リチウムイオン電池のインピーダンス測定 EC-Lab🄬ソフトウェアのパラメータ設定

I- はじめに

ノイズやトラブルなくインピーダンスプロットを得るためには、各試験パラメータの定義に注意し、測定条件を適切に設定する必要があります。また、ソフトウェアによって思想が異なるため、測定者は使用するソフトウェアに応じてパラメータを調整しなければなりません。
本項では、EC-Lab🄬ソフトウェアを使用して正確なインピーダンス測定結果を得るための要点(接続、ケーブル長、試験パラメータ)について説明します。

II- 試験について

以下では、公称容量が10Ahのリチウムイオン電池を用いてインピーダンス測定を実施しました。EC-Lab🄬ソフトウェアのPEIS法を使用し、Eoc電位 = 3.3Vにて試験を行いました。以下に示す全てのデータは、EC-Lab🄬ソフトウェアのData Sampleフォルダ内に「battery 10Ah_Va=xmV_pw=x_Na=x_drift?_connection?_repetition?_12.mpr」の名称で保存されています。

II-1 接続について

サンプルの2電極へのケーブル接続方法には、以下の2種類があります。

(1)正極にCA2 とRef1のケーブルをまとめたものを接続、負極にCA1 、Ref2、およびRef3のケーブルをまとめたものを接続する“2端子接続”

(2)正極にCA2とRef1のケーブルを個別に接続、負極にCA1、Ref2、およびRef3のケーブルを個別に接続する“5端子接続”

正確な電位測定のためには、本接続が推奨されています。

図1より、ケーブルをまとめて接続した場合(1)は、ケーブルを個別に接続した場合(2)と比較して、インピーダンス測定結果に+2.5mΩの差異があることがわかります。
この結果から、特に低抵抗のサンプルにおいては接続方法が非常に重要であり、試験結果に大きな影響を及ぼす可能性があることがわかります。ケーブル接続による浮遊容量や抵抗を最小限に低減しなければならないのはこのためです。ケーブル接続による影響を低減するには、ケーブルを個別に、かつ可能な限りサンプルの近くに接続するのが効果的です。


図1: ケーブルをまとめて接続した場合(1)(緑色)と
ケーブルを個別に接続した場合(2)(赤色)の
インピーダンス測定結果の比較

図2: 標準ケーブルを使用した場合(赤色)と
10mのケーブルを使用した場合(青色)の
インピーダンス測定結果の比較

II-2 ケーブル長について

実験室のレイアウトや計測器の配置によっては、長いケーブルが必要になることもあります。
しかしながら、ケーブルが長いことにより、測定結果が無意味なものになってしまう場合があります。次の試験は、標準ケーブル(赤色のインピーダンス曲線)と長さ10mのケーブル(青色のインピーダンス曲線)を使用して実施しました。10mのケーブルについては、ポテンショスタットの発振を防ぐため、リファレンス端子に抵抗を接続しました。
図2より、標準ケーブルと10mのケーブルでは、インピーダンス測定結果にわずかに差異があることがわかります。長いケーブルを用いた測定の場合、サンプルによっては注意して解析を行う必要があります。

II-3 試験パラメータについて

PEIS法を用いてインピーダンス測定を実施しました(図3)。

II-3-a 印加電圧振幅Va

はじめに、印加電圧振幅Vaの値を設定する必要があります。EC-Lab🄬ソフトウェアでは、印加電圧振幅はVa(サイン波の振幅)で定義されます。Va、Vpp(peak to peak)、およびVrms(実効値)の関係式は以下の通りです。

Vaの値は、電流振幅|I|および電圧振幅|E|の値を考慮して設定する必要があります。|I|および|E|は、電流および電圧のDCレベルを中心として印加される振幅、つまりAC振幅です。EC-Lab🄬ソフトウェアでは、電流および電圧のDCレベルは<I>および<E>で表されます。正確なインピーダンス測定結果を得るためには、常に電流と電圧の線形性が保たれるようにVaの値を設定する必要があります。


図3: PEIS測定のパラメータ設定画面

図4: 以下の測定条件にて得られた
インピーダンス測定結果
Va = 0.5mV, pw = 0, Na = 1, ドリフト補正なし

ここでは、Vaの値を0.5mVに設定しました。得られたインピーダンス測定結果を図4に示します。

この測定データの質が悪い点を考察し、インピーダンス測定のために最適な電流および電流の振幅値を分析する必要があります(図5, 図6)。
電池の開回路電圧<Ewe>の値は、インピーダンス測定においては重要ではありませんが、測定中は値が維持されます。
電圧振幅|E|の値は非常に小さく、わずか数μVになっています。計測器のインピーダンス測定仕様を考慮すると、1mV未満の電圧信号はノイズと同レベルです。従って、本測定では、電圧振幅|Ewe|がノイズに埋もれていることにより、インピーダンス測定データが不正確になっていることが考えられます。
一方、電流振幅|I|の値は小さいですが、計測器の測定確度に適合しているため問題はありません。
従って、本測定で重要なパラメータは電圧振幅の値となります。ただし、サンプルによっては電流振幅も重要なパラメータとなる場合がありますので、注意してください。

