腐食測定の基礎

1.分極測定  
はじめに

多くの腐食現象は電気化学反応の観点から説明できます。すなわち、これらの現象の研究に電気化学的手法を用いることが可能です。綿密に制御された条件下で電流と電位の関係を測定することにより、腐食速度、皮膜の形成、不動態化、孔食傾向、およびその他の重要な情報を得ることができます。

アノード分極は、電流と電位の関係で表される金属試料の特性です。試料の電位を正の方向にゆっくり掃印すると、試料はアノードとして作用し、これによって腐食または酸化皮膜の形成が進行します。これらの測定を基に、水溶液環境における金属試料の腐食特性を特定できます。試料の完全な電流-電位曲線は、数時間、場合によっては数分で測定することが可能です。

試料の不動態化傾向や試料に対する阻害剤または酸化剤の効果は、この手法で容易に調査できます。これにより得られる知識を踏まえ、合理的根拠に基づいてさまざまな金属や合金の腐食特性を比較し、さらに長期にわたる試験に適応可能な試料と環境の組み合わせを確保することができます。

 

 

電気化学的原理と分極測定

金属試料を腐食性媒体に浸漬すると、試料表面で還元および酸化の両過程が起こります。通常、試料は酸化(腐食)し、媒体(溶媒)は還元されます。酸性媒体中では、水素イオンが還元されます。試料はアノードおよびカソードの両方の役割を果たし、試料表面でアノード電流とカソード電流の両方が発生します。このとき起こる腐食過程は、一般にアノード電流の結果です。

試料が腐食性溶液と接触し、試料が電流や電位を制御するような計測器に接続されていない場合、試料は(参照電極を基準とした)ある電位を帯びます。この電位を腐食電位ECORRと呼びます。試料がECORRのときは、試料表面にアノード電流とカソード電流の両方が存在しますが、これらの電流の大きさは正確に等しいため、正味電流は測定されません。このとき、試料は環境と平衡状態にあります(明らかに腐食が進行している場合も同様です)。ECORRは、酸化速度と還元速度が正確に等しいときの電位として定義できます。

ここで、試料がECORRのときにも電流の両極性が存在することに改めて留意してください。試料がECORRよりわずかに正に分極した状態では[1]、カソード電流が低下してアノード電流が優位となります。試料の電位をさらに正の方向に移行すると、カソード電流成分はアノード成分に対して無視できる程度になります。アノード電流およびカソード電流と分極の大きさには数学的関係が存在しますが(参考文献2および3)、この関係については本書の範囲外です。明らかに、試料が負の方向に分極した場合は、カソード電流が優位になり、アノード成分は無視できる程度になります。

[1]この状態では、電源を使用して試料の電位を強制的に腐食電位からずらしています。この場合に測定される電流が、アノード電流とカソード電流の差異を表す正味電流です。  

実験では、電流応答を印加電位の関数としてプロットすることにより、分極特性を測定します。電流測定値は数桁にわたって変化する可能性があるため、通常は電流関数の対数値を電位に対して片対数グラフ上にプロットします。このプロットを分極曲線と呼びます。片対数表示を使用することで、プロット上に極性が現れるのを防ぐことができます。ECORRより負側の電位はカソード電流を生じさせ、ECORRより正側の電位はアノード電流を生じさせます。
図1は、430ステンレス鋼を試料とするアノード分極曲線です。電流の対数値(横軸)が印加電位(縦軸)の関数としてプロットされています。以下に、このプロットについて説明します。

図1の領域Aは活性態域です。この領域では、印加電位が正の方向に向かうに従って金属試料の腐食が進行します。Bで、腐食速度(電流で測定)の上昇が停止し、不動態化が始まります。このように特定環境条件下で化学反応性が失われることを試料の不動態化と呼びます。これは、金属表面での皮膜の形成によるものと考えられます。この点は、一次不動態化電位(EPP)と臨界電流密度(iC)の2つの座標値で特徴付けられます。領域Cでは、試料表面での不動態化膜の形成に伴って電流が急激に低下します。その後、小さい2つ目のピークが観察された後に領域Dが続きます。この領域では、電位が上昇しても電流はほとんど変化しません。領域Eでは、不動態化膜の破壊が始まります。この領域を過不動態域と呼びます。



