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 株式会社東陽テクニカ EMCマイクロウェーブ計測部 松本 茂

~EMC環境下での各種試験に対応~
EV/ADAS/自動運転時代に必要な新試験手法とは?

*東陽テクニカルマガジン【第27号】2019.2より掲載

目次

自動車EMC試験の現状

自動車メーカー各社は、自動運転実用化に向け開発を加速させています。米国 SAE Internationalの定義によると、自動運転は以下5段階のレベルに分類されます。

レベル1:運転支援
ドライバー主体
レベル2:部分運転自動化
ドライバー主体
レベル3:条件付運転自動化
システム主体(緊急時はドライバー)
レベル4: 高度運転自動化
システム主体
レベル5: 完全運転自動化

システム主体現在市販されているのは、ドライバーの運転を支援するレベル1、2の車両ですが、レベル3以降は、基本的にドライバーが運転するのではなくシステム主体で運転を行う自動運転車両となります。自動車メーカー各社の計画を見ると、概ね2020年から2025年にレベル3とレベル4の実用化、2025年以降にレベル5の実用化を目指しているようです。

自動運転車の普及には、法の整備や技術はもちろん必要ですが、同時に安全性についても限りなく100%に近づけることが求められます。自動運転と共に電動化が進む自動車において、 EMC試験は安全性確保の面で非常に重要な要素となっています。当社では、安全性を評価するためのさまざまな評価方法を模索しています。

電装システムの普及により、昨今の自動車には1台当たり10~70ものECU(電子制御ユニット)が搭載されています。一方、自動車という狭い空間の中では、エンジンや数十個のモーターから電磁ノイズが発生します。そこで、 ECUや車載LANに対して、電磁ノイズによる誤動作を防ぐための対策を施すことが必要となります。さらに、電磁ノイズは車の外からも侵入してきます。不法・違法無線を使用する車や軍用のレーダーパルスなどが一例で、自動車の開発には、電磁環境下の試験も含めた総合的な評価が必要になっています。

国連欧州経済委員会(UN/ECE)が定める「車両等の型式認定相互承認協定」 (1958 年協定)に基づいて国際連合が発行した、自動車や車載デバイスのEMCに関する規則「ECE R10」では、国際標準化機構規格ISO 11451-2を参照し、図1のように電波暗室内で単一方向からのアンテナ照射試験(放射イミュニティ試験)の要求があります。この試験では、CW、AM、パルスなどの変調波を掃引した信号を照射します。

しかしながら現実には通信方式は進化しており、より複雑で広帯域の無線信号があらゆる方向から侵入することを考慮する必要があると考えられています。従来の評価方法では、多様な無線信号に対応できず、実電波環境と合致した評価ができていないのが現状です。

図1:電波暗室内でのアンテナ照射試験:上から見た図(左)と横から見た図(右)

図1:電波暗室内でのアンテナ照射試験:上から見た図(左)と横から見た図(右)
SO 11451-2 Fourth edition 2015-06-01 Road vehicles — Vehicle t est methods for electrical disturbances from narrowband radiated electromagnetic energy — Part 2:Off-vehicle radiation sourcesより引用

新しい評価方法

自動車の安全性と快適性の両立には、E MI(電磁妨害)とE MS(電磁耐性)の両立、つまりEMC(電磁両立性)技術が不可欠です(図2)。そして、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転・コネクテッドカーなど自動車開発における先端領域においては、従来のEMC試験方法では十分とは言えず、自動車産業界では各社さまざまな評価方法の確立を目指しています。当社も、総合的な試験環境を提供すべく、リバブレーションチャンバーやOTA(Over The Air)などを組み合わせ、より安全性を重視した評価方法を検討する上で必要な、複合的な評価環境の検討を続けています。

図2:EMCの二つの側面

図2:EMCの二つの側面

「ROTOTEST ® Energy ™ 」EMC対応モデルの開発

現在当社は、スウェーデンRototest社製のハブ結合式シャシダイナモメータシステム「ROTOTEST ® Energy™」の電磁環境下での使用を目指し、EMC対応モデルの開発を進めています。

シャシダイナモメータは、車両が実際に走行する条件を試験室内で再現し、動力性能評価や振動騒音評価などを目的として、実車両を用いた走行模擬試験に使われます。車両が走行する際、転がり抵抗や空気抵抗がエンジンの負荷となります。さらに加減速時には、車両重量の慣性力とタイヤなど回転部分の慣性モーメントによる回転慣性力が作用します。こうした実走行時のエンジン負荷状態を再現するためにシャシダイナモメータは車両の駆動輪を介して実走行時と同等の抵抗力が作用するようにします。

