特集FEATURES

TOP特集「5G」が日本に大きなチャンスをもたらす!
座談会

「5G」が日本に大きなチャンスをもたらす!

NTTドコモと2,600社のパートナーがチャレンジする5Gイノベーション

2020年に国内でのサービス開始が予定されている5G(第5世代移動通信システム)は、企業のビジネスや人々の生活に大きなインパクトを与えると言われています。この5Gの開発には、移動通信事業者だけではなく、さまざまな業界が連携して取り組んでいることから、幅広い分野での利用が想定されています。そこで、5Gによってどんなサービスが生み出され、日本の未来にどのような影響をもたらすのかなどについて、主要プレイヤーや識者の方々を招いて議論を繰り広げていただきました。
※本座談会は、2019年7月23日 慶應義塾大学三田キャンパスにおいて行われました。

なぜ5G が求められ、5Gで何が変わるのか

山中:東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020 年中には、国内で5Gのサービスを利用できるようになると言われています。ではそもそもこの「5G」という高速移動通信の技術がなぜ必要で、既存の「4G/LTE」では困難だったどのような新たな用途が想定されているのか、国内最大の移動通信事業者として改めてご説明ください。

中村:そもそも移動通信の高速大容量化や多様化というのは社会的なニーズとして高まっていて、速やかにそうしたニーズに対応しなければならないというのが、5Gの開発が進められている背景です。例えば、2019 年にラグビーワールドカップ、そして2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、開催期間中には非常に多くの動画が移動通信網を経由して伝送されると予想されています。というのも、現在ではテレビ局だけではなく、一般の人々もSNSで動画をやり取りするようになっているからです。しかもその映像の画質も4Kさらには8Kという高品質なものとなっていくため、データ容量も膨大なものとなるはずです。当社は1Gの頃から移動通信技術の高度化に努めてきており、技術革新を積み重ねて今や5Gに達したというわけです。そして従来と比べて5Gで大きく変わってくるのが、IoT(モノのインターネット)での用途が加速的に拡大するだろうということです。これまで移動通信を利用するのはほぼ人間だけでしたが、それに加えて例えば、社会インフラや建設現場の各種センサであるとか、ありとあらゆるモノが移動通信を使ってデータをやり取りするようになることでしょう。こうした移動通信のニーズの高速大容量化や多様化というニーズに応える技術が5Gなのです。

崔:公共分野や交通分野、医療分野などでも5Gの特長があってこその、さまざまなユースケースが期待されていますよね。

中村:その通りです。5Gのユースケースは「高速大容量」「超多数端末」「超高信頼低遅延」と大きく三つに分類されています。このうち超高信頼低遅延が求められる典型的なユースケースが自動運転です。自動運転におけるデータのやり取りの中で、もしデータに誤りがあったりデータの伝送に遅延が生じたりすれば命にもかかわってくるので、超高信頼低遅延であることは必須要件になります。

山中:ユースケースとして最も難易度の高いものの一つとして遠隔医療があります。慶應義塾大学医学部でも遠隔手術の実用化に向けてチャレンジしています。

中村:NTTドコモでも、4Kテレビ会議や医療機器の映像出力を遠隔拠点へ5Gで伝送することで、遠隔高度診療を可能にする実証実験を大学などと進めています。これにより、都市部と地方の医療格差の解消を目指しています。

図1:NTTドコモによる5Gのユースケースの分類

Win-Winを目指すドコモの5G パートナー戦略

山中:NTTドコモとしては5Gを活用して新たにどのようなビジネスを創出していこうと考えているのでしょうか。

中村:すべてのビジネスを当社一社で行うことはできません。そこで大企業からベンチャー企業まで2,600社とのパートナーシップによるオープンイノベーションで、今までなかった5Gの新たなサービスを生み出すことを目指しています。

崔:なるほど。例えば、GAFA(Google/Apple/Facebook/Amazon)のビジネスが大成功した理由の一つが、積極的にオープンイノベーションを行ったことだと思います。プラットフォームとその上のアプリケーションやサービスを分離して、パートナーにサービス展開の自由度を持たせたことでエコシステムを急拡大してきました。NTTドコモとしてはどのようなパートナー戦略を描いているのでしょうか。2,600 社とのパートナー戦略だとさまざまなアプローチが考えられると思いますが。