  図1: 430ステンレス鋼の標準的なアノード分極曲線

図1のようなアノード分極曲線から以下のような情報が得られます。
  1.  特定媒体中での金属の自然不動態化能力
  2.  試料の不動態状態が維持される電位領域
  3.  不動態域での腐食速度
 

以下の説明では、活性態から不動態化への移行挙動を示す金属類を扱います。試料が不動態化するかどうかは、それぞれのアノード分極曲線とカソード分極曲線の形状とその交差状態によって決まります。このことは、これらの概念を図2のように図で表すと分かります。

図2A、2B、および2Cは、「理論的」なアノード分極曲線(ラベルa)に、3本の「理想的」なカソード分極曲線(ラベルcで示す斜線)を重ね合わせた例です。各カソード曲線は、それぞれ交換電流密度が異なる単一の還元過程(水素発生など)を表しています。実際には、これらの曲線は理論的なものです。これは、腐食電位より正側の領域では試料が正味のアノード特性を持つことから、この電位領域でカソード曲線を単独で測定することができないからです。同様に、ECORRより負側の電位でアノード性能を単独で測定することもできません。これらの図で、それぞれのアノード曲線とカソード曲線の交点、すなわちアノード電流とカソード電流が正確に等しくなる点がECORRに相当します。前述のとおり、ECORRの近辺では、試料に両方の電流が存在しますが、実験で測定できるのは正味電流のみです。正味電流で測定できる極性は正または負のいずれかであり、ECORRで測定される正味電流は正確に0になります。




図2: 活性態から不動態への遷移挙動を持つ金属の理論的な分極曲線と実際の分極曲線
 

図2D、2E、および2Fは、それぞれ図2A、2B、および2Cを実験で求めた曲線です。ここでは、理論的なグラフと実際のグラフの各ペアについて個別に説明していきます。

図2Cのようにカソード曲線とアノード曲線が不動態域でのみ交差している場合、金属は自然に不動態化します。このような挙動は、酸化剤を含有する酸性溶液中でステンレス鋼やチタンで見られます。これは金属の構造的観点では最も望ましい状況であり、還元分極曲線と交差しないよう臨界アノード電流密度を十分に小さくすることができれば、不動態化の促進が最も容易です。実験で得られた図2Fには、活性態から不動態への遷移を示すピークが現れていません。これは、すでに試料が完全に不動態化していたためです。

図2Aのようにカソード曲線とアノード曲線が活性態域で交差している場合、試料が他の実験条件下で不動態化する場合でも、試料の腐食が急速に進行します。この挙動は、脱気された希硫酸または希塩酸中のチタンで見られます。図2Dは、理論的な図2Aに対応する実験結果です。この図には、2Aのアノード部とよく似た形状が現れています。これは、図2Aの下部で分極曲線が交差し、アノード部が優位となっているからです。不動態域に2つ目のピークが現れることを除き、430ステンレス鋼に関する図1が図2Dの形状と一致していることは明らかです。

カソード曲線とアノード曲線が図2Bのように交差している場合、試料は、高い腐食速度または低い腐食速度のいずれかを示すことが考えられます。このような挙動は、脱気硫酸中のクロムまたは希硝酸中の鉄で見られます。図2Bには、活性態域、部分的な活性態域、および不動態域に交点があります。これに対する試料の分極曲線の測定結果が図2Eです。この図では、ピーク状の活性態から不動態への遷移が起こった後に、「カソード」電流ループが観察されています。アノード曲線とカソード曲線が部分的な不動態域で重なる場合は、複数のループが観察されることもあります。実際、試料だけでは、アノードとカソードのどちらとして作用するのか、またはその両方として作用するのかは分かりません。この挙動を示す金属は、不動態化すると考えられる表面が不動態化膜の傷またはその他メカニズムによって活性態化する可能性があるため、望ましくありません。いったん活性態化した表面は、再び不動態化せず、腐食が進行して金属が完全に破壊される可能性があります。

ここで、分極曲線をどのように操作すれば、図2Fに示す望ましい曲線が得られ、試料が自然不動態化するかについて考えてみましょう。これは、臨界アノード電流密度iCがカソード分極曲線より低くなるように条件を調整することによって行えます。すなわち、以下の操作を行います。



