粘着力測定

ナノインデンターによるマイクロ・プローブタック試験の概要

粘着テープや粘着シートの粘着力試験には、ピール試験、ローリングボールタック試験、プローブタック試験があります。殆どの場合、mmオーダー以上の面積に対する粘着性の評価です。そこで、この事例紹介ではナノインデンターを利用することで微小領域に対する粘着性を評価可能なマイクロ・プローブタック試験を紹介させて頂きます。
硬度試験の場合ナノインデンターでは三角錐のバーコビッチ圧子を使用しますが、マイクロ・プローブ試験では先端の平坦なフラットパンチ圧子を使用します。そして試験力がゼロになった後も試験を継続し、圧子を引き上げ(引き剥がす)ます。そして、圧子の引上げ動作における試験力の推移から粘着性を評価します。試験動作ならびに試験力の時間推移に関しては下図を参照ください。



試験動作の説明図


試験力の時間推移

圧子押込み動作(工程2)では予め設定された負荷レートで最大試験力まで試験力を増加させます。また、最大試験力に到達後、その負荷を保持する時間も設定可能です。試験力の保持時間が経過した後、圧子引き上げ工程(工程3)に移ります。圧子を引き上げる力と試料が圧子を保持しようとする粘着力が釣り合っている状態では試験力は低下していきます。そして圧子を引き上げる力と試料の粘着力の釣り合いが崩れると、荷重の推移曲線は極小値を示します。この極小値を剥離開始点とします。工程4は剥離の開始から圧子が試料から剥離するまでの動作工程です。圧子の引き上げ動作により引き伸ばされた粘着剤が局所的な変形(くびれ又はネッキング)を起こす場合は試験力はゆっくりと上昇します。
工程5は剥離完了点で、試験力はゼロになります。

主な試験設定

  • 2種類の粘着テープ
  • 使用圧子:20μm径のダイヤモンド製フラットパンチ圧子
  • 試験点数:両試料ともに6箇所の測定を実施
  • 試験力:1mN(約0.1gf)

試験結果

剥離開始点を比較すると2試料には違いがあり、Sample2はSample1よりも小さな試験力で試料粘着力との釣り合いが崩れました。Sample2はSample1よりも粘着力が低い事が判ります。

同じ試験力を印加した際の、2試料の変形を比べるとSample1はSample2より大きく変形している事が判ります。ナノインデンテーション硬さやビッカース硬度とは異なりますが、同じ試験力に対する変形の大小を”硬さ”として比較した場合、Sample2はSample11より硬い事が判ります。Sample2はSample1より硬いため、圧子引き上げ動作時の局所的な変形(ネッキング)が少なかったと考えられます。その為、剥離開始点後に試験力が急峻に上昇したと考えられます。尚、In-SEM Indenterで試験と観察を同時の行えば圧子引き上げ動作時のネッキングが確認可能になります。

In-SEM Indenterによるマイクロ・プローブタック試験の観察例

まとめ

ナノインデンターによるマイクロ・プローブタック試験には以下のような利点があります。

  • 試料はテープ又はシート状である必要はありません。
  • 1mm径以下の微小領域に対して試験が可能。
  • 多点測定機能を利用して、粘着力の面内マッピングが可能。
  • 低試験力試験と微小変位検出機能が利用して薄い粘着層に対する評価が可能。