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オーミックドロップ(IRドロップ)

I-はじめに

標準の3電極セットアップにおける電圧降下の配置
図1:標準3電極接続時のオーミックドロップ
(V:ポテンショスタットによって印加される電位、
E:電極における電位、RΩI:オーミックドロップ)
オーミックドロップ(IRドロップ)とは、物質を通り抜ける電子の流れによる過電圧のことです。
電気化学では、電解液または、界面フィルムやコネクタなどの他の界面(図1)の抵抗によって誘発される電位を示します([1])。

ボルタンメトリの場合、
オーミックドロップが存在すると、
印加電位は次の式によって表されます。


Eiは分極電位、vbは掃印速度、tは時間です。

本項で示すように、オーミックドロップは測定したIV曲線の形状に影響を与え、得られた結果の分析の際に誤差の原因となります。
いくつかの電気化学的手法におけるオーミックドロップの影響を取り上げます。
 

Ⅱ-定常状態

オーミックドロップは、ボルタンメトリ測定の形状に影響を与えます。
注意:オーミックドロップの影響は超高速掃印試験では重要な要素となり、注意することが必要です。〔2〕
 
Ⅱ-1. ボルタンメトリ
Voltammetry settingウィンドウ
図2:〔Voltammetry setting〕

これに関連し、図2の設定値に従って定常状態のボルタンメトリを実施します。


[Fe(CN)63-]溶液(0.6mM)とKCl(0.5M)を使用して調査を実施します。

以下のような構成の3電極セットアップを使用します。
・作用電極:白金電極(電極表面積A = 3.14mm-2)
・参照電極: 標準カロメル電極(SCE)
・対極:白金線

掃印速度と回転速度はそれぞれ、20mV/s
と2000rpmです。



 
 
drop_figure3.png
図3:[(Fe(CN)63-3-](0.6mM)およびKCl(0.1M)の定常状態の曲線
抵抗なしとWEと直列に100Ωの抵抗を追加した場合
得られた曲線を、図3に示します。


オーミックドロップの影響は図3に顕著に表われており、各電流値における両曲線間の電位差がRΩIと等しくなります。

例えば、-500μAにおいて、
抵抗を追加しない場合と追加する場合の電位はそれぞれ、150mVと98mVです。
これらより、抵抗は約100Ωです。








 
Ⅱ-2.ターフェルプロット
LP settingウィンドウ
図4:[TP Setting]

図4([3])の設定値に従い、TP曲線からターフェルプロット解析によって腐食電流を測定しようとする場合、ユーザーは注意する必要があります。


















 
drop_figure5.png
図5:定常状態の曲線
抵抗なしとWEと直列に1kΩの抵抗を追加した場合

図5のように、オーミックドロップは、
log |I|vsEweグラフの曲線に影響を与えます。
カソード、アノード領域(図5の矢印)では、1kΩの抵抗が追加された曲線は、オーミックドロップの影響により、線形性の挙動を示しません。
Tafel Fitの結果が曲線ごとに異なっているのは、そのためです。
この場合、抵抗を追加しない曲線の腐食電流(Icorr = 23nA)は、抵抗を追加した曲線の腐食電流(Icorr = 44nA)の半分です。





 

Ⅱ-3. その他の例
drop_figure6.png
図6:〔CV Setting〕
drop_figure7.png
図7:定常状態の曲線
抵抗なしとWEと直列に100Ωと1kΩの抵抗を追加した場合

抵抗の追加によって、少し奇妙な挙動を引き起こす場合もあります。

図6の設定値を使った定常状態の曲線で、Z形状の典型的なピークが得られます。

しかし、オーミックドロップをシミュレートするためにWEと直列に抵抗(例えば1kΩ)を追加すると、得られる曲線の形状が変わります。

つまり、最大電位がずれ、正負の掃引間でヒステリシスが現れます(図7)。
本現象は、この回路における特有の挙動です。


電位のずれから、オーミックドロップの抵抗値を計算することができます。

例えば、本実験において、
電位のずれは1.7V、電流の最大値は1.7mAより、1kΩの抵抗に相当します。











 