中村:NTTドコモのオープンパートナー戦略のコンセプトは、5G時代となってどんなサービスの「種(たね)」がありうるのか、その発掘のところから一緒にやっていこうというものです。それぞれの種に対してのビジネスモデルを考えていきますが、一つ一つ特別なビジネスモデルを作るのではなく、ある程度パッケージ化できるのではないかと見ています。そのほうが多くの企業が参画しやすいですし。一社だけが勝者になるのではなく、パートナーさらには利用者まで含めたみんながWin-Winになるような仕組みづくりを目指しています。

社会課題の解決を目指す5Gイノベーション

山中:日本は「課題先進国」だと言われますが、その解決にも5Gは大きな役割を果たせるとお考えですか。

中村:社会的課題の解決は、NTTドコモの5Gオープンパートナープログラムの中でも最重要テーマです。そこでは地方創生、医療介護、防災・防犯、労働力不足、一次産業などの分野で、既に150件以上のトライアル事業でソリューションを創出しています。そのうち医療介護のユースケースの一つが遠隔医療の取り組みです。東京女子医科大学様と協力させていただいている「モバイルSCOT®(Smart CyberOperating Theater®)」という名称の遠隔スマート治療支援システムは、モバイル診療車で手術を行う際に、医療機器を5Gネットワークで接続し情報を可視化することで、遠隔地の経験豊富な医師が管制塔として手術全体を監視し、必要に応じて助言を与えたりできるというものです。これにより、場所や時間を問わず高水準で安全な診断・治療環境を提供できるようになり、地方などの過疎地域や、災害時などで病院搬送が困難な場所でも、高水準な医療の提供が可能となります。ここまで高度な仕組みでなくとも、患者さんの様子が5Gにより高画質な映像で伝えられるようになるだけでも、救急医療ではすぐに役立つと言われていますし、都市部の医師が地方の医師をサポートするような遠隔診療でもかなり使えると思います。

山中:医療分野で言えば、過去の診療データや日々のバイタルデータなどが蓄積されていくことで、その分析により何らかの疾病の傾向を事前に察知したりなど、予防医療が急速に進んでいくと期待されています。医療費の高騰も大きな社会課題となっていますから、その解決に貢献できるというのは、単にビジネスとして“儲かる”だけではなく、社会的に“必然性のある”サービスが5Gやデータサイエンスの力によって実現していくわけですね。

崔:5Gのイノベーションは同時にデータサイエンスのイノベーションでもあるのではないでしょうか。AIや機械学習のテクノロジーが急速に普及していく中で、そうした最先端テクノロジーを用いて、膨大なデータからいかに知見を得るかというデータサイエンスは、これからますます重要性が増していくと考えられます。医療分野以外の社会的課題の解決につながるユースケースにはどのようなものがあるのでしょうか。

中村:注目を集めているのがコマツ様と取り組んでいる建設機械の遠隔制御です。世界的に建設業者はどこも深刻な労働力不足で、建設機械を運転する人が不足している状況です。そこで5Gを用いた遠隔操作システムを構築したのです。これにより、例えばオーストラリアでは砂漠のど真ん中での作業をシドニーのオペレーションセンターから操作するといったことが可能となります。もう一つ興味深いユースケースは、トヨタ自動車様が開発する、5Gヒューマノイドロボットの遠隔操作の取り組みです。このロボットは触覚も伝えられるため、離れた場所から自分の分身のような感覚で自在に操縦することが可能で、災害地や宇宙空間などでの極限作業を安全な場所から行ったり、家事・介護・育児などの身近な作業をサポートしたりなど、さまざまな利用シーンが想定できます。

崔:日本は課題先進国であるがゆえに、そうした課題解決に向けたイノベーションが活発化しているというわけですね。その成果となるソリューションを将来的に海外に輸出していくことで日本の産業の活性化にも大きく貢献できる可能性があると思いますが。

中村:かなり可能性があると思います。

崔:社会的課題の解決以外にもさまざまなユースケースがあるのでしょうね。

中村:もちろんです。例えばエンターテインメントの分野だと、ヤマハ様と5Gを用いた多地点でのリアルタイム音楽セッションを実現する取り組みを行っていますし、日産自動車様とは、車外のユーザーを遠隔同乗者として3Dアバター化し、走行中の車内へ5Gで伝送する実証実験を進めています。日産自動車様のケースでは、車内と車外のユーザーが実際に同乗しているのと同等のコミュニケーション環境を確立できるので、例えばドライブに一緒に行けなかったけれどアバターとして一緒に行ったり、長距離トラックの運転手さんがアバターの家族を乗せて仕事をしたりなどといったことが可能となります。