シャシダイナモメータの駆動方式には大きく分けて2種類あります。ローラーの上に車両のタイヤを載せて運転するローラー式、タイヤを外して直接ハブにダイナモメータをつけて運転するハブ結合式です。ローラー式は、ステアリング対応ができないため、直進のみの評価となりますが、当社の取り扱う「ROTOTEST ® Energy™」はハブ結合式で、さまざまな課題に対応するポテンシャルを備えています。

図3:東陽テクニカ 技術研究所 開発環境

図3:東陽テクニカ 技術研究所 開発環境

「ROTOTEST ® Energy™」の特長

  • ステアリング操作が可能
  • 低慣性・高応答
  • 4輪独立制御可能
  • 高精度なトルク測定
  • フラットな床に設置可能
  • 低い設備導入コスト
図4:「ROTOTEST ® Energy™」とステアリング動作イメージ
図4:「ROTOTEST ® Energy™」とステアリング動作イメージ

図4:「ROTOTEST ® Energy™」とステアリング動作イメージ

「ROTOTEST ® Energy ™ 」のポテンシャル

この豊富な機能を備えた「ROTOTEST ® Energy™」にEMC対策を施す(ノイズを抑制しノイズへの耐性を上げる)ことで、より実走行に近い状態でのEMC試験が可能になります。

例えば、HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)のようなモーターを使用する自動車においては、電磁界が人の健康に影響する可能性があります。そこで、発生する電磁界がWHO推奨のICNIRPガイドライン1)に適合しているかを判断するため、人体ばく露試験を行います。この試験は、欧州輸出のためのCEマーク取得の必須条件の一つです。この測定では、車室内、車両周辺、車両下において連続60秒以上続く電磁界の最大値を測定しますが、EVの場合、モーターを流れる電流が大きく、かつ急激に変化する場合に電磁界が大きくなることが予想されます。現在のところ規格には含まれていませんが、急発進したりやステアリングを切ったりした瞬間の計測は必要と考えられています。従来のローラー式シャシダイナモメータでは、そのような計測に対応できないため、実車をテストコースで走行させながら測定しなければなりませんでした。

また、自動車がステアリングを切りながら急加速・急発進・急制動すると、より大きなノイズが発生します。「ROTOTEST ® Energy™」は、従来測ることができなかったそうした環境でのEMC評価などに対応できます。高精度なトルク測定も可能なため、EMC境下でも、消費電力の小さい車載部品のデータ計測ができます。

そして設備面でのメリットとして、フラットな床に設置できるため、埋め込みが必要な従来のローラー式と異なり、既存の電波暗室に持ち込んで測定ができます。つまり、地下ピットを建設する必要がないため、例えば2階以上のフロアにある電波暗室にも設置が可能で、設備導入コストも抑えることができます。

図5:ピットが必要なローラー式(青枠)との設備比較。赤枠内が「ROTOTEST ® Energy™」で必要なスペース

図5:ピットが必要なローラー式(青枠)との設備比較。赤枠内が「ROTOTEST ® Energy™」で必要なスペース

さらにリアルなテスト環境へ

当社では「ROTOTEST ® Energy™」をEMC対応させるだけでなく、高度化する自動車の開発を加速させるため、実車両走行状態を再現する「DMTS ® (Driving Motion Test System)」を技術研究所において開発しています。

「DMTS ® 」は車両運動シミュレータとシャシダイナモメータを連携させ、車両負荷や路面条件を考慮して車両運動を忠実に再現します。さらにビデオシステムと連携することで、室内・台上でリアルなテスト環境を構築します。

この他、レーダーターゲットシミュレータとの連動も視野に入れています。

図6:「DMTS ® 」イメージ図

図6:「DMTS ® 」イメージ図

最適な評価方法を模索して

現在も国際会議やメーカー開発者によって最適なEMC評価方法の検討が繰り返されています。昨今の自動車開発では、実走行を模擬した走行状態の再現や、特異な環境の再現が望まれています。

当社は、EV/ADAS/自動運転のさらなる実用化のため、より安全性を重視した評価方法の提案を目指しています。今後の評価方法の検討において、従来の評価方法では困難だった複合環境での評価試験システムを提供し、また、評価検討の助けとなるシステム開発を続けてまいります。

1) 出典:ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が発行 する「ICNIRP 声明 時間変化する電界および磁界へのばく露制限に関するガイドライン (1Hzから100kHzまで)」。
(http://www.icnirp.org/cms/upload/publications/ICNIRPLFgdljap.pdf

*東陽テクニカルマガジン【第27号】2019.2より掲載

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