  1.  臨界アノード電流密度が小さい合金物質を選択します。
  2.  図2Dの挙動を示す試料が図2Fの挙動に変わるように十分な量の酸化剤(Fe3+、Cu2+、
    CrO4 2-など)を添加します。
  3.  媒体の流れに接触する金属の速度効果を利用し、拡散律速下で腐食が進行するようにします
    (詳細については、参考文献2を参照)。
 

このように、分極測定を活用することで、金属と環境の望ましい組み合わせを素早く特定したり、金属が特定の環境にさらされたときにどのような挙動を示すかを予測したりできます。また、液体環境からの積極的な攻撃に対する試料の自己防御能力を素早く突き止めることが可能です。ただし、本書で説明する手順では、人工的な方法によって試料を腐食させていることに留意してください。この手法は、昇温研究において動力学的な律速過程または老化過程を人工的に加速させるようなものです。そのため、これらの手順は、試料の長期的挙動の予測には役立ちますが、他のメカニズムが作用する可能性のある長期的研究に置き換わるものでは決してありません。
 

2.分極抵抗
はじめに

電気化学的手法による分極抵抗の測定は、絶対腐食速度を測定するために使用されます。一般に、分極抵抗はミリインチ/年(mpy)の単位で表され、非常に短時間(通常は10分未満)で測定できます。多くの場合、分極抵抗から得られる腐食速度と標準的手法により求めた重量損失とを綿密に関連付けることができます。分極抵抗は「線形分極」とも呼ばれます。

 

分極抵抗

分極抵抗測定は、腐食電位ECORRに非常に近い電位範囲を掃印することにより行います(図3を参照)。一般に、この電位範囲はECORRから±25mVです。電流の測定結果を電位に対してプロットしたものを図4に示します。腐食電流iCORR[2]とプロットの勾配には、以下の式に示す関係があります。

  [2]本書では、「i」は電流を表し、「I」は電流密度を表します。


           ΔE/Δi = 分極抵抗曲線の勾配。ΔEの単位はボルト、Δiの単位はμAです。勾配は抵抗、
         すなわち分極抵抗の単位を持ちます。
     βAβC  = アノード・ターフェル定数とカソード・ターフェル定数(ターフェル曲線から求めたもの。
         「ターフェル曲線」を参照)。電流10倍あたりのボルト数で表されます。
     iCORR = 腐食電流(μA)

式(1)を変形します。

   


以下の式により、腐食電流と腐食速度を直接関連付けることができます。

   

      E.W. = 腐食種の当量(g)
      d = 腐食種の密度(g/cm2)
      ICORR = 腐食電流密度(μA/cm2)

式(3)の導出については、本書の「ターフェル曲線」を参照してください。腐食電位および腐食電流の詳細については、「分極測定」および「ターフェル曲線」を参照してください。


       図3: 腐食抵抗の励起波形


      図4: 実験による分極抵抗の測定結果


 

電気化学的腐食理論と分極抵抗

Stern氏およびGeary氏15により、分極抵抗測定に関する確固たる理論的背景が提示されています。このセクションでは、その導出についてまとめます。詳細については、原文献を参照してください。

腐食系では、以下の2つの電気化学反応が共存します。

   

ここで、Mは腐食金属、Zは一般に溶液中の種を表します。このような混合共役系における電流と電位の関係を図5 16に示します。式(4)および(5)の各共役物質の平衡電位をそれぞれEEQ,MおよびEEQ,Zとします。腐食電位がEEQ,MおよびEEQ,Zから十分に離れている場合、腐食電位では、M+の還元速度がMの酸化速度に対して無視できる程度になり、Zの酸化速度は、Z+の還元速度に対して無視できる程度になります。すなわち、腐食電位は、Mの酸化速度(電流iO,Mにより定義)とZ+の還元速度(電流iR,Zにより定義)が等しくなる電位と言えます。ここでは、「速度」と「電流」は、式(3)により正比例しているため、相互に置き換え可能です。正味電流は酸化電流と還元電流の差異であるため、腐食電位では、外部装置による電流測定値が0になります。

   

また、

   

腐食速度を計算するには、iCORRを特定する必要があります。


図5: 2つの電気化学反応から成る混合電極系における電位と電流の関係

ポテンショスタットなどの外部電源から金属試料に電位を印加すると、以下の式に従って電流が流れます。

   