以上のことから、正確なインピーダンス測定データを得るためには、Vaの値を変更する必要があります。先の測定結果から、Vaの値を大きくすることにより、より正確なインピーダンス測定データが得られると考えられます。
そこで、Vaの値を10mVに設定して得られたインピーダンス測定結果を図7に示します。
今回は電圧振幅|Ewe|の値が計測器の測定確度に適合しており、正確なインピーダンス測定データが得られました。(図8)
図9に示すように、Va = 0.5mVおよびVa = 10mVのインピーダンス測定結果を比較すると、Vaの値を増加することによる効果は明らかです。


図5: 周波数に伴う電圧振幅|Ewe|の変化

図6: 周波数に伴う電流振幅|I|の変化

II-3-b 遅延pw

遅延Pwの値を設定すると、各周波数の測定前に遅延時間を設けることができます。遅延時間は、周期に対する割合で定義します。遅延時間を設けることにより、周波数変化に伴う過渡応答が落ち着き、サンプルが定常状態に戻るまで待ってから、測定を実施することができます。本パラメータは、特に時定数の大きなサンプルで重要となります。
本項では、正確なインピーダンス測定データ(Va = 10mVのデータ)と比較することにより、遅延pwの効果を示します。Va = 0.5mVの条件でpwを0と1に設定した場合のインピーダンス測定結果、およびVa = 10mVの条件でpwを0に設定した場合のインピーダンス測定結果を図10に示します。

まず、pw = 1の条件で得られた測定結果は、pw = 0の条件で得られた測定結果に比べ、ノイズが少ないことがわかります。さらにpw = 1の条件で得られた測定結果は、Va = 10mVの条件で得られた“正確な”インピーダンス測定データとほぼ一致しています。
この結果から、pwの値を少し増やすだけで、セルの状態を乱すことなくノイズを低減できることがわかります。特に時定数の大きなサンプルでは、pwの値を大きくすることにより、このような効果が得られます。もちろん、pw値の設定により、測定時間は長くなります。
例えば、本試験でpw = 0の場合、インピーダンス測定に要する時間は6秒ですが、pw = 1
の場合は13秒を要します。


図7: 以下の測定条件にて得られた
インピーダンス測定結果
Va = 10mV, pw = 0, Na = 1, ドリフト補正なし


図8: 上: 周波数に伴う電圧振幅|Ewe|の変化
下: 周波数に伴う電流振幅|I|の変化

II-3-c 平均化回数Na

Naは、各周波数における測定の繰り返し回数であり、周波数毎にNa回分の測定データを平均化し、これを測定結果として出力します。これにより、数学的法則√Naに従ってノイズは低減されます。
以下では、Va = 0.5mV、pw = 0、ドリフト補正なし、およびケーブル個別接続の条件で、Naを1と36に設定してインピーダンス測定を実施しました。データの分散を示すため、周波数スイープは15回繰り返しました。
図11にNa = 1の条件で得られたインピーダンス測定結果を示します。各周波数において、測定ポイントが重なっていないことが確認できます(グラフを拡大すると、より明確に確認することができます)。
また、図12にNa = 36の条件で得られたインピーダンス測定結果を示します。こちらは各周波数において、測定ポイントが重なって表示されていることが確認できます。本条件では、測定データがノイズの影響を受けにくくなっていることがわかります。

II-3-d ドリフト補正

ドリフト補正は、緩和時間が非常に長いサンプルに最適な機能です。サンプルが不安定であると、理論値と比較して、インピーダンス測定値にずれが生じる可能性があります。本機能については、アプリケーションノート#17にて詳細に説明しています。


図9: Va = 0.5mVと10mVの条件における
インピーダンス測定結果の比較

図10: 以下の測定条件にて得られた
インピーダンス測定結果の比較
 Va = 0.5mV, pw = 0, Na = 1,
ドリフト補正なし(紫色)
 Va = 0.5mV, pw = 1, Na = 1,
ドリフト補正なし(青色)
 Va = 10mV, pw = 0, Na = 1,
ドリフト補正なし(赤色)


図11: 以下条件でのインピーダンス測定の
繰り返し結果
(上: 全体表示、下: 拡大表示)
Va = 0.5mV, pw = 0, Na = 1, ドリフト補正なし


図12: 以下条件でのインピーダンス測定の
繰り返し結果
(上: 全体表示、下: 拡大表示)
Va = 0.5mV, pw = 0, Na = 36, ドリフト補正なし

III- 結論

正確なインピーダンス測定結果を得るためには、上記に述べたような注意事項を考慮する必要があります。実際に、各試験パラメータが適切に設定されていないと、本項で示したように、測定結果に多大な影響を及ぼすおそれがあります。
そのため、測定を実施する前に、サンプルおよび使用するソフトウェアに合わせて、測定条件を注意深く設定しなければなりません。また、測定確度と試験時間を考慮し、最適な測定条件を見つける必要があります。
本項では、リチウムイオン電池のインピーダンス測定における注意点を示しましたが、これらは他の測定系においても活用できます。

参考文献:

[1] アプリケーション・ノート#5 (http://www.bio-logic.info/potentiostat/notes)
[2] アプリケーション・ノート#9 (http://www.bio-logic.info/potentiostat/notes)
[3] アプリケーション・ノート#17 (http://www.bio-logic.info/potentiostat/notes)