摩擦のバラつき

摩擦が発生する主な部位は、ボルト座面、およびねじ面になります。一般的には、座面における摩擦で50%、ねじ面における摩擦で40%が消費されると言われています。締結に使われるエネルギー、つまり、軸力を発生させるためのトルクは、入力トルクのわずか10%程度しか関与していません。そのため、摩擦のわずかなバラつきは、軸力に大きな影響を与えます。図1は、同じ材料、表面処理をした3個のサンプルを用いて軸力を計測したトルクー軸力曲線になります。入力トルクが15Nmの時で、軸力に35%もの違いが発生しています。

摩擦をコントロールし、必要な軸力を達成するためには、摩擦のバラつきがどの部分で起こっているかを知ることが重要です。一般的には座面の摩擦のバラつきが大きく起因していると言われています。弊社で取り扱うPCB Piezotronics社製のFTA9000ロードセルを使うと、座面摩擦係数、ねじ面摩擦係数をそれぞれ分離して計測することができます。図2は、先ほどの3回の試験における摩擦係数の計測結果になります。

ねじ面の摩擦係数はそれほど変化していませんが、座面の摩擦係数が大きく変化していることがわかります。
次に、潤滑剤を変えるとどの程度影響があるでしょうか。図3は同じ材料、形状、表面処理を施したサンプルにおいて、潤滑剤にマシン油とモリブデンを使用して計測したサンプルの、各部の摩擦係数の測定結果になります。

マシン油を用いた場合は、摩擦係数が軸力の増加に伴い大きく減少していますが、モリブデンを用いた場合は、安定していることが分かります。
このように、摩擦係数は非常に変化しやすく、それが締結トルクに影響を与えてしまうため、結果として締結で最も重要な軸力にバラつきが生じてしまいます。では、軸力を精度よく推定するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。その答えの一つが、角度基準で軸力を推定する方法です(回転角法)。ボルトの回転角と軸力は、弾性域では正比例することが知られており、この関係は摩擦係数に依存しません。回転角の基準点(0度)は一般的には、スナグトルク(弾性域の始まり)が使われています。この方法を使うと、摩擦係数の影響を極力抑え、軸力を精度よく推定することができます。ただし、スナグトルクまでは摩擦係数の影響を受けるため、スナグトルクはなるべく小さい値で設定することが望ましいとされています。

M-Alphaの魔法

回転角法において回転角と軸力の関係を求めるには、何らかの方法で軸力を計測しなければなりません。一般的には、ワッシャー型のロードセルやひずみゲージを埋め込んだボルト、超音波式軸力計などが使用されます。しかし、これらはいずれも、締結部の剛性を変化させてしまいます。回転角と軸力の関係は、締結部の剛性に依存するため、回転角と軸力の関係を正確に求めることは非常に困難な作業となります。 そこで、RS Technologies社(現、PCB社)はM-Alpha法という新しい手法(これは特許技術 となっています(US6782594B2))を考案し、これを用いて回転角と軸力の関係を求める手法を開発しました。この技術は、実機における締結過程のトルクと回転角のグラフ、及び、別途、ロードセルとトルクセンサを用いて求めたトルク-軸力係数から、回転角と軸力の関係を求めます。トルク-軸力の関係は摩擦係数に依存し、トルク-角度の関係は摩擦係数、締結部の剛性に依存します。つまり、実験室において摩擦状態を模擬した状態でトルク-軸力係数を求めることができれば、軸力-角度の関係を求めることができます。

M-Alpha法の特長は、トルク-角度グラフの勾配から角度の基準点(弾性原点)を定め、そこから最終トルクまでの回転角を求める点にあります。PCB社による実験では、この方法を使って計算で求めた軸力と実際の軸力との誤差は、±4%以下に収まっています。M-Alpha法に関する詳細は、以下のペーパーをご覧ください。

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