アノード電流とカソード電流は、以下のターフェル式に従います(「ターフェル曲線」を参照)。

   

     η = 過電圧、試料への印加電位と腐食電位の差異
      (η = EAPP – ECORR)


式(9)および(10)を変形すると、以下の式が得られます。

   

log x = yは10y = xと同義であるため、式(11)および(12)は以下のように書き換えることができます。

   

式(13)および(14)を式(8)に代入すると、以下の式が得られます。

   

10xは、以下のように、べき級数で近似できます。

   

この級数のxが小さい場合、級数の第3項以降の項を無視しても大きな誤差は生じません。xにη/βAおよび-η/βC を代入すると、以下の式が得られます。

   

式(17)および(18)を式(15)に代入して簡約すると、以下の式が得られます。

   

分極抵抗を求めるために変形すると、以下のようになります。

   


これは式(1)とまったく同じです。

式(16)に関する仮定が有効な場合、すなわちη/βが小さい場合のみ、式(20)が有効なことに留意してください。つまり、ηはβに比べて小さくなければなりません。βの標準値は100mV/decadeです。この場合の過電圧は10mV未満でなければなりません。
 

 

備考

分極抵抗は、非常に素早く腐食速度を求めることのできる手段です。掃印速度が0.1mV/秒の場合、電位範囲50mVを10分未満で測定できます。このように短時間での測定が可能なことから、分極抵抗は、阻害剤の定性的評価など高い厳密性が求められない実験にも役立ちます。

また、印加電位が腐食電位から大幅に離れることがないため、実験によって試料表面に大きな影響は及ばず、通常は同じ試料を他の研究に再利用できます。
最高精度の結果を得るには、ターフェル曲線からターフェル定数βAおよびβCを個別に求める必要があります(「ターフェル曲線」を参照)。測定時間をさらに短縮するために、ターフェル定数の値を仮定することも可能です。一般に、ターフェル定数は0.1V/decadeの範囲内になります。Pourbaix氏17により、βAおよびβCを0.1V/decadeと仮定した場合、腐食速度の計算値が2.2倍以内で正しくなることが分かっています。多くの場合、同様の化学系に関する文献からさらに正確なターフェル定数を推測できます。

実験では、分極抵抗データに、腐食電位10~20mVの範囲で大きな曲率が示されることがあります。この線形性からのずれは、理論的に認識されています。この現象および腐食電流の計算手順の詳細については、参考文献18~23および33を参照してください。
 

 

3.ターフェル曲線
はじめに

現在、電気化学的手法による腐食測定は、主に測定を短時間で行えることから、腐食に携わるエンジニアに広く利用されつつあります。重量損失の決定など長期的な腐食研究には、完了までに数日から数週間かかりますが、電気化学的実験なら長くても数時間あれば十分です。このように高速な電気化学的測定は、特に腐食抵抗の高い金属や合金に有効です。

このセクションでは、ターフェル曲線を用いた腐食速度の測定について取り上げます。また、ターフェル曲線について電気化学的腐食理論の観点から説明します。
 

 

ターフェル曲線

ターフェル曲線は、図6に示すように、金属試料を、腐食電位ECORRからアノード側(正の方向の電位)およびカソード側(負の方向の電位)に約300mV分極させることによって求めます。電位を掃印する必要はありませんが、必要に応じて階段波形で「ステップ状に変化」させることができます。これにより得られる電流を、図7に示すように対数目盛りにプロットします。

このターフェル曲線を基に、図7に示すように曲線の線形部をECORRまで外挿することにより、腐食電流iCORRを求めます。腐食速度は、このiCORRを使用して式(3)から計算できます。


     図6: ターフェル曲線の励起波形

    図7: 実験により測定されたターフェル曲線
 

アノードまたはカソード・ターフェル曲線は、以下のターフェル式で表すことができます。

   

     η = 過電圧、試料の電位と腐食電位の差異

     β = ターフェル定数

     iCORR = 過電圧ηにおける電流(μA)


式(21)を変形すると、以下の式が得られます。

   

この式はy = mx + bの形式になっています。すなわち、ηとlog iの関係を示すプロットは、勾配βの直線になります。式(22)より、η = 0 (ECORR)のときは、log i/iCORR = 0またはi/iCORR = 1またはi = iCORRになります。

