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誘電緩和スペクトロスコピー法を用いた極性物質の ダイナミクス測定

誘電緩和スペクトロスコピー法を用いた極性物質のダイナミクス測定


京都工芸繊維大学 繊維学部
深尾浩次

1. はじめに
物質の動的な特性を調べる手法としては用途に応じて様々なものがあります。この小文では極性分子からなる物質に対して有用な誘電緩和スペクトロスコピー法を取り上げ、その基本原理から実際の測定例およびその解釈について解説を行います。

 
2. 誘電緩和スペクトロスコピー法の原理
 
2.1 配向分極
一般に電気陰性度の異なる原子から分子が形成されると分子全体として電気的な異方性を持ちます。このような分子は極性があると言われます。分子が持つ電気的な異方性の方向を矢印で表わすと、図1に示すように、これらの分子から成る集合は矢印の集合であると考えることができます。この際、矢印は(永久)電気双極子モーメント3_u.jpgと呼ばれます。液体状態など分子が十分に動きうる条件下では各3_u.jpgは様々な方向を向いており、全体としてはデタラメな方向を向いた双極子モーメントの集合になっています(図1(a))。この時、すべての分子に対して 3_u.jpgを足しあげたもの(これを分極と呼びます。ここでは3_p.jpgで表わすことにします)は各々の3_u.jpgが互いに打ち消し合うため、 3_p.jpg=0となります。
 
次に、時刻3_t1.jpgにこの物質に対してある方向に電圧Vをかけます。この方向の試料の厚さをdとすると、強さ3_k.jpgの電場を印加したことになります。このとき、試料内の双極子モーメントは電場の方向を向いて揃う傾向を持ち、ある時間の後、分極3_p.jpgはもはやゼロではなく、ある有限の値3_p0.jpgを持ちます(図1(b))。この状態では物質は双極子モーメントの配向に起因したマクロな極性をもつことになります。これを配向分極と呼びます。
 
さらに、時刻3_t2.jpgで電圧を切り、電場をゼロにすると、双極子モーメントは電場方向に揃う必要はなくなり、ある適当な時間をかけて、デタラメな方向を持った状態へと変化し、分極3_p.jpg はゼロへと減衰して行きます(図1(c))。この間の3_p.jpgの時間変化を関数3_ot.jpgで表わし、

 

3-zu1.gif
図1: 電場の印加による電気双極子モーメントの方位の変化
3-zu2.gif
図2: 電場の階段関数的な変化とそれに対応した分極の時間変化
 
3_a.jpg(但し、3_t3.jpg とします。ここで、関数3_ot.jpgは緩和関数と呼ばれます。
電場を印加した際の分極の3_p0.jpgへの近付き方もこの関数3_ot.jpgを用いて同様に表わすことができます。この3_p.jpg3_p0.jpgからゼロへと時間的に減衰する挙動は分子がその状態でどのような運動性を持っているかということに依存します。したがって、緩和関数3_ot.jpgの形を実験的に求めることにより、分子の運動性を評価することができます。以上のことを要約すれば、熱的な平衡状態にある物質に電場という外部からの場あるいは刺激を加えた場合(あるいは除いた場合)に物質がどのように応答するのかを分極を通して測定することにより、感受率(誘電率は感受率の一種です)としての分子の運動性を評価することになります。
 
ところで、ここで求まる運動性は刺激に対する応答ですが、これを外場のない通常の平衡状態(温度・圧力一定での)での分子の運動性-私たちが実験により知りたいと思うのはこちらなのです-と見なしても良いのでしょうか?この答えはイエスです。詳細な説明は省略しますが、物理学によると、外部からの刺激(今の場合は電場)が弱い場合には刺激に対する応答として求めた感受率は刺激のない平衡状態で分子の持つ運動性(これは揺らぎと呼ばれます)を十分にうまく表わすことが知られています。このような刺激を与え応答を測定することにより、分子の運動性を求めるのは一般的であり、誘電緩和スペクトロスコピー法以外の手法として、核磁気共鳴法(NMR 法)、動的粘弾性測定法などがあります。それぞれ磁場と磁化、歪と応力が外場と応答に対応しています。
 
2.2 複素誘電率
誘電緩和スペクトロスコピー法では実用上多くの場合、前節のステップ的な電場ではなく、正弦関数的に変動する電場3_b.jpgは角振動数であり、周波数fとは3_c.jpgを満たします。) を用います。この電場に対して分極の同じ周波数成分3_c-103x17.jpgを測定します。ここで、3_h.jpgは電場と分極の間の位相差です。これより誘電率3_f.jpg
3-1.gif
として求まります。位相差3_h.jpgは一般にはゼロでないので、3_e.jpg*は複素数となります。ここで、複素誘電率3_e.jpg*と前述の緩和関数3_ot.jpgの間には
3-2.gif
という関係があります。3_e2.jpgは十分に高周波数域での誘電率、3_es.jpgは十分に低周波数域での誘電率を表わします。また、複素誘電率3_e.jpg*の実部3_e.jpg'と虚部3_e.jpg''は
3-3.gif
を満たす(虚部の前の符号は慣習としてマイナスにとります)ので、
3-4.gif
3-5.gif
という関係があることがわかります。
(以下略)

以下、主な内容
2.3 デバイ緩和
3  複素誘電率の測定方法
4  高分子物質のダイナミクスの観察


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