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コラム音・振動解析2012/01
音響粒子速度センサから始まる 新たな振動/ 音響計測 2/2 株式会社東陽テクニカ
機械計測センサ部 鈴木 一広
コラム音・振動解析2012/01
音響粒子速度センサから始まる 新たな振動/ 音響計測 2/2 株式会社東陽テクニカ
機械計測センサ部 鈴木 一広
*東陽テクニカルマガジン【第3号】2012.1より掲載
3. 音響粒子速度センサとは
2001 年にオランダのMicroflown Technologies 社で音響粒子速度センサ(Microflownプローブ)が製品化されました。1mm×2mmほどのチップに2 本の極めて細い白金(Pt)線が形成されています。(図4)2本の白金線は平行に配置され、電流を流して約200℃に熱せられます。
図4: Microflownプローブ受感部のSEM(scanning electron microscope)画像
図4: Microflownプローブ受感部のSEM(scanning electron microscope)画像
この白金線の近くを空気粒子が通過するときに、白金線から熱を奪います。その熱を持った空気粒子が二本目の白金線からも熱を奪います。しかし、2本目の白金線から奪う熱量が1本目の白金線から奪う熱量より小さくなります。このため、2本の白金線には温度差が生じます(図5)。
白金線の温度変化により、その抵抗値が変化します。この抵抗変化量が通過する粒子速度に比例します。
この基本原理は熱線流速計と同じものです。それもそのはずで、この音響粒子速度センサは、熱線流速計を使用して、なかなか思うように進まない実験中に、熱線流速計が自分の声に反応したように見えたことにヒントを得て開発に至ったものだからです。
図5:2本の白金線近傍の温度分布
図5:2本の白金線近傍の温度分布
Microflownセンサは極小で2本の白金線を用いているため、それらの温度差から極性出力がもたらされ音の方向も測定出来ます。また、MEMS製造技術を用いて非常に小さく作られており、可聴周波数帯域の音に良く反応する点においても熱線流速計とは異なります。
この音響粒子速度センサには、図6のような8の字の指向性があります。空気粒子が2本の白金線を図4の受感方向に通過する場合に2本の白金線の温度差が最大となり、感度が最大となります。この方向と直交する全ての方向から入射する粒子速度に対しては、2本の白金線が同じタイミングで同じだけ冷やされます。このときは2本の白金線には温度差が生じず、センサ出力がゼロとなります。この様な指向性があるため、測定面近傍で計測する場合、その測定面に入射してくる音の影響がマイクロフォンと比較して非常に小さくなります。
図6:MicroflownPUプローブ-音響粒子速度センサ部の8の字指向性
図6:MicroflownPUプローブ-音響粒子速度センサ部の8の字指向性
図6:MicroflownPUプローブ-音響粒子速度センサ部の8の字指向性
図6:MicroflownPUプローブ-音響粒子速度センサ部の8の字指向性
通常の会話の音圧レベルは60dB(ref. 20μPa)程度です。far fieldにおいてこの音圧を音響粒子速度のレベルに換算すると60dB(ref. 50nm/s)です。これを音響粒子速度センサの白金線の温度変化に換算すると10m℃程度になります。
この粒子速度によるわずかな温度変化をとらえるため、かつ応答速度を速めるため非常に細い白金線が(髪の毛の1/400倍の細さ)用いられています。また、構造はマイクロフォンで用いられるダイアフラムのような可動部分がありません。そのため構造共振が少なく、周波数応答(20Hz~20kHz)特性の向上に寄与しています。
更に2本の白金線の温度差を検出するため、それぞれの白金線に共通となるコモンモードノイズはキャンセルされ、S/Nを向上させています。測定環境に温度や湿度の勾配がある場合でも、センサ自体が非常に小さいため、その影響を受け難い面も備えています。
4. Scan & Paintシステム
今までご説明した様に、音源および音響粒子速度センサには下記の特性があります。
1. 音源近傍における音響粒子速度レベルの高さ
2. 反射面における入射音に対する音響粒子速度レベルの低さ
3. 音響粒子速度センサが持つ8の字の指向性
これらの特性をコンパクトな音響粒子速度センサ(Microflownプローブ)を用いて最大限活用するため、Scan & Paintシステムが開発されました。
測定対象物表面を音圧センサと音響粒子速度センサを備えたMicroflown PUプローブを用いてスキャンします。同時に測定状況の動画を収録します。次に画像処理により、プローブ位置をフレーム毎に認識します。計測された音圧と音響粒子速度値は各フレームと同期しています。これらの位置にその時に測定された値を一枚の画像に当てはめることで、短時間に音圧・音響粒子速度・音響インテンシティマッピングが得られるシステムとなっています。
図7:風洞内における自動車の比較試験
図7:風洞内における自動車の比較試験
5. 今後の展望
音響粒子速度センサを用いることにより音源と受音点、またそれらの近傍における境界条件としての特性インピーダンス測定がますます容易になってきています。2つほど最近のトピックをあげたいと思います。
---伝達経路解析(Transfer Path Analysis、TPA)への応用について--- 本テクニカルマガジン特集1の伝達経路解析にも音響粒子速度センサは適用が可能です。
そのメリットは音源および伝達経路測定時、8の字の指向性により反射音の影響を受け難いことにあります。音源が定常的なものであれば前述したScan & Paintシステムの機能を用いることにより、各音源からの応答点(リスナ耳位置)への寄与度解析は多数のマイクロフォンを使用することなく、プローブ一本のコンパクトなシステムで可能になります。
---MPP(微細穿孔板吸音材)の音響特性評価について---
従来吸音材はグラスウールなどの多孔質材料が中心でした。これらの材料には衛生や耐久性などの面で問題があります。それに替わるものとしてMPP(microperforated panels、微細穿孔板)の開発が盛んになっています。1mm 程度の直径の孔を多数もち、孔の縁における粘性摩擦により音のエネルギーを減少させる機構をもつ吸音材です。MPPは金属やプラスティックの様な材料が用いられ、再利用可能、清潔、繊維不使用、不燃、堅牢、軽量など環境にやさしい特徴をもっています。 最近は、円形孔の代わりにスリット形状の孔をあけた低コストタイプのものも開発されています。この様な新しい材料に対して音響粒子速度センサを用いることにより、サンプル表面近傍において空気が孔の縁で背後空気層をバネとする復元力を受けて激しく出入りし、音響粒子速度が上がる様子を観察することができます。
今まではセンサや音響管サイズ、あるいはサンプル切り出しなどの制限により直接観察できなかった現象や、実際の現場における吸音率の測定が音響粒子速度センサにより可能となっています。
材料特性のデータベースに加え、表面インピーダンスデータの蓄積も進んでいます。
今後更なる発展が期待できます。
図8:微細穿孔板吸音材の例
図8:微細穿孔板吸音材の例
*東陽テクニカルマガジン【第3号】2012.1より掲載
 
 
プロフィール
13734_ext_42_0.png 鈴木 一広
株式会社東陽テクニカ
機械計測センサ部

1993年 東陽テクニカに入社。
現在は主にMicroflown粒子速度プローブを用いた
音・振動関連アプリケーションを担当。

 
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