ターフェル曲線のアノード部とカソード部の両方について、ターフェル定数βAおよびβCを計算する必要があります。ターフェル定数の単位はmV/decadeまたはV/decadeです。この単位は、電流10倍ごとの電圧を表します。ターフェル定数の計算を図7に示します。これらのターフェル定数を使用して、分極抵抗データから腐食速度を計算します(「分極抵抗」を参照)。

 

腐食電流からの腐食速度の計算

ファラデーの法則より、以下の式が得られます。

   

      Q = クーロン量

      n = 電気化学反応に関与した電子の数

      F = ファラデー定数、96,487クーロン

      W = 電気活性種の重量

      M = 分子量


式(23)より、以下の式が得られます。

   

当量= M/n、Q = itであるため、

   

ファラデーの法則より以下の式が得られます。

   


W/tは腐食速度(C.R.)です(g/秒)。便宜上、腐食速度はミリインチ/年(mpy)単位で表されます。これらの単位は侵食度を示します。

式(24)を電極面積および密度で除算すると、以下の式が得られます。

   


秒を年に、センチメートルをミリインチに換算します。
ファラデー(アンペア-秒/当量)をマイクロアンペア単位に換算します。

   


項i/Aを電流密度で表します。すべての定数をまとめると、以下の式が得られます。
 

  

      ICORR = 腐食電流密度(μA/cm2)

      E.W. = 腐食種の当量(g)

      d = 腐食種の密度(g/cm3)


式(25)を使用して、ICORRから腐食速度を直接計算できます。

 

電気化学的腐食理論とターフェル曲線

混合電位理論26によると、すべての電気化学反応は2つ以上の酸化還元反応に分けることができ、反応中に電荷が蓄積することはありません(後で混乱しないようにするため、この電気化学反応が外部印加電位のない状態で起こっていることに注意してください)。すなわち、腐食系では、金属の酸化(腐食)と溶液中の特定種の還元が同じ速度で進行し、測定可能な正味電流は0になります。

   

金属または合金を溶液に接触させると、金属と溶液の性質に応じて、金属はある電位を帯びます。この「開回路」電位、すなわちセルに外部電位が印加されていないときの電位を腐食電位ECORRと呼びます。ECORRは電位差計[3]で測定します。

[3]電位差計には、電圧測定中に電流は引き込まれません。


腐食現象を理解するには、腐食電位における酸化電流と還元電流が等しく、また0ではないことを認識しておくことが不可欠です。残念ながら、式(26)に示すように、測定できるのはその合計電流のみで、正味電流は0です。

腐食のメカニズムは、均一化学系より大幅に複雑です。複数の元素が存在するだけでなく、各元素の複数の化合物が存在したり、これらの化合物が腐食過程で形成される可能性があります。また、表面効果についても考慮する必要があります。この理由から、腐食速度の測定は、金属または合金中の元素に関して非特異的でなければなりません。たとえば、重量損失を決定して速度を測定する場合、腐食種が実際には何であるかを仮定する必要がありません。

電気化学的手法では、腐食電位における酸化電流を特定することにより、腐食速度を測定します。ここで、酸化電流を腐食電流iCORRと呼びます。これにより、式(21)は以下のように書き換えることができます。

   


電流の単位はクーロン/秒です。前のセクションで示したように、ファラデーの法則により、クーロン量は電気活性物質の重量と同等に扱うことができるため、腐食電流を腐食速度に直接関連付けることができます。実験でターフェル曲線を測定してiCORRを求め、この値から腐食速度を計算します。

 

Stern-Geary法

現代の腐食手法の多くは、Stern氏およびGeary氏15が提唱した分極曲線形状の理論的分析に基づいています。以下に、これがどのように導き出されたかについて簡単に説明します。詳細については、原論文を参照してください。

ZおよびZ+を含有する、平衡状態にある単純な非腐食系(Cu2+溶液に接触している銅電極など)では、以下の式が成り立ちます。

   

また、以下の式も成り立ちます。

   

     iR,Z = Z+の還元電流

     iO,Z = Zの酸化電流

     iEX = 交換電流(腐食系におけるiCORRに相当)


外部電源から金属に電位をかけ、活性化エネルギーを必要とする緩慢な化学的段階によって反応速度を制御した場合、以下のようになります。

   

