ロービングハンマー試験とロービング加速度計試験の違い|モーダル解析で失敗しない測定設計のコツ

ロービングハンマー試験(入力点を動かす)とロービング加速度計試験(応答点を動かす)は同じに見えて、取得できるFRFが変わる場合があります。違い・等価条件・測定設計のチェックポイントを初心者向けに解説します。
1.ハンマーと加速度計、どちらを動かすべきか
モーダル解析の計測をしていると、よくこんな疑問が出てきます。
「ロービングハンマー試験とロービング加速度計試験って、結局どっちが正解なんですか?」
「測れるFRFの数が同じなら、結果も同じになりませんか?」
たしかに、どちらも「測定点を変えながらFRF(周波数応答関数)を測定する」という意味では似ています。
FRFには、入力点と応答点を入れ替えても理論的には同じFRFになる「相互性」という性質がありますので、
A点を叩いてB点の応答を測ったFRF=B点を叩いてA点の応答を測ったFRFという関係が成り立ちます。
そのため一見すると、どちらの測定においても同じ結果が得られるように思えます。 しかし、厳密に「どのFRFを測定しているのか」を掘り下げていくと、両者は同じにも違うものにもなりえます。
この記事では、なるべく計算式による導出は避け、専門用語をできるだけ噛み砕きつつ、
- ロービングハンマー試験とロービング加速度計試験の違い
- 「同じ結果」にならない典型パターン
- 「同じデータ」になる条件(等価条件)
- 現場で役立つ測定設計のチェックポイント
結論
「全く同じ測定」をしているなら違いはありません。ただし現場では、入力方向や参照点の取り方の違いでFRF行列の「埋まる場所」が変わり、結果が変わることがあります。 迷ったら、「FRF行列で1列(または1行)を完全に取れているか」をチェックすると整理しやすくなります。
2.そもそもFRF(周波数応答関数)とは?
FRF(周波数応答関数)とはざっくり言うと、 「この場所をこの方向に叩いたら、あの場所がどれくらい動くかを、周波数ごとに整理した」データです。式で書くと 「FRF = 応答(加速度など) / 入力(力)」 になります。 ここで大切なのが、FRFには “方向”がある という点です。たとえば…
- 「Z方向に叩いたときのZ方向の応答」
- 「Z方向に叩いたときのX方向の応答」
- 「X方向に叩いたときのZ方向の応答」
3.ロービングハンマー試験とは(入力点を動かす)
ロービングハンマー試験は、読んで字のごとくハンマー(入力)を移動させていく方法です。 加速度計は基本「基準点」に固定し、叩く点を1点ずつ変えながらFRFを集めます。メリット
- センサー固定で準備が楽
- 小型構造・点数が少ない場合に扱いやすい
- 叩ける方向が限られると、取れる情報も限られる
- (例:Z方向しか叩いていない、など)
4.ロービング加速度計試験とは(応答点を動かす)
ロービング加速度計試験は、加速度計(応答)を移動させる方法です。 ハンマーは参照点に固定し、測る点を1点ずつ移動してFRFを集める。メリット
- 全体の応答を揃えやすく、解析が安定しやすい
- 多点の形状(モード形状)を描きやすい
- 固定入力点が「節(ほぼ動かない点)」だと、応答が出にくい場合がある
5.「同じに見えるけど違う」典型例:多チャンネル+3軸センサー
昨今は多チャンネルFFTやDAQが汎用的な機器となり、計測の現場では以下のような試験セッティングがよく見られます。- 4ch計測(入力1ch + 3軸加速度計3ch)
- ハンマー入力:Z方向のみ

セットアップ ①:3軸加速度計を固定、ハンマーだけ動かす(Z入力のみ)

- 3軸加速度計は 点9 に固定(X/Y/Z応答を同時取得)
- ハンマーは 点1~点9 をZ方向で叩いて回る
次に、ポイント2をz方向に衝突させると、応答は9x、9y、9zで測定されます。このFRFのセットは9x/2z、9y/2z、9z/2zです。すると集まるFRFは、イメージとして
- 9x/1z、9y/1z、9z/1z
- 9x/2z、9y/2z、9z/2z
注目ポイント:FRF行列の「行が部分的に埋まる」
このセットアップで埋まるのは、ざっくり言えば 点9のX/Y/Z応答に関する情報の一部(しかもZ入力に対してのみ)です。 つまり、もし構造が
- X方向に入力したときにZが大きく動く
- Y方向入力で強く出るモードがある
セットアップ ②:ハンマーを固定、3軸加速度計を動かす(Z入力のみ)

