を奪ったのは、この事故だけではありません。他にも自動走行システムが、ドライバーの過信による死亡事故を起こした例が複数あります。つまり、現時点では、より安全な自動運転車を開発する際の一番の脅威は、皮肉なことに、人間のドライバーであるようです。

解決への道

こうした問題があるにもかかわらず、自動車メーカー各社もそして消費者たちも、間もなく実現しそうな自動運転の夢をあきらめる気配はありません。とはいっても、自動運転車が安全を保障するものではないということはわかっているはずです。しかし自分たちの命をマシンに預けるためには、マシンの安全性が絶対に保障される必要があります。

近い将来、半自動運転車が身近なものになったとしても、自律システムでは処理しきれない複雑な状況になった時に代わりに対応できる注意深いドライバーの存在が不可欠です。しかし、上で紹介したような事故で証明されているように、人はいとも簡単に自律システムを過信してしまいます。無人運転へ向かう「道」で死亡事故が相次いで起こるのを防ぐため、安全策を講じなくてはなりません。

そこで、車内のドライバーの挙動を見守る「ドライバーモニタリングシステム」が役に立ちます。信頼できるドライバーモニタリングシステムを使えば、半自動運転車がドライバーにとって「頼れる相棒」になります。それこそが半自動運転車のあるべき姿であるはずです。だからこそ、視線計測システムをベースとしたドライバーモニタリングシステムが、多くの自動車メーカーによって広く採用され、レベル1からレベル4までの自動機能開発に使われているのです。次世代自動車に高度なドライバーモニタリングシステムがあれば、危険な運転状況になったとしても、私たち人間が「受け身的な傍観者」ではなく、「より良い、より安全なドライバー」になることができるのです。

※本記事は、Smart Eye社ブログ記事の参考訳です。オリジナル記事は以下URLでお読みいただけます。
https://smarteye.se/blog/how-much-are-you-willing-to-trust-your-future-car/

本記事に掲載の計測試験に
ご興味がございましたら
お気軽にお問い合わせください

お問い合わせはこちら|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