     η = 過電圧、試料への印加電位と腐食電位の差異
       (η = EAPP – ECORR)

     β’およびβ” = 定数


式(29)および(30)の対数をとり、ηについて解くと、以下の式が得られます。

   


ここで、βC = 2.3β’、βA = 2.3β”です。

式(31)および(32)は、1904年に水素過電圧を電流密度の関数として表すために同様の形式の式を提唱したJ. Tafel氏の名前からターフェル式と呼ばれます。27

この反応の平衡状態を外部印加電位によって分散させると、図8に示すように、順方向と逆方向の反応速度が変化します。ここでは、交換電流を1μA、ターフェル定数を0.1Vとして仮定しています。図8は、式(31)および(32)を基に作成されています。実験では、合計電流のみが測定されます。合計電流は、酸化速度と還元速度の差異です。

   


図8では、印加電位が-0.10Vの場合、還元速度は10μA、酸化速度は-0.1μAです。すなわち、測定される電流は9.9μAになります。


図8および式(33)より、明らかに、EAPPとECORRの差異が負の方向に大きくなるほど、iMEASはiR,Zに近づきます。

式(14)を式(12)に代入すると、以下の式が得られます。

   

ηとiMEASの対数の関係を示すプロットを図9に示します。線形のターフェル挙動からのずれが低電流レベルで生じています。すなわち、真のターフェル関係が成り立つのは、酸化電流が還元電流に対して無視できる程度になった場合のみです。


   図8: 外部印加電位に対する還元-酸化系の応答

   図9: 外部印加電位の関数として表した測定電流
 

これまでに説明した関係は、活性化過電圧にのみ左右されます。実際の測定は、濃度分極効果と抵抗降下効果という相互に干渉し合う2つの現象により複雑化する可能性があります。

濃度分極は、反応速度が高いために、電気活性種が十分な速度で電極表面に到達できないか電極表面から除去できない場合に起こります。この場合、反応速度は拡散律速になります。図10は、実験における濃度分極効果を示しています。ηが大きくなるほど、電流が拡散律速になり、電流の線形範囲が狭まります。濃度分極効果は、溶液を撹拌することで最小限に抑えることができます。

溶液全体で抵抗降下が生じた場合にも、ターフェル挙動が高電流レベルで非線形になる可能性があります。

   

RSOLNは溶液の非補償抵抗、すなわち作用電極と参照電極のブリッジ・チューブ間の抵抗です。この抵抗は、電極の形状によって異なります。iMEASが上昇し、EiRが上昇すると、作用電極の真の電位に誤差が生じます。

図10: 印加電位の関数として表した、測定電流に対する濃度分極効果


濃度分極効果と抵抗降下効果は、iE,X (またはiCORR)が大きく、ターフェル挙動の検証に高電流を必要とする場合に顕著になります。一般には、2桁分の電流にわたって線形性が保たれることが望ましいですが、そのためには1000 iCORRの領域で電流を測定する必要があります。

腐食系では、状況はさらに複雑になります。前に取り上げた以下の反応に加え、

   

腐食金属についても考慮する必要があります。

   

これらの系には、それぞれ平衡電位、交換電流、およびターフェル勾配があります。腐食電位では、以下の式が成り立ちます。

   


このような混合電極系における電位と電流の関係は図5に示したとおりです。図5では、Mのターフェル定数として0.06V、MのiEXとして0.1μAが割り当てられています。Mの平衡電位は、独断的にZの平衡電位に対して-0.160Vの電位として仮定されています。

定義により、腐食速度はiO,M - iR,Mです。式(35)を変形し、iR,Z – iO,Zとして定義することも可能です。混合電極系の腐食電位と個々の反応の平衡電位との差異が十分にある場合、iR,MおよびiO,Zは、それぞれiO,MおよびiR,Zに対して無視できる程度になります。すなわち、腐食速度iCORRはiO,MまたはiR,Zと等しくなります。図5に示すように、腐食電位はiR,Z = iO,Mにおける電位でほぼ近似されます。