- ハンマーは 点9 をZ方向で入力(固定)
- 3軸加速度計を 点1~点9 に移動してX/Y/Z応答を測る
- 1x/9z、1y/9z、1z/9z
- 2x/9z、2y/9z、2z/9z
注目ポイント:FRF行列の「列がまるごと埋まる」
このセットアップでは、FRF行列の **1列(参照入力に対する全応答)**が埋まるため、 構造全体の応答を「一通り説明できるデータ」が揃いやすいのが特徴です。
※ただし、参照入力点(点9)がモードの節に当たると応答が出にくいことがあるため、参照点の選定は重要です。
6.結局ハンマーと加速度計、どちらを動かしても同じなの?
結論:「同じFRFを測っているなら」同じ。ただし… 「FRF行列の埋まり方が違うなら」同じになりません。 取得するFRFのデータ個数は同じ場合でも、中身として「どの行/どの列を取ったか」でFRFの持つ意味が変わります。
「同じデータ」にする方法(等価条件)
ここからは実務で役立つ話です。 2つのセットアップを同じデータ(等価)に近づける方法は主に2つあります。
方法 1:入力方向を増やす(X/Y/Zで励振)
セットアップ ①
(ロービングハンマー)であれば、 Z方向だけでなく X/Y/Zの3方向で入力することで、 FRF行列の情報を増やせます。
セットアップ ②
(ロービング加速度計)でも同様に、 参照点で X/Y/Z入力を行えば、列情報が増えてより等価になります。
方法 2:少なくとも「1行」または「1列」を完全に取る
迷ったらこれが鉄板です。- “参照点に対する全応答”(= 1列を完全に)
- “参照応答に対する全入力点”(= 1行を完全に)
7.実務での選び方:どちらを採用するのが適切か?
ロービング加速度計が向いているケース- 多点のモード形状をしっかり描きたい
- 解析の安定性を優先したい
- 測定点が多く、FRF行列を「列」で揃えたい
- センサー固定で手早く進めたい
- センサー移動が難しい(高温・狭所・危険区域など)
- 小規模で点数が少ない
8.失敗しやすいポイント(チェックリスト)
実務の「あるある」をまとめます。ポイント 1:入力方向は足りているか?
- Z方向の入力だけで十分な構造か?
- 不安ならX/Y/Z入力を追加する
ポイント2:参照点(ハンマー入力部)は節(ノード)になっていないか?
- 応答が出ない→FRFを測れない可能性
- 信号/ノイズ比(S/N比)低下の要因
- 事前に軽く叩いて確認する、FEMがあれば参照する
ポイント3:座標系(XYZの向き)は全点で統一されているか?
- 取り付け方向がバラバラだと、モード形状が崩れて見える
ポイント4:ケーブルやセンサー質量の影響は?
- 小型・軽量構造では、センサー質量が特性に影響することで、伝達関数波形が歪むことがある。
9.まとめ
モーダル試験は「計画が8割」と言われます。 ロービングハンマー試験とロービング加速度計試験は、“同じFRFを取れているなら”本質的に同等です。 一方で、多チャンネル化や3軸計測が一般的になった昨今では、見た目のFRF本数が同じでも、FRF行列の埋まり方が違うことで、解析結果に差が出るケースがあります。 だからこそ、計測前に一度だけでいいので、
- どこを参照にするか
- どの方向で入力するか
- (FRF行列の)どの行/列を埋めるつもりか
最後に、現場で役立つ合言葉をひとつ。
「考えるのはオプションではない(Thinking is not optional!)」 測定設計のひと手間が、後工程の手戻りを大きく減らしてくれます。
よくある質問(FAQ)
構造・設備・安全性・点数によって変わります。多点形状を重視する場合はロービング加速度計が採用されやすく、準備の簡便さを優先する場合はロービングハンマーが選ばれやすいです。
本数が同じでも、FRF行列のどの位置(行/列)を取っているかで意味が変わります。特に入力方向が限定されていると差が出やすいです。
可能なら、主要モードで「節になりにくい」位置を選びます。事前に軽く叩いて応答が出るか確認し、必要に応じて参照点を変えます。
必須ではありません。目的によっては1軸で十分なこともあります。ただし連成を見たい、方向性を評価したい場合は3軸が有利です