Ⅲ-インピーダンス測定

drop_figure8.png
図8:[PEIS setting]
drop_figure9.png
図9:ナイキストプロット
抵抗なしとWEと直列に100Ω と1kΩの抵抗を追加した場合
オーミックドロップは、インピーダンス測定のナイキストプロットから簡単に特定できます。

多くの場合、オーミックドロップの抵抗RΩは高周波のインピーダンスの実数部と関連しています。([4])。



実際、作用電極~参照電極間に抵抗を直列に追加すると、オーミックドロップは電気回路に置き換えることができます。([1])



図8の設定で電気化学的インピーダンス分光法(PEIS)を行い、ナイキストプロットを測定しました。

オーミックドロップをシミュレートするため、100Ωまたは1kΩの抵抗を追加します。






図9より、オーミックドロップの影響は明白です。高周波でのずれは追加した抵抗が原因です。













 

Ⅳ-非定常状態

drop_figure10.png
図10:[CV setting]
drop_figure11.png
図11: [(Fe(CN)63-](0.6mM)およびKCl(0.1M)のCV曲線。
抵抗なしとWEと直列に100 の抵抗を追加した場合
図10の設定で、II-1で示したシステムの非定常状態での曲線をプロットしました。












図11の結果には、電位のピークと電流にオーミックドロップの影響が表れています。


電位のピークは、還元側のピークがカソード、酸化のピークがアノード側に向かってシフトしています。一方、最大電流値は小さくなります。

これら2つの変化により、ユーザーは電気化学的系が実際より遅いと誤解する可能性があります。














 

Ⅴ-結論

オーミックドロップは、電気化学における様々な測定に重要な影響を与える可能性があります。そのため、オーミックドロップの影響を最小限に抑えるために、セットアップ(接続、電極の形状など)に注意が必要です。 しかし、オーミックドロップはEIS測定による直接測定、または分極測定からシミュレーションすることで容易に測定できます。これらはEC-Labソフトウェアのテクニックで得られます。
電流遮断法とEIS法については、別のアプリケーションノートを参照ください([5])。

また、オーミックドロップの測定だけではなく、EC-LabソフトウェアおよびEC-Lab Expressソフトウェアでは、Manual IR compensation(MIR)またはIR compensation(ZIR)テクニックを使用して、その影響を補正することができます。オーミックドロップ(IRドロップ)は電気化学測定システムで測定が可能です。

Bio-Logic社の電気化学測定システムは、ポテンショスタット/ガルバノスタットと周波数応答解析器(FRA)を組み合わせ、電気化学測定に必要なサイクリックボルタンメトリー(CV法)や交流インピーダンス法等を容易に実行できるシステムです。
専用のソフトウェア(EC-Lab、ZView)で連続自動測定や等価回路モデルを用いた詳細なデータ解析などが行えます。

バイオロジック社製 ▶ポテンショ/ガルバノスタット
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参考文献

[1] Cinetique electrochimique, J.P. Diard, B. Le Gorrec, C. Montella, ed., Hermann, 1996, p. 17.

[2] Ultrafast cyclic voltammetry: performing in the few megavolts per second range without ohmic drop, C. Amatore, E. Maisonhaute, G. Simonneau, Electrochem.Comm., 2000 (2), 81–84.

[3] Traite des Materiaux, 12, Corrosion et Chimie de Surfaces des Metaux, D. Landolt, ed., Presses Polytechniques et Universitaires Romandes, 2003, p. 184.

[4] リチウム・イオン電池のEIS測定 -EC-Labソフトウェアのパラメータ調整, アプリケーション・ノート23, http://www.biologic.info/potentiostat/notes.html

[5] Ohmic Drop.II – Introduction to Ohmic Drop measurement techniques.アプリケーション・ノート28, http://www.biologic.info/potentiostat/notes.html

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