混合電極系における濃度分極および抵抗の全体的影響を図11に示します。ターフェル・パラメータは図8および10のものと同じです。非補償抵抗は10Ωとして仮定されています。図11の曲線を計算するために使用したパラメータは、完全に独断によるものです。実際の測定では、良くも悪くもこれとは異なる結果が得られる可能性があります。腐食電流が高く、拡散があまり律速されず、かつ溶液抵抗が高い場合は、ターフェル領域が狭まり、iCORRへの外挿が非常に難しくなることがあります。多くの場合、非線形のターフェル挙動は、溶液の撹拌および計測器によるiR効果の補償により、最小限に抑えることができます。

図11: 印加電位の関数として表した、混合電極系における測定電流に対する濃度分極効果と抵抗効果の影響

 

備考

ターフェル曲線では、腐食電流を直接測定し、これを腐食速度に関連付けることができます。この手法は、重量損失測定より大幅に短時間で済みます。ターフェル曲線から得られたターフェル定数βAおよびβCを分極抵抗データ(「分極抵抗」を参照)と組み合わせることにより、腐食速度を計算できます。

ターフェル曲線を用いた短時間での腐食速度の特定は、阻害剤の評価、酸化剤の効果、合金の比較などの研究に有益です。

ただし、ターフェル曲線が実験的なデメリットを伴うこともあります。ターフェル曲線は、非常に短時間で行える測定手段ですが、分極抵抗の測定(「分極抵抗」を参照)では、さらに時間を短縮できます。掃印速度が0.1mV/秒の場合、掃印範囲250mVのターフェル曲線を得るために必要な時間は約45分です。これをアノード方向とカソード方向について行う場合は、約2時間かかることになります。

ターフェル曲線に関連する電位範囲が比較的広い場合、試料表面の荷電による効果が生じるため、完全なターフェル曲線を得るために2個の試料が必要になります。

「ターフェル曲線」で説明したとおり、濃度分極とiR降下が組み合わさり、線形領域が狭まってiCORRへの外挿が困難になる可能性があります。一般に、信頼性の高いiCORRの測定を行うには、少なくとも電流1桁分にわたる線形領域が必要と考えられています。

実験では、アノードおよびカソードの線形ターフェル領域を外挿しても、ECORRで交差しないこともあります。この場合の真の腐食電流値は、どのように解釈するかによって決まることになります。ECORRにおける酸化速度と還元速度は等しくなければならないことから、このような状況では、測定誤差の原因となっている干渉を考慮する必要があります。多くの場合、誤差はアノードの測定で生じます。金属試料の腐食が進行すると表面が変化するため、「ターフェル曲線」に示した式で腐食メカニズムを完全には表すことができない可能性があります。この場合、測定されたターフェル曲線に複数のターフェル勾配の組み合わせを反映させることができます。この挙動が観察された場合、カソード・ターフェル曲線の外挿がECORRと交差する点でiCORRを測定するのが最も安全でしょう。
 

 

参考文献

追加情報を参照できるように、いくつかの参考文献を記載します。参考文献24は、Electrochemical Techniques for Corrosionシンポジウムで提供された資料を集めたものです。腐食の電気化学的研究の理論的および実際的な背景を理解する場合に参照することを強くお薦めします。参考文献33には、ASTM推奨の電気化学的腐食測定手法が記載されています。

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30.  “Corrosion Engineering”, M. G. Fontana and N. D. Greene, McGraw-Hill, New York (1976).
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32.  1980 Annual Book of ASTM Standards, Part 10, American Society for Testing and Materials, Philadelphia, PA.
a.  G1 – Rec.Practice for Preparing, Cleaning and Evaluating Corrosion Test Specimens.
b.  G3 – Rec.Practice for Conventions Applicable to Electrochemical Measurements in Corrosion Testing.
c.  G5 – Rec.Practice for Standard Reference Method for Making Potentiostatic and Potentiodynamic Anodic Polarization Measurements.
d.  G15 – Def. of Terms Relating to Corrosion and Corrosion Testing.
e.  G46 – Rec.Practice for Examination and Evaluation of Pitting Corrosion.
f.  G59 – Practice for Conducting Potentiodynamic Polarization Resistance Measurements.
g.  G61 – Practice for Conducting Cycle Potentiodynamic Polarization Measurements for Localized Corrosion.
33.  “Electrochemical Corrosion Testing”, Special Technical Publication 727, ed. by F. Mansfield and U. Bartocci, American Society for Testing and Materials, Philadelphia, PA.