山中:これだけいろいろな業界が5G活用のユースケースを開拓していること自体が、世界に先駆けていると言えそうですね。

崔:本当に日本のユースケースは将来期待できるものばかりですね。あとは、これらのユースケースをどれだけ早く実サービスとして展開できるかも重要ですね。

図2:ソリューション協創事例

“海で泳いでいない”サーファーは5Gの波には乗れない

崔:5Gによって日本が大きなアドバンテージを得られるだろうと強く感じました。さまざまなモノが5Gでつながりデータをやり取りする、計測するということは、日本が得意とするものづくりの価値が本当の意味で世界に認められるチャンスとなるはずです。そのデータにしても、遠隔医療や自動運転などではよりクリティカルなものとなり正確性が求められ、さらにデータ伝送には超高信頼低遅延が求められるのですから、そうなるとGAFAよりもNTTドコモのような信頼性にこだわり続けてきたインフラ企業のほうが得意なのではないでしょうか。また、5Gが浸透することでイノベーションの種がより育ちやすくするためには、開発者へのインセンティブ設計も重要です。例えば、欧米ではイノベーティブなアイディアを持つベンチャー企業と大企業が共同開発し成功した際、得られた利益をベンチャー企業に適正に供与する仕組み(インセンティブ設計)があります。その結果、ベンチャー企業がよりリスクをとって技術開発したくなり、それが成功につながった事例が多数あるようです。5Gの技術とインセンティブ設計の両輪が揃うことで、継続的な開発が実現するでしょう。

中村:課題先進国である日本にあって、5Gを活用することで社会課題解決にいかに貢献できるかという思いのもと取り組んでいくことで、新たなビジネスチャンスが創出できると思っています。崔さんのおっしゃったインセンティブ設計を取り入れることで、本当に地方の課題を解決し、盛り上げることができれば、そこからさらに多種多様なビジネスニーズを生み出せると信じています。そうした仕組みをつくり、社会や市場で求められるサービスをタイムリーかつ効率よく提供できるようにしていきたいですね。

山中:5Gにはさまざまな可能性があると確信しました。親しいイノベーターが「5Gの波は必ず来るだろう。そして勝つのはその時“海で泳いでいるサーファー”だ。“浜で話しているサーファー”からは決して成功者は出ないだろう。」と言っていたのを思い出しました。NTTドコモやそのパートナーのように、5Gの波が来たらいつでもその波に乗ることができるよう、まずは海で泳ぎ始めることにはとても大きな意義があると思います。

スペシャル座談会 - MOVIE

5G(第5世代移動通信システム)によって生み出されるサービスと日本の未来にもたらす影響について、NTTドコモ 中村武宏 氏、エコノミスト 崔真淑 氏、慶應義塾大学 山中直明 教授の3名に、技術・ビジネス・経済の視点から議論していただきました。

1.「Win-Winを目指すドコモの5Gパートナー戦略」

2.「日本の強みを生かした5Gサービス」

3.「5Gのユースケース」

*スペシャル座談会 フルバージョンはこちらからご覧いただけます。

プロフィール

中村 武宏(なかむら たけひろ)

株式会社NTTドコモ
執行役員 5Gイノベーション推進室室長

1990年横浜国立大学修士卒。1990年NTT入社。
1992年よりNTT DOCOMOにてW-CDMA、HSPA、LTE/LTE-Advanced、5GおよびConnected Carの研究開発および標準化に従事。現在、株式会社NTTドコモ執行役員、5Gイノベーション推進室室長。1997年より国際標準化に参加。現在、5Gモバイル推進フォーラム企画委員会委員長代理。1999年より、3GPPでの標準化に参加。2005-2013年3GPP TSG-RAN副議長および議長を歴任。

崔 真淑(さい ますみ)

株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ
代表取締役

エコノミスト。一橋大学大学院博士後期課程在籍。
株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役。株式会社 シーボン社外取締役。昭和女子大学研究員。東京証券取引所特任講師。専門はコーポレート・ファイナンス、ガバナンスで、デジタル社会での企業意思決定の変革に関心を持つ。
テレビ東京、NHK、BSスカパー!、日経CNBC『崔真淑のサイ視点』等のレギュラー番組で経済解説を行う。

山中 直明((やまなか なおあき))

慶應義塾大学教授 
慶應義塾先端科学技術研究センター所長

1983年慶應義塾大学理工学研究科修士課程修了、NTT 入社、以降NTTネットワークサービス研究所特別研究員等を歴任。2000年米国電気学会(IEEE)日本人最年少フェロー。2004 年より慶應義塾大学理工学部教授。以降、光ネットワーク、エネルギーネットワーク、自動運転の研究に従事。理工学部産学連携拠点の慶應義塾先端科学研究センター所長を務める。